4章
もう人は死なせません。多分
ちゅん、ちゅん
雀のさえずりが僕の耳を通り抜け、目を覚ました。
ついに修学旅行当日の朝が来た。少し寝坊気味だったので、急いで準備を始めた。まず僕は洗面台に向かって、前髪を左方向に流した。
「雄大ごはんよー!」
母の声が聞こえた。ぱぱっと準備して食卓に向かった。
「ごっちーさびらー。」
僕は両手を合わせて言った。
「なに?ごっちーさびらーって?」
「いただきますって意味だよ。そんなことも知らないのかい?」
修学旅行の行先は沖縄だった。実は沖縄の方言に慣れようと思って、一昨日方言について調べておいたのだ。
「うわー!美味しそうなご飯だね!」
2階から降りてくるなり、はきはきした声で広武が言った。
「そうだ!お兄ちゃん!沖縄のお土産楽しみにしてるね!」
「おー。なんかTシャツ買ってきてやるよ。」
僕は広武にマザコンTシャツを買ってきてやろうと決めた。
さて、無事羽田行きの電車に乗り、1時間半ぐらいで羽田空港に着いた。そして、着いたと同時に同じクラスの人を探した。
「まなさん、おはよう。」
「…」
やはり無視された。実を言うと僕は色々やらかして、学年の女子全員に汚物のような目で見られてるのだ。女子が僕を嫌う態度のレパートリーは様々だ。無視したり、嫌なことを言ったりするのだ。
その後、30分ほど整列に時間をとり、搭乗券が配られ飛行機に乗った。予想はしていたが、隣の席は女子だった。「雄大くんの隣とかマジやなんですけどぉー!!」という声を聞かなかったふりをしてイヤフォンをしてbacknumberを聴いていた。
約2時間のフライトを経て那覇空港についた。
「いい空気だー!沖縄やー!」
「最高な気分やな!雄大、イカしたグラサンしてんじゃねーか!」
沖縄の空気を感じて、友人の田中とワイワイしていた。ハイテンションになると関西弁になってしまうのが愛知県民の癖だ。
初日の予定は美ら海水族館だった。カップルでの行動が多いため僕は1人になってしまった。
「さあて、お土産でも見に行くか。」
水族館にいてもやることのなかった僕は近くの”お土産村”に行くことにした。
「おすすめのお土産とかありますかね。」
僕は何を買えばいいか分からなかったため店の人に
聞いてみた。
「そうだね〜、三味線とか中々人気よ〜 」
「三味線ですか…」
僕は意外な返答に驚きつつもそれもいいかもしれないと思っていた。吹奏楽部の僕は楽器ならなんでも好きだった。
「ただし、兄ちゃん。気をつけな。この辺ではお土産荒らしが頻繁に起こってるからね。”サクラ&マナ”とここら辺では呼んでるよ。気をつけなね。」
2人での犯行とは厄介だなと思いながら僕は頷いた。
三味線を買った後美ら海水族館に戻る道を歩いていた。その時すさまじいスピードで僕の前を通る影がみえた。2つだ。まさか、と思ったがそのまさかだった。僕の5メートル程先に巨体の女性が僕に背を向け立っていた。背中にはサクラ、マナと書いてあった。間違いなくコイツらがサクラ&マナだ、と確信した。なにか奪われてないかとカバンを見てみると紅いもタルトが奪われていた。そしてサクラ&マナは僕を小馬鹿にするような顔で僕に言った。
「このお菓子返して欲しけりゃ戦ってみるかい?最もそんなヒョロい体じゃ私達には勝てんけどねー!はっはっはっはっ!」
僕は、はらわたが煮えくり返る感情と共に、買った三味線をバットのようにして大きく構えて戦闘態勢に入った。