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第98話 万馬券

8月3日となり、朝から異様な熱気に包まれた釧路の競馬場でレースの見物をすることになった。彩花さんとも合流したけど、俺や周囲の人間の顔を見て一言、頑張りましたねと声をかけてきた。たぶん、察する能力が彩花さんに無くても同じ言葉になるぐらいには、みんなの顔がわかりやすい顔だったのだと思う。


お金は仁美さんが出してくれるので、前回の時よりも真剣に当てに行くことにする。別に当てても当てなくても、俺の使えるお金が増えたり減ったりする訳じゃないけど、今回は10万円スタートでどれぐらい増えるのか試してみよう。


あとついでに、凛香さんや愛華さんにも10万円を持たせてみた。2人とも前回の時に当てているし、一般人がどのぐらい増えるのか、減ってしまうのか、個人的に気になる。


「……3連勝や4連勝している馬が当たり前にいるんだけど」

「今日は初日なので、気合いが入っている陣営も多いですね」

「彩花さんのオススメは?」

「2-6-19です」


彩花さんは本来、出禁を食らうレベルで当てるそうなので、とりあえず彩花さんの言う通りに賭ければ軍資金が減る事は無い。そもそも賢士さんが馬券の購入を禁止されているからな。彩花さんは出禁にならないよう、少額の賭け金だけで競馬を楽しむとのこと。というか、純粋に馬が走っている姿を見るのが好きなのだろう。宴会の時も彩花さん1人だけ馬肉を食べて無かったし。


今日は10レースも行うようなので、1レース目はお金を賭けずに見学。彩花さんは2番の馬をオススメしていたけど、嫌な予感がしたので回避しておいた。レースを見る時に思ったことだけど、観客席は広い上に、人はぎゅうぎゅう詰めじゃないから、愛知の競馬場より人口密度はマシだと思う。北海道の競馬場は、釧路以外にも沢山あるし。


あの時は、三歳馬の頂点を決める戦いだったということもあるだろうけど。


「お、始まった。……距離が3400メートルもあると、結構長く感じるな」

「3400メートルは3分半程かかりますから、確かに長いかもしれませんね。」

「2周近く走りますけど、それでも私は長くは感じません」

「……負けた」


レースが始まると、怒声や歓声が五月蠅くて隣にいる仁美さんと彩花さんの声しか聞こえない。彩花さんはやっぱり馬が走っている姿を見るのが好きらしく、3分以上のレースでも長くは感じないようだ。


レース中に、2番と6番の馬が2番手3番手で良い位置にいるな、とか思っていると凛香さんが背後で負けた、という声を出した。確か凛香さんは2番の馬の単勝を買っていたはずなので、勝てそうなはずなのに肩を落としている。


「……2番の前脚、怪我してる」

「嘘!?」

「あれ、彩花さんはわからなかったの?」

「……分かりませんでした。たぶん、馬にも自覚が無いような怪我なのでしょう。ああっ!」


彩花さんが悲鳴を挙げた瞬間、2番の馬の走り方は異常になり、場内からは悲鳴や叫び声、嘆くような声が響き渡る。2番の馬は1番人気で、予想倍率は2.3倍のはず。これは大波乱だな。


2番のすぐ後ろにいた6番の馬も巻き添えを食らい、ずるずると後方に下がっていく。結果、着順は5-4-19となり、その3連単の倍率は4700倍となった。これを予想していた奴なんているのか、と思っていたら愛華さんが100円だけ賭けており、47万円を手にしていた。大穴から適当に10個選んで100円だけ賭けていたようだ。


「馬の怪我って、今の時代でもよくあることなの?」

「いえ、怪我率は秀則さんの時代より低いです。低いですが……レース中の大怪我に限定しても数年に一度は必ず起こります。特に、大跳びの馬は怪我率が高いです」

「あの2番の馬は、かなり大跳びだったか。速度が出過ぎる弊害だな」


彩花さんが結構なショックを受けているので慰めつつ、仁美さんに馬の怪我率について聞く。すると俺の時代の時よりかは低いという返答だったので、今回の件は珍しい部類に入るそうだ。大跳びという言葉は、一歩一歩が大きい、跳ねるようにして走るという意味だ。大跳びの馬はスピードが出るので、怪我をしやすいのだろう。


ちなみに彩花さんが競馬で負けたのはこれで2回目らしい。1回目の時はレース中に地震が起きて順位が滅茶苦茶になったとか。察することの天才でも、自覚の無い怪我や地震までは察することが出来ないのか。まあ、それが出来たら超能力の域だしな。




2レース目以降は本命馬や対抗馬となるような馬を軸にして馬券を買いつつ、最後までレースを見学。距離5400メートルの時は流石に馬も疲れるのか、休みを入れているような走り方だったけど、それでも5キロ以上の距離を6分弱で走り切るのは凄い。


改めて馬の進化を感じるけど、どう活用しようか。……ぶっちゃけ、日本の軍事技術の中で一番の躍進が馬だと思っているから、なんとかして活用したいという思いはある。


「右前脚の付け根を折った2番のセンエイタイショウはレース後、安楽死処置が行われました。馬主の希望で生まれ故郷に埋葬されるそうです」

「今日のレースまで、デビューから6連勝中だっけ?……使い過ぎだとは思わなかったから、大跳びの馬は長距離を走る時に注意を促すことしか出来ないな」


今日の1レース目で骨折した馬は、安楽死処置を施した後に埋めたとのこと。彩花さんが意気消沈しているが、どうやら昨日、俺と別れた後にあの馬と会っていたようだ。意気消沈していても、彩花さんはその後のレースで3連単を全て言い当てていたが。


俺は自分の勘を信じて2回だけ勝ったけど、基本的に外してばかりだったので、半分ぐらいの軍資金が消えた。最後のレースで当たってなかったら0円になっていただろう。本命馬は当たってもリターンが少ない。


凛香さんは単勝だけを買い続け、6勝4敗で10万円が90万円ぐらいに増えている。愛華さんは常に手広く買って、最初以外は基本的に負けていた。それでも愛華さんも最終的に40万円以上は手元に残しているから、俺の1人負けである。


……賭け事は基本、賭ける側になった瞬間に負けだと思っている。なので結果は気にしないようにしたいけど、やっぱり悔しいな。

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