第64話「創世の歴史」
うららかな日差しの中、今日もかざむは畑を耕していた。
隣には巨大化した薬草が収穫の時を今か今かと待ちわびている。
「はるさん!この植物動くんですよ!!ほーれほれ、お前も大きくなったなー!偉いぞー!!」
そうかざむが言って茎を撫でると、フルフルと嬉しそうに震える巨薬草。
「(なんでこうなったの……?!)」
新種のモンスターを生み出した規格外の弟に頭を抱えるオカマがいた。
「ふふ、ふ…………、ん?どうしたーイノキー!!」
かざむの無理矢理上げたテンションが下がったその時、以前かざむを助けたイノキが空から舞い降りる。空元気気味に赤いスカーフを巻いたコウモリブタに駆け寄り頭やお腹を撫でまくる。
見ていて少し、心が痛んだ。
ーーープルルルルル
「?誰に電話かけてるんだー?」
イノキの鼻から響くコール音に耳を済ませると、向こう側と繋がった。
「かざむ!連絡遅れてすまんのだ!!」
その声にはるなんちゅの目が開かれる。
「(生きて、た)」
その声に心の底から安堵した。
「い、い、いのむちゃん!!無事?!生きてるー!?」
「生きてなかったら連絡してねーのだ!!はるなんちゅは近くにいるか?」
「っはるさぁぁん!!ジュピッ、姉ちゃん、いのむちゃんから電話来たよぉお゛!!」
安心したのははるなんちゅだけではない。
ノイムからの確認が来た為、かざむの近くへ行く。
振り返ったかざむは涙目で、鼻水がタラタラ流れる年相応の泣き虫になっていた。
連絡が取れなくなった昨日、不安のあまりはるなんちゅの布団に潜り込んでぐずっていたのが記憶に新しい。
「あらっ、かざむちゃんたら、後で、顔洗いなさいな!もしもしノイムちゃん?無事で何よりだわん!」
若干涙声になりそうな声を殺して、明るく振る舞った。
「そっちは何もなかったかー?ヒメカツさんやワードさんの定期報告ちゃんと届いてるかー?」
「そっちはちゃんと届いてるわよん!あー……かざむちゃんがね?」
「にゃ?なんかあったのかー?」
かざむの発現させた何らかのスキルについて話をする事にした。
肥溜の肥料変換、薬草の巨大化、作物の育成スピード。どれも異常なレベルである。
話をし終わると、ノイムが少し考えるように息を溜めてから言葉を返した。
「もしかしたら、なのだけど」
そう言って砂漠の博物館、キララで起きたスキル改変や死後に得られる能力、創造神カルテットの話を聞かされる。
だが、ノイムは、はるなんちゅに自身が死んでしまった事を話さなかった。
あくまで、自分以外に死んだ人がいたかのように説明した。
「ここを出る前、かざむにはキリング、スティングローズ、カルテットの加護がジョウロに反映されてた。他の皆にはカルテットの加護は無かったのだ。カルテット本人が特殊なスキルを得られるって言ってたから、かざむの力はそれによるものの可能性が高いのだ……堆肥の件、本当にありがと、はるなんちゅ。もう少し遅かったら、かざむを返せなくなる所だったのだ」
どこか憑物が落ちたようなノイムの声がツユカゼ地区に木霊する。
コクホウ大陸特有の湿った風がはるなんちゅとノイム、二人の言葉の隙を埋めるように唸った。
「あぁ、博物館での調べ物はまだ済んで無いのだ。すまんが帰るのはもう少し先になるぞぉ」
「あら、そうなのねん……。出来るだけ早く、帰ってあげて頂戴?」
「にゃ、もちのろんなのだ!それじゃあ、そろそろ切るぞぉ。なんかあったらまた連絡して欲しいのだ!
かざむー!すぐ戻るから待ってるのだぞー!!」
「うん!いのむちゃん気をつけてねー!!」
「あと一息よん!」
プツンッ
ノイムからの声がイノキの鼻から聞こえなくなる。
「いのむちゃんもテロルちゃんも帰ってくるし!収穫出来る野菜採ってくる!!水もやらなきゃ!!」
すっかりかざむのテンションは正常に戻ったようで、意気揚々と畑に飛んで行った。
「アタシも、そろそろ覚悟決めないとねん」
かざむがジョウロで放った雨が霧散して、はるなんちゅは濃霧に包まれていった。
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中都市キララの図書館へ文献を調べにいく。
スタディグに聞ければ良かったが、彼は今多忙の身である。
その代わりに禁書庫の鍵をエーテルメモリーに封入してくれた。
「全部ルトテッカ言語だから、読み方は君が仲間に教えてやってくれ」
そう言ってスタディグは一枚の紙を隣にいたにいさまに手渡し去っていった。
「……ノイムちゃん、わからないや」
「たわしがわかるはずが無いのだが……あにゃ?」
君の成長を、見守っているよ
「読める……読めるぞぉ……!」
「おぉ、どうやって読むのノイムちゃん?」
「……えーっと…………」
うまく説明出来ないと諦めたたわしは、大人しくルトテッカ語学習の本を探す事にした。
幼児向けの簡単な教育本を見つけたのでにいさま達に絵本の読み聞かせと日本語での書き取り、単語の意味を教えていく。
スタディグからもらった名声称号《叡智の従僕》のおかげでアホの子たわしでもルトテッカ語の言語構成が理解できるようになったので後は単語と照らし合わせるだけになった。
テロルやタクトパッパが頭を捻りつつ頑張って吸収しようと机にかじりついている。
にいさまは言語理解が早く、単語とそれに組み合わさった文の使い方に手を出しているようだ。
辞書らしき本もあったので日本語と単語を結びつけられるように暗記メモのような物を作成していた。
セシィマッマは飲み込みが一番遅かったものの、理解すると絵本をスラスラと読めるようになってしまった。
今はにいさまと一緒に日本語訳単語辞書の制作中だ。
本人曰く、単語から覚えた方がやりやすいとの事。
スタディグのくれた自動翻訳能力と書物限定での知識の早期学習能力が無ければたわしは投げ出しているレベルだ。
本棚の一角に金具付きの装丁がされた本があったのでカッコいいと思い近寄ると、その隣に古びた煤だらけの本を見つけた。
その本は神話の真実と書かれており、所々穴が開いているが読めないほどではなかった。
「太古の昔、まだルトテッカの大陸が、ただの群島だった頃。
ドワーフ、エルフ、オーガ、キャットシー、マーマンはそれぞれの種族で固まり暮らしていた。
ドワーフは知識を愛し、エルフは自然を、オーガは力を、キャットシーは遊びを、そしてマーマンは愛を愛した」
古びた挿絵には壁画調に描かれた5つの種族が様々なポーズで好きな物を表現している。
「ある日、人間が現れた。人間はこの世界に危機が迫っていると5つの種族に訴えた。最初はどの種族も笑ったが、数日後に起こる異変で真実と認めざるを得なくなった。この世界に魔物が現れ始めたからだ。人間は襲われる種族達を勇敢に助けながら仲間を増やしていった。その人間は」
早速読めなくなるページが現れた。まぁ、物語はまだあるのでそれほど重要でも無いのだろう。
「という名前であった。最初に助けたのはドワーフの生き残り。その中でもフィンクス族を纏めていたスタディグは人間と共に土魔法で海を渡る。
鬱蒼と茂るコクホウの森林。二人はエルフの生き残り、植物魔法で籠城中だったスティングローズを救出した。スタディグとスティングローズの魔法で更にモンスターと戦いやすくなった一向はキャットシーの救出に向かう。」
挿絵にはスティングローズとスタディグが隣り合って魔物を倒す絵が書かれている。人間は二人に背を預けて別の魔物と戦っているようだ。
「一向はキャットシーを救出に向かった。風の民の生き残りであるキリングはキャットシーには珍しい威圧的かつ攻撃的な性格だったが、人間の柔軟さに絆され仲間となった。
人間とキリングは非常に仲睦まじい間柄となる。」
キリングと人間が二人で歩く様をスタディグが見つめている。スティングローズはスタディグを見つめていた。
次からのページは焦げた後が目立ってきている。
「風のような速さを身につけた一向はオーガを救出に向かう。 かしオーガは犠牲者こそいれど、持ち前の力を使って魔物達を撃破していた。
他の弱者をいち早 守る為、オーガの生き残りパラディールはスタディグの土魔法で窯を作り、スティング の植物魔法で燃料を用意して、キリングの風魔法 空気を送り、自身の火魔法で簡易的な真空装置を作り爆発させた。
その爆発は徒歩よりも駆け足よりも早く一向をマーマンの住む場所ウォーブルー諸島へと吹き飛ばした。
島へ降り立った一向が見たのは、ウォークレイクが愛する男 を失い暴走す 様であった。
既に魔物は駆逐され いるにも関わらず一向に襲いかかるウォークレイク。
彼女の攻撃を人間が押 え、パラディールが組みついて動きを止める。
スティングローズとスタディグが魔法でパラディールごと動きを抑え込み、キリングは風魔法でウォークレイクが放った水魔法を切り裂き、人間とパ ディールに向かった攻撃を跳ね返した。
ウォ レイクの体力と魔力が空になる頃には朝焼けは夕焼けへと変化していた。
パラディ はウォークレイクを宥めながら、一晩中ウォークレ の心を癒し 。
パラディールの声か で正気に戻ったウォークレイクは一向に謝罪をし、仲間になった。」
なんとか読めるが、これ以上増えたらアウトだ。
人間と共に更なる邪悪に立ち向かおうとする5つの種族が描かれている。
「そして5つの種族と勇者はついに諸悪の根源と対面した。 は強く、幾度ともな 強力な魔物が生み出された。
人間をスタディグが庇 、トドメを刺されそうになったスタディグをスティングローズが庇う。
キリングとパラディール、ウォークレイクは強力な魔物と共に相打ちとなり倒れた。
皆の心が折れそ になったその時、人間が勇猛果敢に叫んだ。
には絶対屈しない、どんな困難でも、私達は乗り越えてみせる!
彼女の剣に光が宿る。それは種族達の祈 だ。五色に輝く光を一線す と、 は6つに裂 、こう言い残 た。
(死とは、救い也。)
を倒した後、残され 6つの果実はそれぞれの英雄に預けられ 事となったのである。」
倒れる仲間達を背にした人間が、様々な魔物が生えた存在を切りつけ打倒している挿絵が描かれていた。
「こうして世界から魔物はいなくなり、再び平和が訪れた。」
「(なら、この世界にいる魔物はなんなのだ?)」
神々しい焦げた挿絵が、途端に胡散臭くなる。
「(たわしは、たわしは…)」
次のページを開けば、もう焦げが多くのページに広がっていて、普通なら読める状態ではないだろう。
そう、普通ならば。
黄緑色の閃光がノイムの瞳を刺激する。
蛍光色の奔流が文字を模って溢れ出した。
大変お待たせ致しました。




