第62話「リベンジ」
不愉快なら鳴き声と共にそれは現れた。
「うゎぁぁぁあ!!」「キャァァア!!」
前方から響く悲鳴の元へリュウは仲間になったミストを伝令に送った。
見覚えのある紫の煙を吐き出して、モンスターの断末魔が響く。
ノイムの目ですらわからなかったその敵は、ガラ空きだった部隊の中心に姿を現した。
そして、自らの背後にも。
「《昇龍炎・極み》《昇龍炎》」
後ろから来たブルーヘブンアイヴィを5体纏めて後退させて、《昇竜炎》を自陣に向けて放つ。
毒煙を《昇竜炎》の炎が焼き尽くし、消滅させる。
桃桜の葉、格闘家のセシィにヒントを得た回避術で毒煙を回避する。
ヒットアンドアウェイで状態異常に対処していると、レンジャーの魚人、ミストが帰還する。
「ドワルがマキュアの為に駆り出されています。他の状態異常はなんとか対処出来ていますが、崩壊するのも時間の問題かと。桃桜は軽く50は超えるブルーヘブンに囲まれています」
「それはまたとんでもないな。物理職チームに魔術師を派遣もしくは合併させてくれ、毒煙を焼くことを優先させるんだ。桃桜はノイムさんに任せろ」
「わかりました」
そう言って乱戦の中、器用に自軍を駆け抜ける彼を見送る。
地味に防御力が高いブルーヘブンアイヴィを駆除しながら、横目で自軍が纏まり始めた事を確認して安堵する。
気掛かりなのは、ボスと対峙している桃桜の葉だった。
「(終わったらすぐに援軍に向かうか)」
目の前の敵を一刻も早く潰す事に専念するリュウであった。
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「キュルルルァィィィ!」「ィィウュルュゥウ!!」
「うるせーのだぁぁぁ!!《サイクロンアッパー》ァア!!」
赤く染まった呪いの装備、アニマルカルテットもといキリングハンドで数えるのも億劫になるほどのブルーヘブンアイヴィー達を爪スキルでドリルのように攻撃する。
破損データとして存在したその武器は紫色の閃光を放つ大爪を備えた鉤爪装備へと変化していた。
効果は攻撃した相手に状態異常(毒)を付与するというものだが、敵は毒そのものである為か攻撃した分しかダメージリソースを稼げていない。
にいさまは引き続きハンマーをモンスターに当てながら《ソウルクラッシュ》と《デビルクラッシュ》でMPと防御力を低下させていく。
目の前のブルーヘブン達は地味に防御力が高く、クイーンに近づけさせまいと壁を作り合体して広間からたわし達を追い出そうと試みている。
早く、早く、炎上しろ火炎瓶!!
たわしの分身をいつでも突撃可能にして火炎瓶の植物油が燃えるのを待つ。
植物油は中々引火しないのだ。
《身代わり》で使ってしまったHPを回復する為、薬草を食べながら爪スキルで敵を攻撃していく。
セシィマッマはテロルをパッパから預かり肩車、空中からの殲滅に勤しんでいる。前に出過ぎるとクイーンの触手が飛んでくる為ヒットアンドアウェイで攻撃を避け、アイヴィー達が壁を作らないように突き落としていく。
セシィマッマは再びスキルを変化させている。攻撃技スキル《昇龍炎》の応用である《ブースト》を使用しながら、同じく攻撃スキル《旋風脚》を使用したのだ。
弧を描く美しい炎のラインと緑色の閃光がモンスターを弾き飛ばす。
それでも、全ての面をカバー出来るわけじゃない。
「(燃えろ、頼む、燃えろ!!)」
モンスターの影でクイーンへの道が閉ざされる中祈る。
たわしが鉤爪で攻撃していたその時、隣がセシィマッマによって吹き飛ぶ。
「ナイスだセシィ!《シールドバッシュ》《火炎切》!!」
タクトパッパはその隙をついて《火属性付与》を使った盾と剣で敵を押し退けて前線を上げた。《シールドバッシュ》は盾を敵に叩きつけつつスタンが5%の確率で入る。目の前でバリケードを作ろうとアイヴィーに乗った別個体のアイヴィーがゆっくりスタンを入れられ崩れ落ち、土台だったブルーヘブンがタクトパッパの《火炎切》で後退する。
《火炎切》は炎を纏った刀身で相手を切る片手剣スキルだ。
間近で見たタクトパッパにはペンソール戦で見た赤色の閃光を放つ何かが憑いているのがわかった。
あの時の、明確に見えなかったその光は。
「妖精…?」
テロルが火属性の魔法を使うたびに、妖精が手をあげる。
マッマがブーストする度に天を指差す。
たわしと、目が合った。
腰に下げた火炎瓶を妖精に向けて、掲げる。
揺らめく炎が油の中で燃えていてなお延焼しない、その油は。
妖精の微笑みと共に掲げられたその手によって、燃え上がった。
「っっありがとうなのだ!妖精さん!!」
たわしの分身達全てをブルーヘブンアイヴィーとクイーンに突撃させる。
炎に巻かれ体のガスを焼き尽くされながら絶命していくアイヴィーをタクトパッパが盾で押しやりクイーンへの道を開く。
「行け!ノイムさん!!」「ノイムちゃん頼んだわよ!」「ノイムさんは私達が守りますからぁ!!」
「ノイムちゃん!!生きて帰るんだ、皆で!!」
当たり前だ。
「当たり前なのだっ!!」
たわしの分身と一緒に後ろに控えていたにいさま達やキララ組も動き出す。
両手に鎖を発動し、壁に突き刺して己の体を射出する。
分身達も鎖に足をかけてたわしの元へ駆け出した。
クイーンの触手がトグロを巻いて襲いかかる。
それに対応する術は、虫籠で手入れた!
ポーチから取り出した1粒の黄色のカケラを飲み込む。
「っ!!」
緑の肌に迸るスパイシーな麻痺の味が力に変換される。
鎖を再度顕現させ触手へ無理矢理体を動かしてライダーキックの姿勢を取る。
装備の効果でスカートに麻痺の状態異常が吸われ、さらにその下にある足装備の効果が現れた。
「圧縮射出っ!!」
黄色の閃光を帯びた爪先と触手が繋がった瞬間、派手な音を立てて触手が弾け飛ぶ。
不自然な動きをし始めた触手の根本がぐったりと動かなくなる。
「妖精さん頼んだぞ!!火炎瓶だオラァーーッ!!!」
その隙を見逃さず火炎瓶をお見舞いする。
タクトパッパの妖精が狂喜乱舞しながら踊り狂ってるのには突っ込まないでおこう。
「《プロミネンス・ファイアボール》!!」
火炎瓶から放たれたガラス片の爆発と引火した油がクイーンに降り注ぐ。
火の手が回っていない所で今度は猛毒結晶をポーチから取り出して服用。
足腕胸元、そして顔。ドワーフ特有の緑の肌から紫色の痣がくっきり現れて、再びスカートに吸収され足装備に移動する。
足を高く上げて勢いよく踏み締める。
「オルァァアッ!!!」
足の先から射出されたエネルギーがクイーンの内部から爆発して1mほどの穴が開く。
強化されたテロルの火炎球が幾度も降り注ぎ、合間に追いついてきたたわしの分身達が武器と火炎瓶を持って業火に身を投じた。
そろそろ危険と判断。鎖をクイーンに突き刺し命綱にして飛び降りた。
クイーンもかなりダメージを受けているようでもがき苦しんでいるのが落下中の視界に入ってきた。
突然クイーンが身体を大振りにひねり、たわしは遠心力と共に引っ張られた。
更に間が悪い事にクイーンへ刺した鎖の位置へテロルか誰かかもわからない火炎魔法が炸裂。
この選択は間違いだったみたいだ。
ひねりで発生した重力エネルギーと途切れた支点。答えは一瞬で理解できた。
「(鎖、駄目だ、間に合わない)」
片腕の鎖をクイーンに鎖を突き刺そうとしたが判断が遅く失敗。
壁に刺そうとすればそのまま叩きつけられる。
次は地面ーーー
「来い!!ノイムちゃぁぁあん!!」
鎖を展開するのはやめだ。
重力に従ったまま赤い服に突っ込む。
それと同時ににいさまが駆け出した。
何十本もの触手がたわし達がいた場所へ次々と突き刺さり破片が飛ぶ。
「今度は、やらせないから!」
間近で見たにいさまの瞳から赤い煙が噴出しスピードが上がった。
タクトパッパ達には目もくれずターゲットが完全にたわしに向いているのが、背後から迫ってくる触手の量でわかる。
「放て!!」
後方支援していた、リュウさんの声。
「キュゥゥゥァァァア!!キィィエエァアア!!!」
クイーンに次々刺さる弓矢。
先端には銅で出来た針が10本程括り付けてある。
絶え間なく降り注ぐその矢と火炎魔法を一身に受けて、クイーンから紫色の光が溢れ出す。
「もうすぐ10分経つぞーー!!」
次のブルーヘブンが生み出されるまで、残り僅か。
何が起こるかわからないその一瞬まで、全員が力を注ぎ込んだ。
「キュゥゥゥァァァアァァァア!!!!」
耳を塞いでしまう程の大絶叫。
にいさまの耳とたわしの耳をくっつけて、両腕が使えないにいさまの代わりにたわしの手で2人の外側の耳を塞ぐ。
《プロミネンス・ファイアボール》とは毛色の違う爆発がクイーンから溢れ出した。
「総員退避ーーー!!!」




