第68話「桃桜の戦準備」
皆を集めて作戦会議だ。
ワードさんが持ち帰った情報として攻略の難易度を著しく上げている事象が3つとの事。
1つ、ローゼリア軍は大多数のプレイヤーがメイン職レベルMAX上限の100にほぼ近い数字であるという点。しかも人数は少なく見積もっても300人はいるらしい。
2つ、敵陣で不利になってもすぐに脱出が困難な転移石使用不可フィールド。
そして3つめ、何よりも恐ろしいのが、ローゼリアの魅了の力だ。
同じ力を持つはるなんちゅも、やろうと思えばチームの仲間全員落とせるのは間違いない。そして一回魅了に落とされたが最後、待っているのは意思を奪われ、理想的な傀儡と化した完全なる人質だ。
死を恐れず、死ねと命じられれば自害する。
どの程度の痛みや状態異常で解除されるかもわからないその力は300人以上のプレイヤーに作用しているらしい。はるなんちゅの魅了で上書き出来るかも定かではないのだ。
「それなら、はるさんに魅了の実験してもらえば」
「それは危険だセシィ。実験したくても、どうなるかわからない状態で行うのはリスクが高過ぎる。……俺は魅了から回復した自分が自分であると確信出来る自信がないぞ」
「タクト!そこまではっきり言うのは!」
「おっほっほ……普通の人ならそう思うのも無理無いわよセシィちゃん、ありがとうねん!……とりあえず内容を詰める事にするわん!一先ずワードちゃんは一旦休みなさいな、顔色最悪よぅ?……ヒメカツちゃんは絶対助かるわん、大丈夫!!」
「……そう、だな。……ッ…休んでくる……」
心配からか傷んだ枝豆色の肌になってしまった、涙目のワードさんをはるなんちゅは寝室へ送り込んだ。
「ワードさん……はるなんちゅ、どうやって勝つつもりなのだ。割と無謀なレベルだぞ?」
たわしがそう言うとはるなんちゅは翡翠の瞳をたわしに合わせ、ウインクした。
「大丈夫よん、任せて任せて、
さぁ皆!出来る事ぜーんぶやっちゃいましょうねん!!」
はるなんちゅが指をパチリと鳴らすと、農奴組が一斉に動き出す。各々武器を手に持ちフィールドへと歩き始めた。
「20人もいるから助かるわねん!そんじゃアタシは大工のお仕事するわーん、ノイムちゃんは携帯食やご飯作りお願いねん!
タクトちゃんとセシィちゃんは今からやって欲しい事があるから残って頂戴、テロルちゃんは毒物を大量に精製してくれるとありがたいわん!」
そう言ってはるなんちゅはアイテムバックから取り出した木材を削り出した。
「かざむちゃんは薬草さん達に協力してもらっていっぱい回復系の薬草を貰ってきてちょうだいな!ソウルちゃんは皆の補佐してあげてねん!!」
はるなんちゅは各自にササっと指示を出しながら作業を開始した。
各々指示に従って動き始める。
今回は戦闘用の食事ということですぐに補給出来るアイテムが望ましいだろう。
クッキーを作る事にした。
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はるなんちゅから返却されたアイテムを確認する。
うましおソルト70個
つぶつぶペッパー48個
コムギパウダー84個
あまあまシュガー76個
オリーブオイリー61個
ライスローズ77個
とろりんたまご65個
カモンチーズ52個
まっしろミルク89個
グレントマト58個
やみつきピーマン85個
まんまるオニオン80個
スタミナにんじん92個
メガシャキレタス90個
ビッグポテト47個
すっきりレモン80個
さわやかオレンジ88個
ブロックミート(謎肉)55個
個数が減っている様子は無い。クッキーの材料をピックアップしていく。
鮮度とかは気にしなくて良い所がアイテムバッグの魅力。
手を洗う為に家具アイテムのシャワーに付属していたボディソープを拝借。菌とかウィルスとかいるのかと思ったが、そういうモンスターもいるからきっといるに違いない。洗わないよりマシだ、清潔第一。
バターが無いと風味が味気ないので代用出来そうなカモンチーズとオリーブオイリーを使うことにした。
火をかけた片手鍋にオリーブオイリーを35粒投入して溶かす。表面の皮が熱で溶けて植物油にじわじわと変化していく。オリーブオイリーの鍋を弱火にし、そこへカモンチーズを10個入れる。
チーズが熱で緩くなるのを待つ間、木製のボウルにコムギパウダーを3袋分投入。粉の固まっている所が無くなるように泡立て器で粉を掻き回しておく。
カモンチーズが緩くなったら火を止めて先程から使っているタクトパッパお手製の泡立て器を用いて鍋内を手早くしっかり混ぜ合わせる。
混ざったらあまあまシュガーを1瓶入れてクリーム状になるまでしっかり混ぜる。
混ざり合った小鍋の中身はまだ熱々だ。コムギパウダーが入った大きなボウルに油分たっぷりの甘いチーズを回し入れてさらに混ぜ合わせる。早く入れないとチーズが冷め固まって混ざらなくなる。
へばりついているものはゴムベラが無いので素手で取るしかないが、流石に火傷するのでスキルを使う。
「《腕力強化》《皮膚強化》!」
新しく手に入れたスキルを発動させた。
通常この工程は固いヘラで刻むものだが今回はチーズを使用しているので粘度が桁違いだ。
先程の片手鍋にオリーブオイリーを一粒溶かして、枝豆色のたわしの手にかける。
普通なら大惨事ものだがスキルのおかげで難なく揉み込める。
油で滑りが良くなったのを確認しつつ、クッキー生地を作成する。
「アーッ!タタタタタタタタッ!!アチョーーーー!!」
切るように混ぜ合わせ、段々と一塊になっていくクッキー生地。たまに半分引きちぎって上に乗せ、手刀で刻む。
「ぐぬ、こやつ伸びる……!!負けんぞ!そりゃ!!」
だんだん冷めてきたのか切り離す際の重みが増してきたが、《腕力強化》のスキルのおかげでスイスイ混ぜる事が出来る。
しっかり混ざったことを確認出来たので氷室で30分ほど生地を休ませる事にした。
ドドドドドド……
「にゃ?な、なんだ?地震か?」
地震なのか、それとも地響きか?
混乱する中、窓の外に何かが見えたので慌ててそちらを覗く。
大小様々、大量のモンスターをトレインしている奴隷達の姿が目に入る。奴隷達の目は、いつも通り死んでいた。
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「は、は、はるなんちゅーーー!!」
ドタバタとドリフトを利かせながら、慌てて厨房から木工作業場に行く。見つけたはるなんちゅの隣には仰々しい大きな鎧の山が出来上がっていた。
セシィマッマは鎧の繋ぎ目に目にも止まらぬ速さで紐を通しているようだ。
「あらもう来たのねん!知らせてくれてありがとうねん♡」
そう言ってはるなんちゅが嬉しそうに表へ出て行く。
「転んじゃった゛ーー!!ヤバイ゛ーー!!!」「かざむ君ーーー!!」
「テロルさんごめんよ!かざむ君ー!!」
「「急いでぇぇソウルさぁぁぁん!!」」
はるなんちゅが扉を開けて外に出ていくとモンスターの波から逃げ遅れたかざむとテロルの悲鳴、焦るにいさまの声が聞こえてきた。
ガチャッ!!バタン!!!
扉が再度開かれ猫妖精2匹を小脇に抱えた、荒い呼吸のにいさまが外から急いでアジトに入ってくる。
「き、危機一髪……」「ね゛ぇちゃぁぁんん」「の゛いむざぁぁん」
びえぇという表現が似合いそうな二人を解放して、にいさまが壁にもたれて一息つく。
「あれ……何……」
にいさまの目線の先を辿れば、窓の外にスポットライトが当たるピンク髪のミニスカ白浴衣のオネェが孔雀の羽がついた扇子を振り回してモンスターを魅了していく姿があった。
誰も彼もが彼女?に夢中。
雄雌関係ない無差別な誘惑で皆骨抜き。
喜び、快感に打ち震え、百獣の王のアニメが如く、モンスター達が頭を垂れてはるなんちゅに跪いていく。
「わぁすげー……」
流石のたわしもこれには月並みな感想しか出てこない。自分の貧弱さを実感しつつ、はるなんちゅの作業場にあった世紀末な鎧を思い出す。
絶対装備させて特攻させるつもりだ。
「さぁ踊って踊って〜ん!!」
はるなんちゅは今日も元気。
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それから30分ほど経過したのでクッキー生地の切り出しを始める。
にいさまとかざむは丁度手が空いたという事でたわしの手伝いを申し出てくれた。
「私はかざむ君から薬草もらいに行ってたんです、薬完成したら持って行きますね!」
テロルはまだ仕事があるらしく作業に戻っていった。
補給出来れば良いので形は多少不恰好でも良いだろう。包丁で2センチ角にカットして棒を成形。5ミリほどの厚さにスライスしていく。
クッキングシートが有れば良かったが生憎無い。焼くための天板に直接熱したオリーブオイリーを塗り広げ、その上にカットしたクッキー生地を並べる。
かざむとにいさまに手伝ってもらい、次々と予熱を完了させた室内家具のオーブンに天板を放り込んでいく。メモリは170度だ。
何回かチャレンジして生焼けにならないようにするには何分でやれば良いか調べ、試行錯誤で判明した時間は15分であった。
このオーブンは焼き目が付きにくいようで、向こうのオーブンレンジと比べ2分ほど長めに焼いている。
失敗した分はたわし達のおやつになった。なぁに食べてもデバフはつかない。生焼けのクッキーは固めに焼き締めたケーキのような舌触りだ。少しふわっとしていてサクサク感が微妙に損なわれている。料理効果は無くなっているようだ。
オーブンを使う作業だが、身体が小さいかざむには危険なので、カットしたクッキーを並べてもらっている。
にいさまとたわしで大量のクッキーを10個のオーブンで予熱、焼き上げを繰り返すこと2時間。
完成したクッキーがこちら。
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スウィートチーズクッキー
ランクA
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クッキーにカモンチーズが練り込まれたベイクドクッキー。甘いクッキーから漂うチーズの塩加減と風味が食欲を促進させる。
カロリーが高いので注意。
非常に正確な分量で作られている完成度の高い一品。10枚入。
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効果 体力↑100 MP↑100 経験値60%アップ
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恐らく今までで最高の出来上がりに違いない。
創生の祝福のお陰で効果2倍、ランク2倍。料理効果で上がるパラメータ幅はHPMPは50から100へ、経験値30%から60%に上がっている。
にいさま達のお手伝いが入っていて、形も歪なのが多いにも関わらずだ。女神の力恐るべし。
さらにこの料理の恐ろしい事と言えば、一口サイズのクッキーを一つ食べるだけで料理効果と回復がつく事だ。
体力やMPが減っていれば上がり幅分、つまり100回復させて上限を伸ばす。
たった一枚で。
「とんでもないのだぁ……」
「ついでに量もね……」
そう、コムギパウダーは3袋使った。
最低でも生地は4キロあるのだ。
一枚10グラムと考えると、400枚。
40袋分のクッキーを焼き上げるのは正直大変であった。焦がしてはいけないという精神的な負荷が祟った。
この身体になってからより疲れやすい気がする。
クッキーの袋詰めを終わらせたにいさま達とぐったりしていると、厨房にタクトパッパが入ってくる。
「ノイムさ……頑張ったんだな……」
「かざむを2階に寝かせてくれると助かるのだぁ……」
「わかった、連れて行く。ノイムさん、休憩が終わったら工房へ来てくれ」
ヘトヘトで眠そうなかざむを抱き上げたパッパはたわしにそう言って2階の布団部屋へ上がっていった。
「ノイムちゃん」
「あにゃ?」
隣で座り込んでいたにいさまがたわしの体を持ち上げて膝の上に乗せる。そのまま正面からぎゅぅーっと。
「あのハートの形のクッキー、俺の?」
ぬぅ、バレたか。こっそり作業したから気付かれていないと思ったのに。
「うむ、手伝ってくれて助かったぞにいさま」
潔く認めるとにいさまが嬉しそうにはにかんでたわしの肩に顔を埋める。
「にいさ、ま、ちょいくすぐったい」
「だって嬉しいから、仕方ないでしょー」
後頭部を撫でられ、ほっぺをむにむにすりすりされる。
少しひんやりとした魚人のしっとりとした肌がオーブンの熱と格闘したドワーフ肌から温度を取り除いていく。
暑かったので、とても心地よい。
気持ちよさにうっとりとしていると、にいさまの様子が少し怪しい。
「ノイムちゃん……」
「はっ、…あにゃ」
たわしのオケツに形容し難い感触がある。
こりゃあかんのだ。
「にいさま、前一緒に食べるって約束してたオレンジピールあげるのだ!!」
急いでアイテムバックから取り出したさわやかオレンジの皮を使った砂糖漬けをにいさまの口へ押し込む。
「……そういえば、色々やってたら忘れてたね」
にいさまがもう一口欲しいと催促するので口に持っていく。抱えている瓶からオレンジピールがひとつまみにいさまの手でたわしの口に運ばれるのでパクリと口に含む。
「あぁ……うまいのだー……無くなったらまた一緒に作って欲しいぞぉ」
「ふふ、そうだね。いやぁ美味しいわこれ」
ひとつまみの休憩を取ったので、クッキーをアイテムボックスに収納し、後片付けを行う。
「俺が器具洗っておくからノイムちゃんはタクトさんの所に行っておいで」
「にゃう、いいのか?とりあえず台拭きだけやってからそうさせてもらうのだ」
シャワー家具についていたアメニティセットのタオルを使って粉が付着した作業台を綺麗に拭う。
洗い場で少量のコムギパウダーを洗い落としてタオルかけに干し移動を開始した。
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タクトパッパが使用している工房には既に熱気が篭っており、主人であるその人が作業していた。
「来たかノイムさん、やはり上手くいかないようだ。祝福を頼む」
「にゃ、了解なのだ」
今回精鉄されているのは魔法鋼、この世界特有の金属だった。
タクトパッパの隣には例の火の精霊がおり、タクトパッパが叩くのに合わせて魔力を供給している様子が見て取れる。
熱されてオレンジに輝く地金を叩いては様々な光が迸る。
黄色から緑、青から紫、光はどんどん寒色へ変化していき、不純物が取り除かれていく。
水を張った木製のバケツに紫色に発光した地金が投入された瞬間、白い煙が噴き出て水蒸気が立ち登る。
煙が収まった辺りでシャボン玉のような光沢を放つ銀色の金属が、黒くなった水面から引き上げられた。
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魔法鋼
ランクA
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火の精霊の魔力を用いて作られた一品。
200年前に失われた製法により作られている。
オルゴートを動かす伝達部品として使用可能。
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たわしが取った、『神話の真実』の隣にあった鎖付きの装丁の本に記載されていたのがオルゴートの作り方と重要部品である魔法鋼の精製方法だ。たわしが複写した本をタクトパッパは馬車の中で読み込んでいた。
精製には妖精との協力と書かれていたので、タクトパッパに火属性付与のスキル使用時に現れる妖精の存在を教えた。
書かれていた情報は非常に正確だったようだが、セシィマッマやにいさま、テロルに見せるもイマイチな反応だった。本業が鍛冶に携わるパッパと加護で理解出来たたわし以外は軒並み理解し難い内容であったようだ。
「やはりノイムさんの創世の祝福がなければランクAは取れないな……」
模倣されると面倒だと思い加護無しで一度精製を試みたようだが先程は最大限の努力でランクBの魔法鋼しか作れなかったらしい。
「とりあえずそれ以外の部品は鋳造で仕上げるから、ノイムさんは持ち前の器用さでロウ削りを頼む」
「かしこま、なのだ!」
たわしは脇に避けてあったロウのブロックを掴んで小刀で整形を始める。
スタディグのくれた《叡智の従僕》により設計図や部品の大きさ等は頭に入っていた。
たわしはそれを再現する器用さも持ち合わせている。設計図と材料さえあれば作れる、生きる3Dプリンターだ。
集中する事1時間、浮遊機構のパーツが完成した。
作ったロウ製部品にロウの棒をくっつけて蟻の巣のような形にする。
元の世界で今回部品の精製を行おうとしている製法はロストワックス製法と呼ばれていた。エジプト時代からあるらしいが真偽はいかに。
ワックスツリーを成型し終わるとタクトパッパからお声がかかった。
「こっちも魔法鋼が十分出来たぞ。融解まで鋳造する為の石膏モドキは用意したからこれにワックスツリーを入れてくれ」
まだ粉の状態の石膏モドキに水を投入して、かき混ぜる。
ほんのり温かくなる前にワックスツリーを差し入れて固定させて石膏が硬化するのを待つ。
石膏に使う素材も書いてあったのでとても助かった。無ければ何百ある素材を鑑定しなければいけなかったのだ。
今回の採掘と加工はタクトパッパにしてもらった。
石膏の硬化を待つ間に外付けパーツを組み合わせて運転席を確保する。
「……これなんぞ?」「……どう見たってUFOだなぁ」
はるなんちゅが外殻を提供したようだ。UFOのような円盤に人や物が収納出来そうなスペースが搭載されている。
ざっと乗れる人数は運転手含めて6人だろうか。
パッパが魔法鋼の融解を進め、たわしが運転席の組み付けが完了する頃に木製のバケツに入った石膏が固まったので、ひっくり返して先程パッパが使用していた職人設備の炉内に入れる。
金属を溶かす過程で火の勢いもそのままになっていたので石膏を入れていた木桶が焼け落ちロウが蒸発して石膏型だけが残る。
焼き固められた石膏モドキを回収したらあとは魔法鋼を完全に融解させて流し込むのみ。
時を同じくして炉に入れていた魔法鋼が紫色に発光しながら石鍋の中でタプリと揺れた。
タクトパッパが厚手の鍛治手袋を使って石鍋を持ち上げ、ロウが無くなり温められた石膏に中身を傾ける。
石膏に流し込まれた熱い鋼は湯道を通って型の全体へと突き進んだ。
そして型を大きめの水の張った桶にそのままダイブさせる。
じゅわァッと水蒸気があがりボコボコと水面が揺れる。
白く濁ったお湯からワックスツリーを引き上げるべく、木の棒で持ち上げた。
熱の膨張で石膏が崩れ、魔法鋼特有の色合いを帯びた金属の木が姿を現した。
再度綺麗な水に入れて熱を冷ましてからはたわしのターン。
所々に石膏が付いているのでたわし…では無くタワシを使って別の桶の中で水につけながら落としていく。この段階では傷がついても磨いて落とすので問題は無い。
ジョリジョリとブラッシングの音が鳴る。
石膏が落ちたので湯道を切り落として部品のみにする作業だ。
パッパにワックスツリーを渡すと、メニューを操作し始めた。
何してるのだ?……もしや糸鋸とか使わずに、パーツ切り離せるとか?
パチパチパチパチ!!!
突然パッパの手元に火花とも雷とも付かない化学反応が巻き起こり部品が変化する。
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オルゴート部品
ランクA
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200年前の文明を復活させるべく、職人の手によって作られた逸品。
組み立てれば磁力による浮遊機構と魔力による推進力が生まれる。
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湯道に入り込んでいた金属が部品をタクトパッパの手元に残して床にゴトリと落ちる。
オルゴートの部品は磨き上げられており、研磨の必要は無さそうだ。
タクトパッパがUFOに組み付ければ問題なく稼働した。
「スキルで切断と研磨がされるならこれほど楽な物は無いな、量産体制に入る。
すまないがノイムさんはリーダーに追加の運転席製作を頼んでくれ、俺は魔法鋼を打たなければならん」「……ハッ、おけおけなのだ!」
一番面倒な金属の切り離しと研磨が一瞬で行われた事に驚いてしまい返事が遅れる。
部品を分解して型取りをサクサク終わらせたパッパに生返事を返すと、パッパはそのまま炉へと向き合って作業を再開した。
それにしても、なんでUFOなんだろうなぁ……。
お待たせ致しました。




