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第59話「守りたいもの」




たわしはダンゴムシ。


たわしはダンゴムシ。


そうたわしは植木鉢の下らへんにひっそり生きてるダンゴムsーー



「ノイムさんー!なんでいきなりリア充になったんですかぁ!」


にいさまの腕の隙間からテロルが声を掛けてくる。くそう。


現在羞恥心のせいで、にいさまの腕にダンゴムシ状態で埋まってますのだ。


「テロルさん、本人もすんごい恥ずかしがってるからこの辺にしといた方が……」


にいさまがたわしを時折撫でながらテロルを離そうと試みてくれる。


「ン゛ム゛ゥー……仕方ないから引きますけどねぇ!!脱出したら根掘り葉堀り掘削しますからねこのダンゴムシ!!

あとソウルさん、ここまで来たら身内みたいなもんです。帰ったら桃桜の葉に所属変えて下さい!」


フンフン唸る猫妖精キャットシーを見てにいさまは苦笑いしながらも


「そうするよ」


と答えたのであった。



テロルはクリーム色の耳をピクピクさせてタクトパッパの所に移動する。

隣にはセシィマッマがいるのでいつも通り親子にしか見えない。


ちょっと嫉妬したがにいさまの撫でで霧散する。ごろにゃーん。


「ノイムちゃん、MP回復薬必要かい?」


大工職人枠の武器、清めの杖の素材アイテムとして魔法の聖水が取り出せたらしい。


暴れる自分を拘束件隠蔽する為にクモノを展開したのでだいぶMPは消費している。是非とももらいたい程だ。


にいさまから受け取ろうとすると、にいさまが聖水が届かないように高い高いしてくる。


むくれてジト目でにいさまを見つめると、コロンと赤ちゃん抱きされる。


「零さないようにね」


アッ、これ哺乳瓶スタイルーーばぶぅ……。



周囲の人の目なんぞもう気にならなくなった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ノイムさん、準備はいいか?」


「今回は前回の反省を生かしてMP見ながらやるぞ、待たせて申し訳ないのだ」


壁に埋まったままのフライパンを手に取る。


「(耐久度がまた下がってるのだ、ギリギリいけるだろうか)」


そう思いながらスキルを展開する。


「〈腕力強化〉、〈皮膚強化〉、〈均等加熱〉!!」


フライパンが150度から熱を上げ始め再び有毒な甘い匂いと煙が体を包み込む。


前回の反省を生かしてポキュアの使えるプレイヤーを周囲に展開しているので、混乱は無かった。


シュゥウウウウ……スカッ…


残りわずかだったアクリルガラスの隔たりが無くなった。


フライパンで貫通したが、このままではオーガやマーマンが通れない。MPが危ういので聖水を口に含みつつフライパンを使って穴を広げていく。上の方は身長が足りないので職人設備を踏み台に作業する。





「(ん?なんで聖水でMP回復するのだ?……もしかして)」


たわしは今更その事実に気がついた。




ガラスケースの中は白い壁が広がっていたが穴からは薄暗い博物館の壁が確認出来る。

どうやらマジックミラー的な壁の内側にたわし達はいたらしい。




2m程に広がった穴から広がるその空気は一層不気味で、ここから出る事を躊躇してしまうほどだ。


生ぬるい風が頬を撫でていく。


使用した鉄フライパンの防御力は10だけ残ったのでまだ使える。


『均等加熱を終了します』


たわしが無意識に終わったと考えていたからなのか、スキルが終わってしまったらしい。

パッパ特製のフライパンはホログラムを纏ってたわしのアイテムバッグに入ってしまった。


ん?ならなんでたわしが気絶した後にフライパン、バッグに入って無かったのだ……?


少し考えたが聖水の件の様にすぐに答えが出るはずもなかった。脱出してから実験すれば良いか、と思考を切り替える。


「とりあえずここから動力室にいくのだ、この地図を見てほしいのだ」


ガラスケースは常に明るい為、開けたばかりの薄暗い穴にピアスをかざす。


緑色の輝きと共にエーテルメモリーピアスから地図が映し出される。



「綺麗……」


そう呟いたテロルのつぶらな瞳はその細やかな粒子光を反射して、小さな夜空となっていた。


催促の目が複数ある事を思い出し、続きを口にする。


「動力室は一番奥の広間にあるのだ。道は一本道だから迷う事は無いのだが。……絶対なんかあるし、あれを操れるだけの危険な存在がいるのは確かなのだ。警戒しながら進んで欲しいのだ。では、リュウさん」



「あぁ。それでは皆、各自決めた班ごとにまとまって行動してくれ。通路が狭い分、この広間に行くまで全員合流が難しいと思われる。分断されても大丈夫なように回復職と戦闘職を各班に分けたから、すぐに戦線が崩壊する事は無い筈だ」


リュウさんの指揮能力はおそらく現時点でいるプレイヤーの中でもトップクラスだ。

班はレベル差や、元々の相性なども考えて配されている。


低レベルの僧侶が二人なら高レベルの戦闘職が三人着く。残り一人は義賊や旅芸人、ダンサーなど、補助職が入る構成となっている。


逆に高レベルの僧侶が一人で低レベルの戦闘職が二人、補助職が二人入る構成などもあり、補助職のスキルなどで戦闘職のパワーを底上げする事で纏まりを作ったりして、人材が余るのを防いでいる。


最初に突撃するのは桃桜の葉一行、たわし達だ。

状態異常は呪いの装備と化したチェシャ猫シリーズのおかげで、たわしが全てカバー出来る。


だが他のプレイヤー達は耐性装備を破壊されたり奪われたりしてしまっているのだ。

先駆けとして情報を入手する為にも高レベルですぐにくたばる事が無い、たわし達が適任だった。


逆に殿はリュウさんを筆頭に結成された高レベルパーティが組まれた。


全体の把握がしやすく、背後から奇襲が来ても対応出来るような配置だ。


さて。




「リュウさん、たわし、今欲しいものと実験したい事がある……というか出来たのだ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


キリングハンドを腰から外して手に装着する。



腰にぶら下げたままの爪装備、キリングハンドの呪いの効果は既に出てしまっている。

手につけていなくても持っているだけでアウトだったらしい。

もうたわしは他の武器を装備する事が出来ない。


それなのにフライパンが持てたのは、武器ではなく、職人道具だから、とたわしは思っている。


タクトパッパは腕装備に状態異常ガードの一部を付与していたらしく、装備を奪われてしまった。今は低レベルからでもつけられる鉄の小手を装備しているようだ。


ここで作ってもらったやつなので、たわしの祝福で2倍だから弱いわけでは無い。


セシィマッマとにいさまは耐性装備がアクセサリーのみだったらしく、これも奪われたようだ。


テロルは元々後衛なので耐性装備が必要無かったらしい。たわしと同じく装備は奪われなかった。


桃桜の葉の仲間達は出撃の為に集合していた。


「(皆を守る為の策も、実験も、アイテムも、心許ないけど全部揃えた。本当は凄く、怖い、けど)」


「ノイムちゃん」



今のたわしの隣には、にいさまがいる。


命に変えても守らないといけない大切な貴方が、そこにいる。


たわしの歪みを、努力の証と評し、歪みによって潰れそうなたわしを容易く救い、掬い上げた人。


そんなにいさまのお陰で、理想と現実を組み合わせて劣化した新しいたわしを。





貴方が好きになってくれた自分自身が少し好きになって、それでもまだ少し嫌いな自分の理想を信じて。



「(絶対、誰一人として死なせない)」



無謀な己を貫き通すと決意したのだ。




「想定はちゃんとしてたんだ。……けどいざ出撃ってなると正直怖い。ノイムちゃんは?」


「たわしも、めっちゃ緊張してるし、不安で仕方ないのだ。でも大丈夫!!にいさま達は、最低でもにいさまだけは絶対死なせないのだ!」


胸を左手でドンっと叩いた後、もう片方の手を腰に当てて仁王立ちする。


こんなツッコミ所満載な発言に彼女がツッコミを入れないワケが無く。



「その最低の中に私も入れてくださいよぉおおお!このリア充共ぉおお!!」


たわしの隣にいたテロルがクリぼっちの独身が如く吠える。


「にゃっはっはっは!すまんすまん!!テロルは切りジョーカーだからな!もちろん入れるのだ!新しい新技、期待してるぞ!」


そう笑い飛ばせば、今度は意外とお茶目なタクトパッパとセシィマッマが。


「おいおい、俺とセシィも入れてくれ」

「テロルちゃんの運搬をする私達を仲間外れにしたら、テロルちゃんが動けないでしょ!」


と戯けた調子でたわしにお願いしてくる。


「それもそうなのだ……テロルを守るならパッパ達も欠かせないぞぉ、こりゃまた骨が折れるのだ!!」


マッマとパッパに両腕を伸ばし指切りげんまんをする。


「嘘ついたら針千本とハリセンボン飲ますからな!頑張れよ!もちろん君もだぞテロル」


パッパがそんな冗談を言って、リア充に殺意の波動を送るテロルを捕まえて抱き上げながら言う。


「なんで連帯責任なんですかぁぁ!パワハラですよぉお!!」


「こらタクト!幼児虐待はダメでしょうが!」

タクトパッパと引き離すようにマッマがたわしを抱き上げる。テロルも回収してあげて?


「もしそうなったら、俺も飲むよ!」


セシィマッマに抱かれたたわしに親指を立ててアピールするにいさまに思わず吹き出した。



片手でテロルを抱き上げるパッパがもう片方の手を使ってマッマに抱き上げられたたわしをグシャグシャと撫でる。




「絶対、死ぬんじゃないぞ」



「そんなフラグを建てるパッパなんて大っ嫌いですぅーー!!フラグクラッシャーになってやるぅうう!!」


腕にいるテロルが縁起でもないタクトパッパの発言にぷんすこしてパッパのほっぺをグイグイと引き延ばす。


そんな漫才のような掛け合いを見て周囲も笑って。


いつの間にか、無意識に心の壁を作っていた自分は。




こんな時だっていうのに、心の底から笑っていた。






「皆!!行くぞぉ!!監獄脱出プリズンブレイクの始まりなのだぁあ!!!」




「「「「おおぉーーーーッ!!!」」」」

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