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第65話「真実のカケラ」



「どうしたの、ノイムちゃん」


突然背後から声をかけられビクッと体が跳ねる。


50センチぐらい。


「っ……ごめんごめん…っくっく……」

「にゃー!!びっくりしたのだぞ!にいさまー!」


フグのように膨れながら動揺を誤魔化す。



本を後ろ手に持ってにいさまの進捗を聞く事にした。



「とりあえずこの本ぐらいなら辞書片手に翻訳出来るよ。内容はトージの町から移動出来る場所、カイガラ草原の歴史だね。とても面白い」


本の中身を少し伺うと、カイガラ草原を舞台にした物語や戦いの歴史が書き込まれているのがわかる。


「もしかしたらこういう書物のおかげで、間に合う事があるかもしれんなぁ」


「一応他の地理関連の本も探してみるよ。


あぁ、テロルさんとタクトさんには加護に関する書物を翻訳してもらってる。当初の目的だね」


そう言われてテロル達を覗き見る。


そこにはうず高く積まれた本、本、本……。

ゲッソリと頬がこけたテロルとパッパ………。


「もう勉強嫌です……嫌です……」

「割れる……脳味噌のキャパが……」


見なかった事にしよう。



「ところでノイムちゃんの読んでる本はなんだい?」



ギクッ



「これは、そう、御伽噺なのだ!種族神に関する本だったから読んでいたのだ!」



嘘はついていない。ついていないのだが。


「へぇ……かなり汚れてるね。こんなに酷い汚れでも読めるんだ?どんな内容だった?」


答え辛い!!


とんでもなく不穏で不気味な本だなんて言えない!!



「『神話の真実』」




辞書、無しで……。



たわしをまっすぐ見つめてニコリと微笑むにいさまは、トドメを刺すかのように続ける。


「合ってるね?」



「その通りでございますのだ……」


言わないといけないらしい。


「……たわしも、肝心な所はまだ読めてないのだ」

「そうか。……ノイムちゃんがそんなに慌てる内容なら、皆に知らせない方が良いのかな」

「にゃう……、読めたらにいさまにだけ伝えるのだ。待ってて欲しいのだ」

「わかった、絶対ね」

たわしがそう言えば、にいさまは念押しした後コクリと頷いて、たわしの頭を軽く撫で、席へ戻っていった。


その後ろ姿に目線が寄る。


どこか遠くに、行ってしまわないかと。



「(まだ、不安もあるし怖いけど。たわしはにいさまを信じるって決めたんだ。)」


そんな小さな恐怖を心の底に押し込めて、手元にある本へ目を向ける。


開かれたページから漏れ出す光、浮き上がる文字。


視界が光の輪を描くが如く、脈動した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「カルテット!バンザーイ!!」「こっち向いて!スタディグ様ー!キリング様ー!」「スティングローズ最高ー!」「パラディール!ウォークレイク!おめでとうーー!!」


民衆がコクホウ大陸産の花吹雪を英雄達へ向けて振りまく。


魔王を倒した勇者カルテットは盟友である5種族と共に統合された群島、もとい、ルトテッカ大陸の各地を練り歩いた。

その旅路の中でパラディールとウォークレイクは想いを寄せ合い、カルテットとキリングは更に仲を深めた。

しかし一方で、スタディグとスティングローズはどこか悲しげな表情で民衆の歓声を受ける。



ある日、6人は魔王から生まれた6つの果実から囁く声を聞いた。


あるものには趣味を問い、あるものには護りたいモノを問い、ある時には人生の価値を問う。


まるで赤子のような純粋で無邪気かつ幼い声に、段々と絆された6人は果物との親和性を高めていった。


最初に姿が変わったのはパラディールとウォークレイクだった。


パラディールは大切な人を護る事を求めてより強力な力と強固な肉体を手に入れた。


ウォークレイクは大切な人の心を救う為により精神力を高め、愛する事の大切さを世の中に広めた。


二人とも果実を食べ、このように強い力と心、そして新たな姿を授かったようだ。


後を追うようにスタディグやカルテット、スタディグ、スティングローズが果実を口にした。


そして永遠の命を持つ、神話の神が生まれた。


魔王から生まれた果実は、神へ至る為のものだった。


その果実の生みの親は、果たして本当に魔王だったのか。

真実は魔王だけが知っている。


そして、私は後悔した。


スティングローズがどのような願いを持って我々の一番最後にその果実を喰らったのか。



それを知ろうともしなかったからだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まるで後書きのようなその最後のページは、酷く悲しげで不穏な締め括りだった。


恐らく彼女は、彼に自分を見て欲しかったのだろう。


どんな形でも、どんな事をしてでも。


この本の著者はわからないが恐らく彼であろう事は予想がついた。


スティングローズがどのような事をしたのか、という情報は書かれていない。


だが、たわしには思い当たる事がある。

この世界で見た初めての蛍光色を放つ薄紫のモンスター。

加えて、魔導警備兵ペンソールの発していたコードだ。


この2つには意味があると考えた。


『ブー、ブー、バグ解析、ブー……、ブルー、ブルー、ヘブン、ヘブン、ブルーヘブン、スティング、スティング、スティングr』


ブルーヘブン、スティング…。

スティングは針という意味だったと記憶しているが、ブルーヘブンに関しての知識は無い。青い天国?ブルーヘブン系のモンスターは青というよりは淡い紫だった。


スティングローズの名前を言おうとしていたのだろうか?


ブルーヘブンとは何なのか、と頭を悩ませていると半分ミイラ化したテロルがヘロヘロな動きで水を欲しがった。


「持ってた水飲み干しちゃいましたぁ…ノイムさぁん……」


丁度行き詰まったので息抜きだな。


「ほい、きよめの水なのだぁ。なぁテロルー」

「んきゅっ、ごきゅっ、あ、ハイ、どうしました?」


「ブルーヘブンって単語聞いたことあるか?」


「んー、モンスター名でしたよねぇ」


「そうなのだが、アレは青く無いと思うのだぁ」


「青紫ってよりは薄紫って感じですもんねぇ、あ」


「にゃ?」


「もしかして花の名前なんじゃないですか?鑑定結果も花言葉っぽいなって後から聞いて思いまして…」



ーーーーーーーーーーーーーー

ブルーヘブンクイーン

ーーーーーーーーーーーーーー

ブルーヘブン系の最上位種。イバラのような触手で攻撃から防御までの全てを行う。

ブルーヘブン系を10分に一回産み落とす。

その奇跡は神の祝福、不可能な夢をも可能にする事だろう。

ーーーーーーーーーーーーーー


絡まった糸がするりと解ける感覚がした。


花の図鑑を探し出すと、品種改良種の欄に名前があった。


薔薇科の植物だ。


やはり、スティングローズだ。


ペンソールに魔物を植え付けたのはスティングローズだったんだ。




見てもらう為なら民を護るシステムを破壊する事も厭わないスティングローズ。

けれど、彼女は何故ここまでの事をしたのだろうか。


「ノイム、その本を手放せ」



突然部屋に入ってきたスタディグが、たわしの手から本を奪い取る。



「?!スタディグ、何するのだ!!」


「君には必要の無い知識だ。」


そういうと悲し気な表情でスタディグは火魔法で『神話の真実』の本を焼き尽くして灰にした。


「どうしたの二人とも!」


「スタディグ!なんでこんな事するのだ!!」


「知る必要が無いからだ!!!」


胸倉を掴み上げて詰問するもスタディグはその一点張りで理由を明かそうとはしなかった。


「ーーーッ他人のモノになった人間のケツをいつまでも追いかけてるって内容の本だもんなぁ?!スタディグ!!スティングローズが可愛そうなのだ!!」


「ッッ何も知らない人間風情が!!」


「図星かぁーー?!図星ですかぁーー!!?神様になったのに見苦しいぞ!!」


「貴様ッッ…!!」


「スタディグさん!!ノイムちゃんもやめなさい!!」



スタディグの理不尽な隠蔽に食って掛かり挑発する。


スタディグは悲しそうな顔から一転顔を顰めて怒りを露わにする。


「スティングローズがやった事を知らないからそんな事が言えるんだ!!君は!!!」


「あーーあーー知らねーーのだぁ!!どっかの誰かさんは知ろうとする機会すら潰すんだからなぁ!!そんな事言うぐらいならさっさと教えればいいのだーー!!」


たわしは怒り心頭である。


スタディグは先程と同じく、必要の無い知識という一点張りをして解答を拒否する。


「放すのだ!たわしはまだスタディグに聞かねばならんのだ!!逃げんじゃねぇのだー!!スタディグ!!」

「ノイムちゃん落ち着いて!!」


その後、スタディグはタクトパッパに、たわしはセシィマッマに取り押さえられて引き離された。


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