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第100話 年収

年収について仁美さんに聞いてみたら、鉛筆を奪われて年収の項目の所には1兆円とだけ書き込まれた。この1兆円に関しては、毎年生まれる国家予算の余剰金のようなものだと説明された。それだけの国家予算を、毎年俺に渡すつもりだったのか。これは処理を担当する人が可愛そうだと思いつつ、職業の欄には現人神と書かれたので、こっそりと学生に書き直しておく。


一応、本来なら元の世界に戻って高校生活を謳歌していたはずだから間違っては無い。……もしも過去の歴史を一切改変していなかったら、未来も変わって無かったのかな。不死性に気付いた時点で50年の間、土の中か海の底で沈んでいれば良かったかもしれない。


いや、50年間もの時間を1人で過ごすのは無理そうか。そもそもあの時は、戦国の世で骨を埋めると思っていたからな。


今さらだけど、国家予算でお馬さんを買うのは良かったのだろうか?強い馬を作ろうとしていた時は国費で買っていたけど、その時とは時代が違うような気がする。


「秀則さんが選んだ子馬なら、国のお金を使ってでも保護すべき対象でしょう?」

「いや、確かに保護してくれるなら嬉しいけど、過剰な扱いとかは止めてね」


仁美さんにとっては、この子馬は選ばれた子馬なのだろう。とりあえず子馬の購入などの手続きは終わったので、これで俺は馬主ということになる。預け先は賢士さんの所で良いかな。厩舎が多くあったし、馬の調教も熱心にしていた。調教師が十数人もいるような巨大な牧場なので、1頭増えたところで問題無いだろう。


競りは時間帯ごとに区切っていたので、新しい馬が入れ替わりで入って来る。注目の馬は1億円ほどで買い取られていた。大きなレースを1つ勝ってもまだ利益が出ない金額だし、ここにずっといると金銭感覚が狂いそうだ。


「馬主って、そんなに儲かるの?」

「検査に合格したここの競りで売られているような馬なら、使い倒せば最悪でも500万円ほどは稼いできますよ。

……維持費だけで年に60万円程はかかりますが」

「……賢士さんには、改めてお金を送っておくよ」

「そのような気を遣って頂かなくても、お祖父さんなら数百億という資産があるので馬の1頭や2頭は大丈夫ですよ」


彩花さんに馬の維持費だけでも年に60万円はかかると聞き、思っていたよりも高く感じた。……でも昔の馬の世話も、それなりにお金はかかっていたから仕方のないことなのかな。というかそれだけお金があるなら賢士さん自身が馬の世話をしなくても良い気がするけど、馬が好きなのだろうか?


そのことを彩花さんに聞くと、お祖父さんは生きた馬も死んだ馬も好きだから、という返答だった。駄目な馬は自分の手で処理して食べるそうで、図太いというか、肝が座っているというか……。




8月7日になり、しばらく馬の事しか考えて無かった気がするから、畑の見学もすることにした。せっかく北海道にまで来たので、寒さに強い稲を作っているという研究所にもお邪魔しよう。彩花さんは彩花さんで用事があるそうなので、彩花さん抜きで回ることになった。


「のんびりしようと思っていても、結局は見学に行く辺り、怠惰に生きられない性分なのかなぁ」

「仕事中は休みたいと思っていても、いざ休みになると仕事をしたくなる人は豊森家に多いので、この性格に関しては確実に秀則さんの性格が受け継がれていると思います」

「ワーカーホリックを俺のせいにしないでくれ。というか仕事が本当にしんどいのなら、もう少し俺も怠惰に過ごしていたと思うけど、ただ見に行くだけだから実質休暇だ」


長期休暇の過ごし方は人それぞれだけど、豊森家の人間は仕事に没頭する人も多いそうだ。そんな人間が多いから、腐敗の無い管理社会は実現されているのだろう。仁美さんが俺のせいにしていたが、俺の血なんて420年後の仁美さん達には0.1%も入って無いと思う。


「北海道は色々な野菜も採れるから、食料の宝庫だな」

「そうですね。この季節はキャベツやレタスを始め、トウモロコシや人参も収穫の最盛期でしょう。昨日秀則さんが絶賛していた枝豆も、北海道で採れたばかりのものだと思います」

「ああ、だから昨日は枝豆が酒のつまみで出ていたのか。あの枝豆は美味しかったし……トウモロコシから見て行こうか」


8月の北海道では色々な野菜が収穫期らしいので、まずはトウモロコシ畑から見学をする。釧路から北海道の内陸部へ向かって汽車で2時間ほど揺られていると、広大な畑が幾つもあるような場所に着いた。……内陸部まで汽車で2時間もかかるのは、北海道がそれだけ広いからだ。


「仁美さんは、俺がトウモロコシを普及させたのも知っているの?」

「当然です。……当時はあまり美味しくないとの記録がありましたが、本当なのですか?」

「不味くは無かったよ?信長は美味しくないって怒ってたけど……うん、美味しくも無かったな」


トウモロコシは寒暖の激しい場所で甘くなりやすいようで、今の北海道で採れるトウモロコシは大体が甘くて美味しいとのこと。わざわざ畑まで来たので、一先ずトウモロコシをその場で買って軽く茹で、そのまま齧る。


「あまっ!」

「ここら一帯のトウモロコシは、醤油を塗って甘さを抑える食べ方が主流のようです。必要なら醤油を持って来ますが?」

「いや、醤油は要らないよ。愛華さんも食べる?」

「いただきましょう」


1590年代、俺が手間暇かけて育てては失敗を続けていたトウモロコシだけど、今の時代のトウモロコシは改変前の世界のトウモロコシに負けないほどの甘さと美味さが詰まっていた。


改変前の世界でも植物はどんどん交配させて進化をさせていたとは思うけど、俺の歴史改変のせいで交配実験の開始がかなり早まっている。メンデルの法則とか、DNAのこととか、交配実験について知っていたことは全て吐き出していたと思うし、生物分野での日本の技術力は他国より上かもしれない。


この長所を伸ばすべきか、他の分野に人員や金を回すかは悩み所だ。食糧問題についてはこの日本では無いと言っても良いぐらいだし、要らないのかもしれないけど……。


……ある程度の人員は今の研究に留まらせて、残りは微生物の分野、中でも重要な抗生物質の分野にでも集中させようかな。

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