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第7話 パンとサーカス

宿舎には銭湯があったので、入ろうとしたら男湯に親衛隊の面々がついてきた。他のお客様の目の毒になるから止めるように言うと、男湯は貸し切りだから大丈夫だと言われた。たぶん女湯も貸し切りだろうし、宿舎には一体いくら払ったんだろうか?


……当然のように凛香さんと愛華さんが一緒に入ろうとするけど、これはもう諦めた。護衛の人と言い争いしても疲れるだけだということは既に理解している。1人で入らせて溺死したら問題になるだろうし。


そしていつまで経っても見慣れない女性の裸を見て顔が赤面するまでがテンプレ。凛香さんの魅惑的な谷間を見て反応し、その下の筋肉隆々な太ももやポーズを取らなくても硬そうな背筋を見て鎮まる。あれだけの身体を作るには普段からどれだけのトレーニングをしているのだろうか。


寝る時は抱き枕回避のため、凛香さんに膝枕を頼んでみたら普通の膝枕をしてくれた。筋肉があるせいか、女の子座りでも硬い気がしたけど、昨日の抱き枕より快適に眠ることが出来た。途中、うとうとした凛香さんのお胸で窒息しかけたけど気にしない。


……寝付いた後まで続けなくて良いよと言うと、大丈夫だと返答される。膝に頭をずっと乗せられていても無事で、自身が眠りそうになるほど負荷がかかってない、ということは本当に大丈夫なんだろう。


翌朝になって清州競馬場、と書かれた大きな門の中に入る。少し坂を上ると、コースを見下ろすことが出来る観客席になっており、コースを一望することができた。俺のいる観客席とは反対側の観客席は、相当な数の観衆でぎゅうぎゅう詰めになっている。こっち側もわりと人がいっぱいだけど、まだ余裕があるからこちら側は地位の高い人向けとか、そんな感じなのだろうか?


「観客席を何度も増設しているのか。ここまで規模が大きくなると、観戦するのも一苦労だな」

「昨年は20万人を超える観衆が詰め寄せ、こちら側の席も一部開放となりました。おそらく今年も開放されるでしょう」

「……あそこ、美雪様」

「うん。顔が見えないけど、あの壇上にいる人かな?」


凛香さんが指差した先の、遠くの壇上にいる美雪さんは何か話しているようだけど、ほとんど聞き取ることが出来ない。一応メガホンのような、巨大な拡声器を持っているけど、基本的に反対側の観客席へ向けて語り掛けているようだった。


手持ちの馬券を確認すると、3-4という数字に今日の日付と豊森家承認の判が押されている。木枠があり、そこに数字の判子と日付の判子を入れて硬い紙に押していくというスタイルだったけど、相当な数の観客なので受付の人は大変だったに違いない。受付の人の数も凄く多かったけど、たぶん全員が国に雇われた人なんだろうな。


「3番と4番は……共に秀則様の愛馬だった白石鹿毛の血を引く馬ですね」

「えっ、血統図って今でも続いてるの?」

「もちろんですよ。白石鹿毛の血を引いている馬は白い鐙を付けるので判別しやすいです」

「白石鹿毛はそんなに白くなかったけどなぁ」


そして選んだ馬が愛馬の遠い子孫だと聞いて応援する気力が湧いた。白石鹿毛は東北で一番早い馬ということで、購入した後は種牡馬として活用しようと考えていたけど、一年の最後に行われる豊森記念に出走させてみると見事に4000mをずっとトップで走り抜けた名馬だ。結構衝撃的な走りだったから覚えている。


賢いから馬に乗り慣れることが出来ない俺でも乗れたし、産駒は賢い馬が多くてスピード、スタミナ共に申し分無かった。種牡馬としても活躍して、かなり長生きだった馬だ。


「あれ……白石鹿毛から血統図がずっと続いてるって、凄く膨大な血統図になるんじゃ?」

「1750年ごろに全てを表記するのは無理だ、となって種牡馬入りした牡馬だけに切り替えた血統図もありますが、全てを網羅した血統図もございますよ」

「……年間、何頭ぐらいの馬が産まれるの?」

「現在は大陸の方も含めて10万頭前後ですね」


そしてまた1つ豊森家の無駄遣いが発覚。確かに血統図は大事だから残しておいて、とは言ったけど、全ての馬を紙で記録しているとかどれだけのリソースを無駄にしているのだろうか。コンピューターに記録するならまだ良いけど、これは血統表だけで書庫が出来ているレベルだろう。


流石に無駄が多すぎるから種牡馬として選別した馬だけで良いよ、と伝達。現在の仕組みでは現役馬からは最大100頭の種牡馬が選抜されるそうだけど、それだけなら記録しても良さそうだ。駄目だった種牡馬は血統図が続かないだろうし。


レースの結果は4-7-6で、配当は単勝4.5倍、2連複10.9倍、3連複14倍となったようだ。3番の馬はずっと2着だったけど、最後の最後で7番と6番に並ばれて差し切られて決着。2着と3着を相手に鼻差で4着だったので、惜しい結果だ。4-3なら1万円が17万円になってたが、結局どちらにせよ国庫に入るので俺が賭ける意味は無かった。まあレース前に馬の様子を見ただけで、事前のレース結果とか知らずに当たるとは思ってなかったから別に良いや。


今回の4番の馬の1600mのタイムは、1分31.7秒。ここ数年では一番のスピードを持った馬だとか。これが改変前の世界と比べて速いタイムなのかわからないけど、戦国時代の記録では1分40秒を切った馬はいなかったはずだから確実に進歩しているのだろう。馬の体格も大きくなっている気がするし、コースも整備されている。


親衛隊の面々にも「賭けてきて良いよ」と言ってあるので静かに喜んでいる凛香さんや複雑そうな顔をしている愛華さんを横目に、4番の馬が壇上に上がるのを眺める。素直に言うことを聞いているし、白石鹿毛の血を引いているから、きっと賢いのだろう。


そんな思いは唐突に騎手を振り落とした姿を見て霧散した。ちょっと乗ってみたい気はしてたけど無理そうだ。

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