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第99話 子馬

彩花さんの実家に来てから早数日。今日も彩花さんは競馬に行くのかと思ったら、今日は子馬の競りがあるようなのでそちらの方へ行くことになった。ちなみに馬は買っても良いそうだけど、どの馬に素質があるとか見抜ける自信は無いので買わないつもりだ。


賢士さんの馬も出品されるようだけど、評価はあまり良くない。というか賢士さん、素質が無い馬だけを放流しているからか賢士さん自身の評価が良くない。賢士さん自身の牧場主として、馬主としての評価は高いけど、それが余計に賢士さんの子馬を売れにくくしている。


「お、こいつ可愛いな」

「葦毛の馬ですね。アマゾネスカナの2019ですか」


競馬の知識が豊富な彩花さんの隣で子馬を見て回ると、可愛らしい子馬がいたので値段を見る。名前は手前の看板にアマゾネスカナの2019と書かれていた。値段の部分には、1000万以上と書かれている。


「1000万円から競りを開始するの?」

「いえ、それは牧場主の希望価格ですので、それ以下でも構わないと思います」

「……うん?」

「ここに置いてある紙に、払うことが出来る金額と名前を書いて、この箱の中に入れると入札は完了ですね」


1000万円から競りを始めるのだろうと思っていたら、単なる希望価格だった。たぶん、競りの意味が変わっているのだと思う。どんどん値段を吊り上げるような時間のかかる競りでは無くて、一発勝負の競りだ。


客は欲しい商品の前に置いてある投票箱みたいな箱に、名前と購入希望金額を書く。後は箱の中に紙を入れた客の中から、一番高い金額を書いた人に書いた通りの金額で商品が渡る。確か、この方法の競りにも名前があったはず。シークレットオークション、だっけ?日本語にすると封印入札競り、みたいな感じだった気がする。


「この子馬を買いたいのですか?」

「うん。何となく走りそうな気がするから」

「父は、2009年に10戦10勝をして話題となった白炎王ですね。……2700万円程度で買えると思います」

「それって高い方なのか?」

「高い子馬だと5000万円から1億円程度はしますから、高くは無いと思います」


彩花さんの予想金額は2700万円だから、たぶん実際に2700万円と書く人がいるのだと思う。馬主とか上級国民しか出来ないというイメージだったけど、間違ってなかったようだ。というか、馬の値段が高すぎる。……良血馬は多額のお金を生み出しやすいから、必然的に高くなるのかな。


気になった子馬の近くに置いてあった本には、この子馬の両親の成績や、そのまた両親の成績まで詳しく書いてあったから読んでみる。父親の名前は漢字だったので、漢字の名前も使われるのだろう。


「このアマゾネスカナの主な勝ち鞍フラワーカップって、俺が名付けたレースか」

「そうですね、三歳牝馬の頂点を決める優駿牝馬の前哨戦という位置づけになっています。牝馬三冠の内の1つになっています」

「じゃあ、それなりに凄い両親の息子か。気になったし、買っても良い?」

「大丈夫だと思います。仁美さんに伝えてきますね」


1600メートルのフラワーカップという賞金1億円を超えるレースで勝ち、その後も短距離で上位入賞を繰り返したアマゾネスカナという母と、10戦10勝という凄まじい成績を残して5億円以上を稼いだ白炎王という父を持つ子馬は、ちょっと悩んだ末に2800万円と書いて入札した。後は、落札の報を待つだけだ。


「父馬が怪我で現役を退いた馬なので少し不安は残りますが、良い馬だと思いますよ」

「彩花さんでも、どの馬が勝ち上がれるのかはわからないのか」

「ある程度の目星は付けることが出来ますが、正確な予想は難しいです。だからこそ、面白いと思っていますよ」


他にも様々な子馬がおり、中には一歳馬とは思えない大柄な子馬がいたり、逆に人が乗れるのか不安になるような小さい子馬もいた。会場がとにかく広いので、彩花さんの解説を聞きながら会場を見て回る。どこも箱に金額を書いた紙を入れていく方式で、イメージにある値段を積み重ねていく方法の競りは行っていなかった。


どうやら無駄に時間がかかるのと、値段の高騰が問題視され、競りの方法自体が何回も見直されたようだ。今はこの封印入札方法が主流で、メイン会場では値段が下がる方式の競りを行っていた。出品者がどんどんと値段を下げていき、一番最初に手を挙げた人が購入するという方法で、これも特殊な方法の競りだ。だけど、今の日本らしい競りだろう。


「アマゾネスカナの2019の入札が締め切られたようです。秀則さんの2800万円がトップでした」

「お、意外と早く決まったな。……俺が入札したせい?」

「いえ、2位以下は2700万円や2500万円での入札でしたので、単純に秀則さんの書いた額が一番上だっただけです。時間も規定通りですね」


メイン会場で売られていく子馬達を眺めながら仁美さんからの報告を待っていたら、思っていた以上に早く結果が出た。おそらく、締め切りギリギリに入札していたのだと思う。名前を付けないといけないことを彩花さんから伝えられたので、しばらく悩むことになった。


「カナ、カナ?」

「カナを使いたいのですか?」

「うん。だけど良い名前がなぁ……カナリアとかどうかな?」

「4文字だと被ってしまっていることも多いので、もう少し長い方が良いと思います」

「じゃあ、父が王だから……ロードカナリアで良いか」


名付けには散々悩んだ挙句、何処かで聞いたような感じの名前に決まった。ロードカナリアと書いて、馬主としての登録も行う。どうやら馬主情報もきっちりと管理しているようだ。小さめの紙に必要事項を記入途中、ある項目で躓いた。


「……年収ってどう書けば良いの?もしかしてゼロ?」


何で年収を書く必要があるのかわからないけど、俺の年収って幾らになるんだろう?

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