第73話「蒼き火種」
グッドが在籍していたチームの主、ローゼリア。有名ブロガーの彼女は女性らしからぬ粗暴な言動でツードの街を支配していた。グッドはローゼリアの片腕として苦い思いを抱えたまま、悪事の片棒を担いでいた。
そこにやってきたノイム一行と合流したグッドは、強大な敵、ローゼリアに反旗を翻す。
「大丈夫か、グッド」
「……俺はそうされても仕方ねぇ事したんだ。死んでも詫びれるかわかんねぇよ」
「とりあえず地下にローゼリアがいるって認識でいいんだなワード?OK、わかった。
グッド君、ピースターさん。2人がどういう関係だったのか俺達は分からない。だが今は一刻を争う事態だ。協力して欲しい。
とりあえず今この部屋にいる中でローゼリアに最初らへんから賛同してないメンバーで分かってる範疇の人間起こして欲しいんだ。」
タクトがそう言うとピースターが睨みつけていた目線を切ってグッドと離れた所で作業を再開した。グッドも気まずそうな顔をしながら選別を開始する。
「はぁ!てゃぁ!!」
セシィマッマが窓を覆う茨を取り除く声が無骨な壁に響く。
「っはぁ……やっぱりダメみたい…。とりあえず、ローゼリアに何かされたヒメちゃんの所に行かないと、封鎖は解除されないかも」
空いた窓から伸びる茨を《昇龍炎》で焼いていたマッマ。指し示す先には、破壊しても即座に再生する茨があった。
「どうしたもんか」
ワードがヒメカツの為に必死に思考を巡らせようと眉間に皺を寄せる。
「ローゼリアにやった氷魔法も溶けるだろうから城への捜索が始まるのも時間の問題。魅了耐性の防具なんてここの連中、持ってねぇし……」
「たわしは状態異常耐性が防具についてるから前衛に立たせてもらえれば、……狭くて立てこもれる部屋が良いのだ。ここはどうだ?」
にいさまが口を開く。
「立てこもろうにもこの玉座の間は侵入口が多すぎるし籠城は出来ない。攻めが最大の防御と考えて、ここをすぐ出て居場所がわからないローゼリアを探す?」
そういうと選別を終えたグッドが遠くから待ったをかける。
「ローゼリアは茨のドラゴンを2対作れる、城は開発陣がプレイヤーを歩かせようとしたせいで無駄に階段が多いから挟み撃ちにされたらキツくなるぞ。苔d……ノイムの言う通り狭い部屋で留まった方が良い」
その言葉は今だけ見逃してやろう!
……しかしそうすると新たな問題が起こる。回復職を起こしたお陰か、意識を取り戻したプレイヤーはすでに50人を超えている。
「……人間が多くても大丈夫な、扉が一個しかない所、オレ知ってる!」
突然大人に気圧されて空気だったたわしの弟、かざむが声を上げた。
「防具鍛治職人ギルドが一階の青い炎の部屋の奥にある!」
過去のバージョンアップで需要が無く高額になりすぎた初心者の防具を是正する為に錬金効果がランダムな装備を無料で排出する遺跡が実装され不遇職となった防具鍛治。
ツードの街は購入した住宅村や高額錬金成功品の売り買い、エンドコンテンツや盗み金策などのプレイヤー募集が目立つ為、取引街としてプレイヤー独自に利用する人が大勢いる。
防具鍛治の設備がある事を知っている人はそのサブに防具鍛治を選んでいる人が大半だが、難易度が高く防具鍛治参入者はあまりいなかった。故に知名度が低い。
「ゲームだとすっごく難しくてあんまり出来なかったけど、オレ防具鍛治選んだの!
場所も分かるよ!行こう姉ちゃん!」
かざむがキラキラした眼差しでたわしを見る。
「あそこはローゼリアがあまり近寄らない場所でしたね、良いんじゃないでしょうか」
「み゛ゃっ?!」
いつの間にか仕事を終えていた眼鏡の鬼人、ピースターの後押しもあり、行き先を決定した。
突然背後から聞こえてきた声で50センチ程跳躍したような気がした。
「かざむ、頼んだぞ」
「じゃあ、オレが案内するからついてきて!」
猫人族の足の速さは中々素早い。胃を魔法の聖水でチャポチャポ音が鳴るほど接種した僧侶や旅芸人達が回復させた戦闘職は、起こした人に指揮される。
まだ寝ているプレイヤーも背負ってローゼリアの忠臣を置いた全員で、蒼き火種を目指す。
「やられてばっかりじゃ、大人の沽券に関わりますからね……。そうでしょう、ローゼリア」
スチャリと眼鏡をかけ直したピースターが恨みの炎を瞳に携える。
闘いの足音が巨大な城を埋めていた。
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「ここだよ!蒼い炎の部屋!!」
メラメラと揺蕩いながらどこか神聖さを放つ、蒼き火種。
運良くローズドラゴンには見つからずに到着する事が出来た。
扉を開けると部屋の外側に開くようになっていて、閂がかけられる状態になるようだ。
「急いで中へ!!」
これだけ多くの移動音を響かせたのだ。ローゼリアに嗅ぎつけられたとしてもおかしくは無い。
「今から鍛治スキル持ちは集まれ!道具鍛冶は今から一発仕上げで鋼のハンマーの量産と新米の銅針の作成!武器鍛冶は俺の指定した武器を作ってくれ!今なら確定スロ3になる!防具鍛治は、素材が多く余ってる物で盾を作って!
針子は腕装備!なんでも良いからスロ3を!
錬金職人は錬金効果で魅了耐性付与を狙って!なるべく強い装備に強い効果!弱い装備は弱い効果で十分だ!
それ以外は皆を手伝ってくれ!
針子はセシィ、鍛治職は俺、錬金はワード!薬師はテロル!それ以外はノイムとソウルの前に!」
タクトの指揮で速やかな移動が行われる。
「(創世の祝福の範囲をこの部屋にいる全員に適応、これで効果が2倍になる!)」
テロルは状態異常の解除薬の作成を開始。
調合の知識のある理系のプレイヤー以外はとにかく材料を指示通り加工させ粉末、液体、半固形に仕上げさせた。
マッマは腕装備として素人でも作りやすいシュシュを採用。筒状に布を縫って裏返し、ゴムに似た素材の紐を通して結び隙間を縫い合わせ、作った端から錬金職人に渡していく。
パッパは剣用と盾用のインゴットの作成方法をを道具職人に見せて指示。そのままインゴットを使って武器職人に剣の叩き方と整え方を教えた後は道具職人の作ったインゴットを拝借して防具鍛治職人に盾の打ち方を教える。
ワードさんが職人設備から取り出したのは、黄金に輝くランプだった。
「錬金職人諸君!ランプを掲げろ!」
多数のランプが掲げられるが、その色は様々だ。
錬金職人は本人のレベルに合わせてランプが銅から銀、銀から金へと変化していく。
付けたい効果によっては道具鍛治に頼んで使用回数制限付きの特別なランプを使うらしいが、詳しくは知らない。
「金のランプで材料を持ってる方は高位錬金でシュシュに魅了耐性の付与をしてほしい。銀の人は中位錬金で盾にガード率アップの付与と高レベル防具に防御力アップの付与、銅は低位錬金で剣に攻撃力アップの付与だ。使った資材はチーム桃桜の葉が負担する。《魅惑のはるなんちゅ》の許可も降りている。安心して失敗してくれ。」
「「「《魅惑のはるなんちゅ》〜〜!!?」」」
その言葉にその場にいた錬金職人が歓喜の声を上げる。そりゃそうだ。
はるなんちゅはこのツードでは知らぬ人が少ない程の著名人。ツードの闘技場ではハイスコアの人間が表示されているが、参加すれば必ずそのシーズンの一位に食い込んでくるのがカノジョである。
観戦モードで見られるはるなんちゅの戦いは実に単純明快。武器の使い分けで相手の苦手な距離感と効果を付与する事に長けているのだ。
扇スキルによる魅了と連続攻撃可能な短距離戦、ムチスキルによる幻覚と捕縛可能な中距離戦、ブーメランスキルによる弱体化と長距離の支援。
敵の誘導から距離の管理、逃げに至るまで全てが完璧だった。
パーフェクトゲームを構築するはるなんちゅに憧れ、その装備の金額に驚き、低予算で済ませる為に可能な限り自作する。
そんな熱狂的なコロシアムプレイヤーが多数集う中都市ツードには、メインストーリーを最新までクリアして、身体技能向上アクセサリーを可能な迄に完成形にしたレベルMAXの猛者が日夜集って高難易度のエンドコンテンツを遊んでいた。
『天空の花』『堕神の神殿』『創造の遺跡』
人気の高難易度クエストはこの三つ。
天空の花を身につけ、レベル以上のステータスを持ち、錬金付与が出来ない防具を装備したプレイヤーがこの場所には多数存在しているのだ。
こんなプレイヤー達に勝てるローゼリアの魅了の力。どれだけ準備しても不安しか残らなかった。
「料理人と職人やってない人はたわしの所で調理手伝いしてもらうからなー!!料理人以外は食材ここに置いとくからとにかく刻め〜!!料理人は片手で食えるご飯作れー!!」
「とりあえず状態異常解除薬の製造ラインは出来ました!量産体制に入ります!」
テロルが声を張り上げて戦闘メンバーに完成した端から配布を開始した。かざむは補佐に回っている。
「腕でも頭でも良いからとりあえず付けろ!!」
逞しい鬼人から小柄な土人まで可愛らしいフリフリのシュシュを身につけた。
「レベル最大の人はこっちの盾と剣!レベルが低い方は初心者シリーズを手にとって下さい!!」
「っ少し失敗した!」「錬金で取り返してやるから心配すんな!!」
「上手くいかなかったやつはインゴットに戻すから寄越せ!!」
「指刺したぁ!」「あっっっつぅ!!」「《ヒール》!私、手先器用じゃないけど回復なら出来るから!」「頑張って!」
閂をかけた防具鍛治ギルドの大扉が轟音を立てて軋む。
「来たぞー!!」「戦闘準備ーー!!」「パラディン戦士はバトルソルジャーのHPタンク!!狩人と僧侶はパラディンと戦士の補佐!!
義賊は魔術師の魔法ストックのクイックチャージ!旅芸人とダンサーは全体のバフと補助!身体のデカイ奴は猫人と土人肩車して移動しろ!」
ドガンと何かがぶつかる度にミシミシと音を立てて木が歪み繊維状に爆ける。
「食えーーー!!とにかく一口食えー!!」
「シールドアタックの準備だ構えろ!!!」「戦闘は高レベルに任せて低レベル帯は職人しててくれ!!」
バキバキバキィ!!
空いた隙間から無数の茨が室内に入り込もうとしていた。
無数の蛍光色の光が、扉から漏れ出ているのがたわしの瞳には見えている。スタディグからもらった、世界の異変を視認する力。
「《漆黒の翼》《身代わり》《分身》!!!」
HPを大量に消費して身代わりを召喚。
「随分と早いお出ましなのだ!行くぞ皆!」
カラスの群れが如く、黒い濡羽を生やしたたわしの群れが各所に配備される。
「《ローズウィップ》《ローズガーデン》」
遂に扉が破壊された。その側から。
世界が、スローモーションに見えた。
うねる茨が扉から高速で這い上がり部屋を覆うその瞬間、たわしの分身達の耳に装備されているエーテルメモリーが輝きを放ち部屋の外にあった蒼き火種から大量の蒼炎がローズドラゴンとローゼリアの背後から噴き上げた。
無数の蛍光色の茨が一瞬で燃え去り、異変の鱗粉を撒き散らしながらローズドラゴンも苦しそうに暴れている。
ピンクのおさげを揺らして憎々しいと言わんばかりに美しい顔を歪めたローゼリアが、自分を守る為に出現していた茨の渦から現れる。眩しい程のドギツイ蛍光色に覆われる、神話の時代に失われた植物魔法の使い手。その姿はまるで。
『神話の真実』に触れた時、脳に写された映像。
ローゼリアは女神スティングローズに瓜二つだった。
完結まで俺は止まらねぇからよ…止まるんじゃねぇぞ…。




