第6話「ようこそ現実(リアル)へ」
「サイクロンアッパァァァア‼︎」
混戦状態の中都市ランブに縦回転でドリルのごとく突き抜けるどわこが一匹。
「たわしの鉤爪の錆になりたい悪い子はいねぇがぁぁあ"‼︎」
足元には大量のモンスターの亡骸が転がっている。
慣れない身体のコントロールに最初はかなり苦戦したものの、スキルに頼れば身体がスキルに沿って動くとわかったので多少楽になった。
それでもまだ素早いこの身体の速度には慣れないがやるしかない。
「あのどわこすごい顔になってるぞ……」
「ゲームの可愛いロリ顔が鬼瓦みてぇだ」
ランブのプレイヤーがドン引きした顔でたわしを見ている。
気にしない気にしない。
また一匹、悪い子をナマハゲたわしが討ち取る。
「に"ゃぁぁああ!次来いや!」
モンスターの体液に濡れながらアドレナリンが分泌された頭で雄叫びを発し、恐怖を吹き飛ばすたわしがいた。
これが不名誉な呼び名祭りの始まりである。
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ランブのプレイヤー達はゲームじゃないからこそのモンスターの戦い方に苦戦していた。
ゲームだった頃は1ターンに一回行動してくる仕様だったのが、そんなの待つわけねーだろハゲと言わんばかりにモンスター達は猛攻撃を仕掛けてくる。
吸血バッタは噛み付いたまま離れずプレイヤーの血を吸血し続け、
ファンシーキャットは噛みつき、攻撃しなければ噛み付いた部位を離れない。
空を飛ぶ事が得意なドラゴンフライというモンスターがプレイヤーの武器が届かないところで炎を吐き続ける。
魔法使いは魔法の扱いに苦労しているのがわかる。
未だ突破口は掴めていなかった。
畑に制限が無いなら、モンスターが攻撃し続けられるなら、他の事だってきっと出来るはずだ‼︎
返り血を浴び自身の血で傷ついた身体を無理矢理動かしながら吸血バッタの噛み付きを躱し思考を働かせる。
「(これはゲームじゃない、プレイヤーもゲーム通りの動きしか出来ない訳じゃない、はず‼︎)」
地面にしかゲームでは配置出来なかった呪文だって。リアルなら。
「クモノ‼︎」
クモの巣のような粘着を持った陣が空中で発動。空中で飛行する吸血バッタやファンシーキャット、ドラゴンフライが絡め取られていく。
「(行けた…!!)」
モンスター相手に目立ちやすく避けやすい攻撃魔法よりも設置型の補助魔法の方が気付かれにくいようだ。
「っおい、あれは新しい、魔法?」
「クモノ?」
「それは地面に設置して起動するやつじゃないのか?」
「そんな、まさか」
呆気に取られるプレイヤー達がゲームでは当たり前だった事が当たり前では無くなっていたのに気づいていく。
「にゃー!クモノ‼︎クモノクモノ‼︎クモノ‼︎」
連続でクモノを落として生成を繰り返す。
団子状になったモンスターの塊が出来上がった。
その瞬間
苦し紛れにドラゴンフライが放っていた火炎ブレスによってクモノが燃やされてしまった。
それを見て他のドラゴンフライが学んだのかブレスを吐いて焼く。
ネットが燃えて穴が空き、そこからドラゴンフライや他のモンスターも抜け出ようと試みていた。少なくとも知能があるのが確認出来る。
「にゃぅぅ…このままじゃ…っ」
ノイムの背後から指示を飛ばす声が上がる。
それはメガホンのように広い範囲に拡散されたものだった。
「いけるかわからないけど行くぞ‼︎氷系呪文を打つんだ‼︎動かないならまだ当たる!タクト!初心者魔法使いを連れてきてくれ!」
エルフの女の子と戦闘をしていたドワーフの少年の掛け声によってプレイヤーがアイス系の技や呪文を繰り出していく。
「ブリザード‼︎」「ッアイスシールド‼︎」「アイス‼︎」
「‼︎」
焼き切られそうな所から氷系呪文が降り注ぐ。カチコチと当たった箇所から固められていく。
しかし、まだ数が足りない。
包囲の一部が崩れてきている。
「クモノ!うぅ、包囲が落ちちゃう…まずいのだ…!」
「魔法が使える初心者、援護‼︎
呪文で倒そうと思うな‼︎燃やされても大丈夫なように氷系呪文で固めろ‼︎」
包囲をくぐり抜け向かってくるモンスターを前衛にいる高レベルプレイヤーのオーガ男が押し留め、後続に来たレベル30ほどのプレイヤーがアイスを打ち込んでいく。
ものの数分、されど、数分、プレイヤー間で連携が取れ始める。
「アイス‼︎くそ、義賊はいないか⁈いたらクモノしてくれ‼︎破られそうだ‼︎」
「クモノ‼︎大丈夫か‼︎行くぞお前ら!」
「ハイ!お頭!」
「ひぃぃ誰か‼︎助けてぇぇえ!」
「パラディンガード‼︎お前らしっかりしろ‼︎体制立て直せ‼︎」
混戦極まったこの戦場で初陣の人々が多い現状。
ゲーム仕様だった多くの縛りが無くなった、異世界での戦闘。
トライアンドエラーを繰り返し理解し始めたプレイヤー達。
そんな彼等の反撃が、ここから始まった。