1章
吹奏楽部の方は絶対に見ないでください。見たら作者を必ず嫌いになります。
Waaaaaaaaa
Wooooooooo
会場は盛り上がっていた。
「おい雄大…これがハーモニーってやつか…?」
僕らは市民会館で全国1位の吹奏楽部の演奏を聴きに来ていた。坊主頭がトレードマークの江成和己が圧巻した様子でそう話しかけてきた。
「あ?harmony?知らねぇよ…」
僕も圧巻されていて言葉が出なかった。続けて江成は熱弁してきた。
「決めた!俺は高校では吹奏楽部入ってこんな演奏をしてハーモニーって奴を生み出してやる!」
「そうかー。」
僕は素っ気なく返したが僕の心にはある楽器が目に焼き付いていた。
それから2年が経った。
「おい!雄大!やっぱり俺のフルートは美しいだろ!」
髪を今風に伸ばした江成がそう挑発してきた。それに応戦するように僕は言った。
「うるせーよ。お前の顔のせいでフルートの美しい形がいびつに見えるぜ。」
「は?お前のサックス下手くそなクセにソロやろうとするなんて鬼キモいわ!」
こんな風に江成と喧嘩しながら帰るのが高校に入ってから日常になった。
ところで僕は今サックスを担当している。中学2年生の時に見たあのサックスのソロのかっこよさを忘れられなかったためだ。
しかし、吹奏楽の練習は大変で、音を奏でる楽しさとその大変さが中和しあって結局残るのは虚無感だ。
「ただいま。」
「おかえりなさい!ご飯にする?お風呂にする?」
「息子にそれやるのやめなよお母さん。」
僕のお母さんはなにか抜けている。
「広武入るぞ。」
ドアノブをゆっくり上げ兄弟で同じ部屋である部屋に入る。
「お兄ちゃんおかえりー!広くんね、お兄ちゃんが来るまで必死に勉強してたんだよ!だからゲーム一緒にやろー!」
広武は中学1年生だ。中一だが、ぽっちゃりしていてご飯のおかわりは3杯以上するところが兄としては可愛いものだ。
「ゲームかー!楽しそうだな!でもお兄ちゃん疲れたから今日は話しかけるな。いいな?」
僕は広武の頭を優しく撫でてそう言った。
「分かったよ!明日遊んでね!広くん楽しみにしてる!」
「あー。」
来週からは地区大会が始まる。うちは強豪だが必ず勝ち上がれるとは限らない。僕は静かに気を引き締めていた。
しかしこの時僕は知らなかった、その大会の前に吹奏楽の常識が発狂した江成によって覆されることを。