第7話「命を燃やして」
グロ描写が含まれています、ご注意下さい。
一方、住宅村を飛び出したソウルはモンスターの体液を浴びつつ苦く青臭い薬草を何とか粗食しながら敵をなぎ倒していた。
「弱いのに数がいるのが面倒だな…。ん?」
住宅村の近くにある酒場が騒がしい事に気がつく。
少し気になり酒場へ向かった。
爆発音がして叫び声と悲鳴が上がっている。
何やら中で一悶着起きているようだ。
中に入るとコウモリブタ帽子を被った沢山の初心者達が腰を抜かして悲鳴を上げている。
「ぁぁあ"あ"あ"あ"‼︎」「下がッれぇぇ‼︎」
叫び声を上げているのは立ち回りからパラディンと戦士のようだと推測した。
彼らが戦っているのはスカラベキング。
昆虫系の強力な甲殻をもったアリのようなモンスターだ。
だがおかしい、ランブに入ってきたモンスターは下級程度の魔物だったはずだ。
なぜ中級クラスのスカラベが入ってきているのか。
スカラベキングの尻尾は発射して地面に設置される爆弾である。
恐らくこの二人は周囲にいる低レベルプレイヤー達をかばうや仁王立ちで守り続けていたのであろう。
低レベルプレイヤーで回復が出来る者が回復している。
しかしMPはもう枯渇寸前であろうことは明白であった。
防御力があるパラディンを軸にして何とか繋いでる。
「ぁあああ‼︎《仁王立ち》ぃい‼︎」
身体中を血みどろにしながら叫ぶパラディン。
《仁王立ち》は使用者の後ろにいる仲間の受けるはずだった攻撃やダメージを肩代わりするパラディンの専用スキルである。
彼の髪は焦げ、防具はボロボロ、肌も炭化した部位が所々にある。
広範囲の攻撃である尻尾爆弾を何回も受けたのであろう事が伺えた。
「もうだめ、で、がっはッ、ッ《かばう》ぅうう‼︎」
《仁王立ち》で消える筈であったパラディンの命を戦士が《かばう》を使用して延命させなんとか防ぎきる。
《かばう》は対象一人の致命的ダメージを肩代わりする戦士の専用スキルだ。
戦士に目立った外傷は見られないが口からの吐血が体内に蓄積されたダメージを物語っていた。
もう、時間はない。
取引のパネルを操作してMP回復アイテムを二人を支援している僧侶達に送りつける。
「ひ、ヒール‼︎リベヒール‼︎くそっくそっ、なんでこんな時にぃ!」
「あの人が死んじまうよぉ!回復させろぉ!わき出ろよ俺の魔法ぅう‼︎」
「リベヒール‼︎もう、聖水がない、ダメだ……」
回復に徹していた初心者冒険者もMP不足で上手く回らなくなっていた。
「受け取れ‼︎」
ここがゲームだった時に大量に購入していた魔法の小瓶と上位互換である魔法の聖水複数を取引用のコウモリブタに運ばせる。
一刻も早く戦闘を終わらさなければ…!
送ったらその場でスカラベキングに突っ込む。
「《キャンセルショット》‼︎」
ソウルの持つハンマーのスキルが発動する。
今まさに爆弾を飛ばそうとしたスカラベキングの行動をキャンセルさせる。
地面に沈むスカラベキング。
一気に畳み掛ける。
「《捨て身》!」
バトルソルジャー専用スキルの《捨て身》で攻撃力が上がる代わりに防御力が下がるバフをかける。
「《ランドインパクト》‼︎《プレートインパクト》‼︎」
範囲攻撃で起爆寸前の尻尾爆弾の処理とスカラベキングへの攻撃を同時に行う。
ぐちゃりと音を立てて爆弾が潰れ、スカラベキングの尻尾が破壊される。
「《デビルクラッシュ》ッ‼︎」
紫色の閃光と魔方陣を展開させながら相手の防御力を下げつつ、スカラベキングの頭を潰す。
これがいつものゲームだったならまだスカラベキングは生きていたはずだ。
ゲームでは攻撃モーションは固定で、特定の部位を狙う事は出来なかった。
ソウルはそこに賭けたのだ。
頭を潰されて尚、生きている生物はそういない、と。
ポリゴンデータが生き物となって、確かにここに存在していたのだ。
緑色の体液に塗れて、スカラベキングの亡骸の上に立つ魚人が一人。
虫のような脊髄反射でビクリビクリと痙攣するスカラベキングの足。
酒場にいた低レベルプレイヤー達が歓喜の声を上げる。
なんとか凌ぎきれたようだ。
怪我人はいるが死人は無し。
パラディンと戦士がいなければ皆殺しにされていた可能性は高かった。
長時間にわたる死闘の末なのかパラディンと戦士はソウルの加勢中、床に崩れ落ちていた。
どうやら気絶したらしい。
ソウルは懐から取り出した世界樹の葉を二人の口に含ませ、損傷が酷い部位にも世界樹の葉をすり込んだ。
蘇生すら可能にする程の効果がある植物だ。
摂取している箇所から癒しの波動が現れる。
炭化して死んだ細胞が蘇り、血液が足りず蒼白くなった顔の血色が良くなった。
「すぐに良くなりますからね!」
「ありがとうっ……ありがとうっ……」
「絶対死ぬんじゃねぇぞ‼︎」
MPを補給した僧侶達によるヒールとリベヒールの追い討ち。
皮膚が活性化し、緑色の柔らかな閃光を放ちながら、傷口周りの皮膚が絹糸のような緑に輝く糸の集合体になる。
繊維状になった皮膚がゆっくりと浮き上がり、繋ぎ合わされ、傷が塞がっていく。
炭化していた皮膚は炭化部分がカサブタのように剥がれ落ち、
光の収束が収まるといつもと変わらぬ手足がそこにはあった。
その神秘的な光と現象を初めて目の当たりにし、その異世界の回復魔法の形にソウルは息を飲む。
あぁ、なんて、美しいのだろう。
一部補完と修正を行いました。