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第102話 優性劣性

稲の研究所を後にして、枝豆やキャベツの畑を見て回る。トウモロコシ畑の時もそうだったけど、やっぱり農作業は10人で1つの班のようだ。たぶん岡山で見た稲作と一緒で、班長みたいな存在がいて、男女比は同一になるよう調節しているのだろう。枝豆畑には背の低い人間が多かった。全員が140センチ台から150センチ台の人間だと思う。


「枝豆の畑はよく弄ったなぁ。最初、メンデルの法則は枝豆で実験していたし」

「その法則の証明に使えるのは枝豆では無くエンドウ豆だったと、数年間もの時間を無駄にして嘆いていたことは記録されてます」

「……何で、駄目だったところほどよく記録されているの?」

「良いところもしっかりと記録されていますよ。ただ、失敗の方が印象深いのだと思います。基本的にどんなものでも形にまで持って行ってますから」


仁美さんに過去の失敗例を言われて恥ずかしくなったが、エンドウ豆を使ってきっちりと優性の法則や分離の法則は証明したので問題は無い。……この時に、優性遺伝と劣性遺伝という言葉を使ったのが失敗だったのかな?


「劣性遺伝の劣性は、劣った性質という意味で使ったわけじゃ無いからね?」

「そのことは重々承知しています。しかし秀則さんが証明した遺伝の法則は、様々な説の起因となっており、中には秀則さんが『劣性遺伝の劣性は劣った性質という意味を込めているはず』という説まで生まれていました」

「……その様々な説には、目を通しておきたいかな。おそらく人間の遺伝についての説もあるだろうし」


とりあえず、馬鹿気た説を提唱した人物に真実を話したいと思ったら既に故人だった。……この人は母方の祖父が子供に与える影響力について研究していた人で、色々と面白い説が残っているらしい。趣味嗜好は母方の祖父に似るとか、運動神経は祖父、祖母の代の運動量に比例するとか、本当かどうか疑わしい説を大量に残していた。


「趣味嗜好は、母方の祖父に似る?彩花さんは、似ていると言っても良いか」

「私も祖父と嗜好は似ているようで、お酒は好きなのに下戸です」

「仁美さんは、今後深酔いしないよう気をつけてね」

「……わかりました」


祖父と子で、趣味嗜好が似ている説はある程度の信憑性があるようで、仁美さんや彩花さんは一致していると言っても良いし、凛香さんも愛華さんも趣味や感性の一致を認めている。細かな差異はあるけど、言われてみれば、という感じだ。


「一応、祖父からは25%の遺伝子を受け継ぐから、似るのは当然なのかも知れないけどな。……そんな遺伝子の改変しようとしていたのが、改変前の世界だよ」

「遺伝子の改変、ですか。我々の場合では、あと何年程で可能か予想出来ますか?」

「百年先でも難しいかも知れないけど、改変前の世界で遺伝子の二重らせん構造が解明されたのは1950年代だったはずだから、意外と早くに可能なのかもしれないな。

……まあ、十数年で可能にはならないだろう。最低でも30年は見積もらないといけない」


遺伝子の改変は賛否両論様々な考え方があるけど、俺は安全性の確保さえ出来れば踏み切っても良いと考えている。遠い未来の話になりそうだけど、具体的な未来予想図はあるから、もしかしたら30年も要らないかも知れない。


それまでに倫理観が育まれていないと、いきなり人でゲノム編集をしそうで怖いな。……でも人体実験をしないと、本当に遺伝子改変技術で生まれた改造人間と普通の人との子供はどうなるのか、分からない気がする。


……人体実験に関しては否定的な態度を一貫しているけど、改変前の世界ではナチスドイツが大体調べてしまっていたから人体実験をせずに済んだ、という見方をすることも出来る。毒ガス実験とかジェノサイドとか、どう考えても許容出来ない、擁護出来ないものも多いけど。


ちなみに人間がどこまで極限環境で生きていられるのか、という人体実験は今の日本でも既に結果が出ていて、色々と有意義なデータが揃ってしまっている。凍死までの時間や、餓死するまでの日数などを正確に知ることは、後を生きる人にとって重要な情報だろう。活用方法は限られているけど。




北海道にある畑や研究所の見学では、日本が進むべきだった方向性や、遺伝について色々と確認することが出来た。品種改良自体は大切な事なので、止めずに推奨しておこう。


「野菜とか他の作物も品種改良は進んでいるし、食料自給率の高さの原因と停滞の要因も理解出来たよ」

「停滞の理由とは、何でしょうか?」

「……原理を調べようとしないことや、思考するよりとにかく実験を先にする積極性かな。専門知識の偏りとか研究者の少なさとか他にも色々と原因はあるけど、大元の要因は俺だということも察したよ」


原理を調べようとしないのは、俺のせいでもあるのだろう。詳しく自分が分かっていることについては証明もして知識の譲渡をしたし、原理が分からないものについてはとにかく手を動かして模造品を作製していた。


そしていざ完成した時に、詳しい原理を俺は理解してなかったし、後々調べることも少なかった。同時並行で推し進めていたことが多すぎたのだ。一応、調べておいてと言った記憶はあるが、その手段や方法まで伝えていたことは稀だった気がする。


……原理に関しては俺も分からない分野が多いので、フランス人や最近ようやく交易が始まったロシア人の知識に期待するしかない。もう少し俺が学問に対して根っこの部分から学ぼうとしていたのなら、この世界ももっと変わっていたのかもしれないな。

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