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美空奏の日常

今晩は

日曜ですね

早すぎると思いますが投稿します。

名前も知らない男と出会った翌日、両親は既に仕事へ行っていた。


台所に食事は用意されておらず、自分で朝食を作る。


私が小学生の頃から両親は共働きで、母はアパレル会社の社長秘書、父は最近話題のスポー用品店の代表取締役だ。


夕食のためのお金が、私しか座らないテーブルの上に毎朝置かれている。


自分で朝食や夕食を作るようになったのは中学になってからだった。


家の近くのスーパーで売られているお惣菜は既に飽きた味になっていて、カップヌードルなどのジャンクフードは美味しいが、食べ続けるには栄養が心配になる。


だから自然と自分で作るようになっていた。


昨日の特売で売られていた肉を焼いて、炒めたキャベツと絡めて少し味の濃いタレをかける。


私がよく作る野菜炒めだ。


簡単に作れるし味付けも多少失敗したって濃くなるぐらいだから、ご飯と食べればちょうど良い。


調理したてで、まだ熱い野菜炒めを少し放置して、トースターでパンを焼く。


死にかけの蝉みたいな声を出しながらパンの表面を少しずつ焼いていく光景を見ていると少しだけ愉快に思えてしまう。


3分ほど経ってチンと焼きあがったパンを手早く取り、何も塗らないまま口に頬張る。




「あっふっ…」




時間をかけたくないがためにこんな雑な朝食の取り方をしているが、現役の女子中学生としては我ながらどうかと思ってしまう。


パンを牛乳で流し込み、少し冷めた野菜炒めをタッパーとお弁当箱に詰める。


タッパーに入れた分は、私が夜食べる分と母、父の分、三つに分けて冷蔵庫に保管する。


歯を磨き、身支度を整えてベッドに置かれたラケットを持って家を出る。




「…いってきます」




誰もいない見た目だけ豪華な寂しい家に、私はなんの期待もしないまま今日も学校へ登校する。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



学校での私はちょっとした有名人だ。


だけど、決して良い意味ではなく、むしろその逆だ。




「あ、美空先輩だ…」



「え?あの三股ビッチの?」



「いやいや、俺は上の先輩から他の女子から彼氏を無理矢理奪い取ったって聞いたぞ?」



「後輩いじめたりするんだって、酷いよね…」



「あんたバド部でしょ?なんか知らないの?」



「え…、い、いじめられたくないし….怖いから関わらないようにしてる…」



「えー、なにそれつまんなーい」




耳を傾ければ嘘か本当か微妙なラインの噂が飛び交っている。


私は好奇心と嫌悪を含んだ視線を浴びて憂鬱な気持ちで校門をくぐる。




「奏ーー!」




突然の横からの衝撃に私はグッと踏ん張って尻餅をつかないように耐えた。


左を見るとポニーテールが似合う少し背丈の低い可愛い女子が私に抱きつきながら目を向けている。




「…いきなり何?美香」




花咲 美香。

現状、嫌われ者の私が持つ唯一の救い友達だ。


小学生からの中で、今でもたまに彼女の家には遊びに行く。


美香のサラサラとした頭を撫でながら離れてと言うと、彼女は小さな子供のように首を振った。




「やだよ!昨晩奏ってば家出したんでしょ!?なんで私の家に来てくれなかったの!おじさんとおばさんから電話きたんだから!昨日はどこで寝たの!?心配で私寝れなかったんだよ!ほらクマできちゃってるし!」



美香は依然として離れずに早口でそう言いながら目の下のクマを私に見せてくる。




「…ちょっと喧嘩しただけ…あの後ちゃんと家に帰った…だから大丈夫」




ごめんね、と付け足して私はそっと美香の腕を外そうとするが、さらにそこに力が込められて外れない。




「ダメダメダメ!今日は一日中私といて貰うからね!心配かけさせたんだからそうしてもらう!」




こんな子供みたいな様子だが、学校では生徒会長を務めている美香。


今も挨拶運動をしている他の生徒会役員の人達が心配そうに美香に目を向けている。




「美香…挨拶運動…してこないと」



「いやっ!アレやってても意味ないもん!」



「それ…生徒会長が言っちゃ…ダメ…」




私が力づくで離そうとしても美香はそれ以上の力で抱きついてくる。


何も知らない一般人から見たら、女の子同士がじゃれ合っているようにしか見えないだろうが、学校の生徒達からしたら「人気の高い生徒会長」と、「噂最低の3年生」が揉めているように見えてしまう。


こんな事してたらアイツが騒動を聞いて来るかもしれない。


それだけは避けようと、つい口調が強くなってしまう。



「美香…!」



「…!!?」



美香は少し驚いたような顔をしたが、すぐに私の目を見て自分と私の状況を確認し、ゆっくりと私から離れた。



「…今日は…一緒に帰る…から…」



私がそう言うと、分かりやすく喜んだ顔をした。彼女に尻尾があるなら元気良く左右に振っているだろう。



「絶対だよ!?約束だよ!ハリセンボンだよ!」



「分かったから…挨拶…頑張って」



「うん!」



朝から少し疲れる羽目になったが、彼女の明るさには何度も救われている。


きっと昨日だって本当に私自身が死ぬことは無かっただろう。

ブランコから自分の身体を投げ出すコンマ数秒前には美香の顔を思い出していたに違いない。


けれど、昨日は彼女を思い出す前にあの男に話しかけられた。


それが結果的に私の自殺を止めたのだと思うと、少し美香を裏切ってしまったような気分になってしまう。


そんな事は私の勝手な思い込みで、いくら美香でもそんな事を聞けば苦笑いするだろう。



(朝から憂鬱な気分で、こんなこと考えて…やっぱりロクな事は無いなぁ…)



そう思いながら重い教室の扉を開く。





教室内の天気は今日も視線の大雨だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



6限までの授業が終わり、清掃時間となった。


私の清掃区域は今年はずっと、他の清掃係がいない外廊下。


外廊下は中庭と直接繋がっていて、清掃時間にじゃれ合っている女子達の声がここにはよく響いてくる。


私は慣れた手つきで黙々と作業を続ける。


夏に落ち葉はそう多くはないが、その代わりに木々が実らせた木の実がそこら中に落ちている。


いくつかは生徒に踏まれてグチャッとしているが、案外それでも竹箒が器用に払ってくれる。


ザッザッとテンポよく掃いていくとなんだか楽しくなってくるが、時折聞こえてくる中庭からの声がそんな自分の姿を比べさせて少し悲しくなる。

昔いた友達も、今では美香だけだ。


そこで美香と今日一緒に帰る約束をしていたのだと思い出す。


どうせ明日も清掃するのだと思い、ある程度木の実を掃いたら少し小走りで教室へ向かう。



どうせ教室の中は視線の雨が大降りしているだろうが、久しぶりに美香と帰ると思うと少しも気にしなかった。



浮かれていた私は、後ろからの視線には全く気づけていなかった。

最後まで読んでくださりありがとうございます。


前書きで、無理やり「こんにちは」にしてみたんですけど…きづきましたか?^_^

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