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第66話「罪と罰」




「(……キリング)」


ここにはいない漆黒のキャットシーを思い出す。


「(このまま、キリングを復活させなければ、カルテットには私しかいない。)」






初めて助けられたその時から、カルテットが好きだった。


スティングローズを救出した時も、偶然カルテットを守ろうとして、ついでにスティングローズが助かった、それだけの事なんだ。


『スタディグ、私、旅の始まりに守ってくれた時からずっと貴方の事が好きよ』


パラディールとウォークレイクが果実を食し、夫婦めおと関係になった事を皮切りに、スタディグローズが告白してきた。


コクホウ大陸のサクラギに似た桃色の髪を風に靡かせた彼女はとても美しかったし、ここ最近も献身的に尽くしてくれた。

原初の旅をしてからずっと。


でも、違うんだ。君からそれを聞きたいんじゃない、私は、カルテットからそれを聞きたいんだ。


『スティングローズ。君はとても美しく、献身的で素晴らしい女性だ』

『スタディグ…!』

『けど、気持ちには答えられない』


そう言った時、スティングローズのターコイズの瞳から絶望が溢れ出す。


『スタディグ、もうカルテットにはキリングがいるのよ』


カルテットの心はもうキリングの物になっていて、口下手なキリングも魔王討伐直後からカルテットと片時も離れなくなった。


阿吽の呼吸が二人には既にあって、自身が入る余地なんてない事ぐらい。


『私に悪い所があるなら直すわスタディグ。私、カルテットに負けないぐらいもっと頑張って自分を磨くから……』


既に磨かれ尽くした宝石のようなスティングローズ。精神も気高く、知識も豊かで、完璧としか言いようが無い。涙を流せば世界中の画家が殺到し、美しさ儚さを絵に残しながら、本人の美貌に耐えきれず失神するのだろう。


『君に不満があるとか、そういうものじゃないんだ。彼女がずっと、焼き付いて離れない、ただそれだけなんだ。』


『スタディグ、貴方』

『それに、キリングがカルテットを大切に出来なければカルテットは私の所へ来てくれるかもしれない』


カルテットがいつか私の元へ来る可能性はゼロじゃないだろう?


『カルテットに告白して、少しでも前に進みたいとは思わないの?』


『カルテットが私を頼るまで、私は何もしないし、何も言わない。』

『告白したら、何かが変わるかもしれないじゃない。』

『告白して、断られても私は、彼女の事しか想えない。それなら言わない方が警戒されないしマシだ。スティングローズ、君は執着が強いぞ、もう放っておいてくれ』

『貴方と同じようにカルテットやキリングだって考えてるとは思わないの?』

『うるさい』


私はスティングローズの顔を見れなくなり、その場から逃げた。


結局カルテットもキリングも夫婦めおとになったし、スティングローズはその後もアプローチをし続けた。


カルテットはスティングローズのどこが悪いのか聞いてきたし遠回しにオススメしてくる。

キリングはカルテットから私を引き離そうと動く。


スティングローズは私のカルテットへの想いを暴露した訳ではない。ただカルテットに恋愛相談をしただけ。キリングは野生の勘で私を排除しようとしているだけ。


人を好きになり続ける事がそんなに悪い事なのか?苦しみから解放されるにはどうしたらいい?

何度考えても答えは出ず、献身的に、打算的に寄り添うスティングローズを幾度ともなく傷つけた。


今思えば、スティングローズがどう思っているかなんて考えていなかった。




『時間が解決してくれるよ、だいじょうぶ』


暗闇の中で金色に輝きを増す、相談相手の果実は、結局明確な答えを出してはくれなかった。




私はより深い叡智の泉と、繊細な技術を施す為の器用さ、機械生命を生み出す程の魔力を手に入れた。


姿も以前よりたくましく、漆黒だった私の瞳は溢れ出る魔力によって虹色の光彩を放つようになった。



そんな私の姿を見てスティングローズは、ついに狂った。



「そんなに、そんなに、人の物が欲しいのね。新しい力を持ってしてでも、彼女を欲しがるのね。貴方は、この果実を食べて何が起こるかわからないと拒絶していたのに!!彼女とキリングが果実を食したから?それに追いつこうとでもしたのかしら!!!

っはぁ………もう、良いの。貴方の心が、私に、向かないのなら、無理矢理振り向かせる。」


彼女は、私の八つ当たりに耐えられなくなってしまっていた。

尽くしてきた献身をぞんざいに扱われ、ひたすら拒絶されるその苦しみを、私は知ろうともしなかった。


息が籠るような震える声で、涙を溢れさせながら、嗚咽を上げてスティングローズが果実を手にする。



「ウォークレイクが妬ましい、パラディールが妬ましい、キリングが妬ましい、カルテットが妬ましい。


スタディグ、貴方は最高の愚か者よ」



彼女は自身の植物魔法で、果実を『芽吹かせた』。


果実から伸びる芽が蔓状になりスティングローズを瞬く間に包み込む。若々しい新緑は毒気を放つ紫檀したん色に変化していき、方方に散って世界を呪った。


あらゆる手を使ってフィンクス大陸をスティングローズの魔の手からなんとか守ったが、その間にスティングローズは他大陸にも手を伸ばしていた。


魔物がスティングローズの伸ばした蔓から実り、大陸中を覆った。


パラディールとウォークレイクはそれぞれ自身の体を3つの砦に変え、民を守る為に眠りについた。


カルテットはキリングと共に健闘していたが、キリングがカルテットの身代わりとなり魔物の群れに飲まれてしまった。


キリングの力なのか、魔物が急速に弱体化。その隙を無駄にすまいと、カルテットは創造の力で3つの都市を建造し、ケセランパ大陸の民を守った。絞り出した魔力の反動でカルテットも長い長い眠りについてしまった。


フィンクス大陸は既に完成された箱物。魔物被害は殆ど無かった。目の前で事件が起こったからとも言える。その分目の前にいるスティングローズを無力化させるのに精一杯だった。


意識ある状態で残されたのは私だけ。


無我夢中でスティングローズの力を封印して、世界再生の基礎を100年かけて作り上げた。

こうして、私も長い眠りにつく事になる。


果実は恐らく神に至る為の物だったのだろう。


肉体が果て、精神体になってなお、私達は意思疎通が出来たのだ。


パラディールもウォークレイクも、キリングもカルテットも、会おうと思えば会えたし、会話も出来た。


下界の様子も思念を送ればみる事が可能だったし、生命維持活動をせずとも良くなったので、様々な事を考えられるようになった。



私自身で封印したスティングローズの事については、一切話せなかった。

それは、私自身が犯した罪だった。

仲間やカルテットに知られれば、どんな謂れや罰を受けるのか、それがただ恐ろしかったのだ。


更に100年が過ぎて、巫女や神官が私達の憑依出来る依代として活動を始めた。

迫る魔物から幾度ともなく私達は民を導いた。


そしてその100年後、キリング、パラディール、ウォークレイクとの意思疎通が突然不可能になった。


救世主を求むべく、巫女や神官を駆使して異世界から英雄プレイヤーを召喚する儀式を行う。


こうして、今の冒険者は生まれたのだ。



「(私は、どうしたらいい、私の罪は、どう償えば良い。私の想いは、どうしたらいい)」



300年、考え逃避し、直面し続けたこの問題にどう対処すれば良いのか。答えは複数存在するし、わかっている。


それなのに行動出来ない私は、彼女スティングローズの言う通り臆病で、最高の愚か者でしか無かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれからスタディグは逃げるように姿を隠した。お陰でモヤモヤしたまま、たわしはチームアジトへ帰る事になった。


今、たわしはユラユラ揺れる駅馬車の中でオルゴートについての書籍を読んでいる。

オルゴートはゲーム内で使われていた移動用オーパーツで、特定のNPCから入手出来る。


その知識を、《叡智の従僕》の名声称号で暗記している。

作り方から、技術の仕組みまで、その全てがずっしりとキャパの少ない脳味噌に無理やり注入されるのだ。

頭がおかしくなりそうな未知の知識が強制的に流れ込み、忘れる事を拒絶させる。


本で見た知識を強制的に理解させ、忘れる事を棄却する。


知識は力なりとは言うが、阿保なたわしに力を授けたスタディグはちょっと人を見る目を養った方がいいのではないだろうか。


そう考えながらオルゴートの知識を呼び起こす。


最近アップデートで追加されたばかりのコンテンツで、クエストを最新話までクリアしていないとクエストそのものが発行されないという仕様だった。


今のところ外出する事そのものが危険な事なので、オルゴートを使用している人はほとんどいない。


というかまだ見ていないが正しい。


消費アイテムであるオルゴオイルはオーガリア大陸の特定区域で採取するとランダムで得られる。


モリブタバザーでは『入手確率が少し低い+最新話までクリア』の条件が重なっている為か中々買おうとは思えないお値段になっていた。


「どうノイムちゃん?自作する事は出来そう?」


「出来ると思うぞぉ、だが一番の問題は材料の量なのだ」



そう、ありとあらゆる鉱石やコアとなる魔法鋼マジカルメタルの消費量が半端ではないのだ。




「ねぇちゃーーーん!!!!」


「皆、おかえりなさーーい!!!」



声がした方を見ると、かざむとはるなんちゅが駅馬車方面で叫んでいる。


「っテロル頼んだ!」「ちょっ?!」


たわしは溢れる感情に身を任せ、本をテロルに押し付け馬車から飛び降りる。


馬車は持久力があるがたわしよりも遅い。たわしの脚はもう止まらなかった。


二人の元へ駆け寄り、真っ先にかざむを抱きしめた。




「っただいまぁーー!!」




べ、別に、泣いてなんかねーのだ!!!


たわし、お姉ちゃんだもん!!


……ズビッ。

前回月1更新出来なかったので今回はもう1話更新しました。

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