第60話「ブルーヘブンの園」
「ノイムちゃん達から連絡、来ないわねん」
熱中症になり掛けていたかざむを救助した、その2日後。
3日経っても連絡が無ければ、何かに巻き込まれたと思って欲しい。
そう言って彼女達が旅立ってから今日で3日目だ。
フレンドの現在地を確認したが自身が行った事が無い場所にいるらしく、????と表示されていた。
幸いかざむはすぐ意識を取り戻し、精霊の飲み薬のお陰か今まで通りザクザクと畑を耕せる程回復した。
ピンクの髪をかき上げて暫し思考の海に沈む。
「(キララは砂漠の博物館、クリスタルパレスに似た建物で職人レシピが豊富に揃った図書館が中に内蔵されてる。庭には……確かメインとサブのイベントポイント、智神スタディグの石像があったわねん……)」
メインはいつ行っても必ずシーンがスタートするのだが、サブクエストのスタディグ像のイベントは時間帯がランダム。人気があまり無い中都市なので情報も少なく、休日を一日潰し何度もイベントフラグを確認しに行ったものだ。
イベントフラグはスタディグ像が庭の台座に現れる事である。
出現する時間にその場にいた場合はサブイベントがいきなり始まる。シーンが始まるとなかった筈のスタディグ像が主人公の前にあるという不思議仕様だ。
ここまで思い出して、ふと気がつく。
この世界は、現実そのもの。
ゲームでスタディグ像の出現シーンは描かれなかったが、この世界では?
そう考えると、戻ってこないのはそのサブクエストが関係している可能性が高い気がした。
「(今のアタシがやらなければならないのは、かざむちゃんを守る事。この屋敷をいつでも使用可能にする事、あのオーガちゃん達を使って労働させる事。これからの食糧難に備える事……ここから動く事は出来ないわねん……)」
となると、他の所にいる誰かを引っ張ってくる必要がある。
ワードとヒメカツは中都市ツードに君臨しているチームの潜入調査に行っていて、キララには向かえない。
フレンドリストにいる高レベルの人に通話を送るが、この世界に来ていない。ログアウト中ですというアナウンスが流れる人もいた。
繋がっても戦闘中でそれどころでは無かったり、忙殺されていたりと中々捕まらない。
少ないフレンドの中、最後の一人に通話を送ると彼にだけ、おかしなアナウンスが流れた。
『現在ーーーーーーにいる為通話出来ません』
驚いて彼の居場所を確認すると、そこは。
ノイム達と同じ????、であった。
自身がゲーム内で行っていない所というのは無いのだ。
リリース初期から五年間、メインクエストが配信されれば即日でクリアし、称号集めの為にサブクエストも全てこなした筈。
彼等は今、どこにいるのだろうか。
同じ????にいるノイム達にも通話をかける。すると、同じアナウンスが流れた。
どうか、どうか、願わくば。彼がノイムちゃん達の側にいますように。
「同じ場所に、貴方がいるなら、いいのだけどねん。……リュウちゃん」
頼みの綱は、もう彼しかいなかった。
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「アームだけなら食い止められます!モンスターはお願いします!」
廊下に出て中間ポイントに位置する場所まで移動したキララ組は、殺した直後にランダムな状態異常を撒き散らす粘性のモンスターに遭遇した。
モンスターを補助するかのようにノイムを殺したあの忌まわしいアームが天井の穴から伸びてくる。
廊下に出た段階で通路には繭のような物が複数存在していて、それらは怪しい蛍光色の光を放っていた。
繭はそのまま奇襲をする形で羽化し、プレイヤー達に襲いかかった。繭を触らぬ神に祟り無しと放置し、やらかした段階でそれを学習した。
羽化する前に破壊したらどうなるか、戦線が落ち着いてからその実験の為繭を破壊した。
先程の粘性の高いカビの様なモンスターの死骸が破壊した繭から露出する。
直後、その繭が纏っていた蛍光色の光、異変の痕跡が消滅した。
破壊して活性化しない事はそれで確定出来たが、何分数が多かった。
時には見えずらい所に繭があったりする為、ノイムの目に見える異変の痕跡、蛍光色の光感知が無ければ発見が難しい繭も多かった。
高所に設置された繭は魔法でしか届かない位置にあるものが多く、ノイム自身は攻撃魔法が使えない義賊。暗闇で光り輝く繭がノイムが見えても、普通のプレイヤーにはただ暗い中に何かがあるなという認識しか出来ず、繭の近くに魔法が着弾、奇襲が難しいと判断した繭が羽化する。という事件も起きた。
更にそういった繭を壊そうとするとアームが邪魔しようとガードしてくる。おかげで進軍はかなりの遅延を強いられ肉体的な疲れは無いものの、精神的疲労がマシマシだ。
《鑑定》をアームやモンスター、繭に使うと、名前と生態が浮き出てくる。
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イレイザーアーム
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キララの巨大警備兵器ペンソールのウェポン。
キララの警備に利用されている。
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ペンソールは、キララの出入り口付近の人型NPCロボットの名前だった記憶がある。
今思い返せばあの巨大甲冑はペンソールを5倍大きくした見た目をしていた。
スタディグの予想通り、警備システムそのものが乗っ取られているという事がこの鑑定で確定した。
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ブルーヘブンシード
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ブルーヘブン系列の初期分体。
繭で獲物が油断するのを待ちつつ、危険を感じると羽化する習性を持つ。
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ブルーヘブンブランチ
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ブルーヘブン系列の第二形態。
羽化した場合、その高い粘性で獲物を窒息させる狩りを行う。その際に体内でエネルギー消費により発生する様々な状態異常ガスが蓄積される。
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そして、モンスターと繭の鑑定結果。
ブルーヘブンと書かれているものの、実際は白に近い青紫色。
どこらへんがブルーなのか、むしろパープルではないのか。そんな疑問が頭をよぎった。
そうして進軍する事30分。
既に破壊した繭は50を超え、問題の動力室に繋がる広間への距離は10メートル程だった
。
「行き止まりだぞ」「ここから先に動力室があるんじゃなかったの?」「折角ここまで頑張ったのに!」
かなり暗く、目の前に扉のようなものさえ見えず、あるのは壁。
そう口々に言うプレイヤーには、確かにそう見えているのだろう。
ノイムは粟立った肌をさすりながら、どうするか思案する。
自身の目には通路を埋める程の巨大な繭が見える。今までの繭とは比べ物にならないほどの蛍光色に光り輝いている様子が見えていた。
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ブルーヘブンアイヴィー
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ブルーヘブン系列の第三形態。蔦のように壁にへばりつき、ブルーヘブンクイーンが生殖活動を行う巣への道を守護する。
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「そこにブルーヘブンアイヴィーって繭がある……説明によるとまだクイーンが奥にいるらしーのだ……テロル、壁に向かって《プロミネンス・ファイアボール》を全力で頼むのだ」
「こんな気持ち悪い生き物かまだいるんですかぁ?!行きたくなぁぁい!!
……でもやるしかないんですよねぇ!!
《プロミネンス・ファイアボール》!!」
次の瞬間照らされた繭を見たテロルの髪が逆立つ。
ブルーヘブンブランチが合体したような見た目の繭がこちらをジッと見つめていた事に気がついてしまったからであった。
それを見てしまった他の魔術師もそのあまりのおぞましさに条件反射が如く火炎魔法を打ち込んだ。
もっと燃えるがいいや。
ブルーヘブンアイヴィーは塵と化して燃え尽きた。
そんな感じで結局ブルーヘブンアイヴィーがどんなモンスターかもわからないまま、たわし達はブルーヘブンの園へ挑む事になってしまったのである。
ひたすらキモかったというのを強調しておく。




