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第58話「信じる為の力を下さい」

心理描写が多分に含まれます。糖分は微量です。




これは、夢だ。



今の、現実リアルの世界で起きてるかもしれない、夢。



お母さんが泣いてる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うちの娘と息子、伊乃夢と風夢が行方不明なんです!!」


「奥さん〜、落ち着いて、ご家族さんはいくつの子ですかねぇ?」


「19と11です!!姉と弟です!」


(ここは、近くの警察署か)


初老の警察官が面倒臭げに母のヒステリックな声に顔をしかめつつ、詳細を聞いているようだ。


「行方不明ったって今日は休日ですから……どこかへ二人でお出かけなさってるとかありませんかねぇ?いつくらいから姿が見えないんです?」


ボルテージが上がっていた声のトーンが思い出そうとした事で数段低くなる。


「昨日私が夜勤で支度する時には、もういませんでした、から、多分、20時は、家に居なかったと」


「はぁ〜〜多分ですかぁ……失礼ですがそのまま出勤なさった?」


「急いで、いたもので」


「ハイハイ〜……、旦那さんは彼女たちを見ていないんですかねぇ?」


確信を持っているかのような警官の声にたじろぎながら母が嫌々答える。


「……母子家庭なので、旦那はいないです」


「わかりました、ではまだ捜索願いは出せませんねぇ」


「はぁ?!なんで!!」


「まぁまぁ落ち着いて、軽く聞いただけでも複雑な家庭環境のようなので、家出の可能性が高いです。弟さんと一緒に高校卒業してすぐの未成年が友人をアテに泊まり歩くなんてすぐに不可能になるでしょう」


「伊乃夢は家出をするような子じゃありません!!」


「奥さんあくまで可能性ですよ可能性。ですが状況が家出のようにも見えるのでねぇ。なぁに、気が済んだらすぐ戻って来ますよ。3日経っても戻らなければまた起こしになって下さいねぇ」


「待ちなさい!!何話を終わらせようとしてるのよ!娘と息子に何かあったらどう責任取ってくれるのよ!!」


カウンター越しに食ってかかる母親を通りがかった婦人警官が慌てて止めようとする。


「なんで止めるのよ!娘と息子の一大事なのよ!!ちょっと!!離して!!!離しなさいったら!!伊乃夢達を探してよぉおお!!」




母の悲痛な叫びが、署内に木霊した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そういえば、今日でこっちに来てから一週間くらい……か。


何故こんな夢を見ているのだろう。


母は私が嫌いなんだと思ってた。抱っこを強請ってもすぐに手放されるし、もっととせがむと鬱陶しいと払われたから。


私がお母さんと新しいお父さんが一緒にいるときに近づくとあっち行けってしてくるから。


小学生1年生の終わり頃、『サル』が生まれて。


お母さんは『サル』につきっきりで。


たわしは自己流で長くなってきた髪を一人で結ぶようになった。

お母さんはたわしよりも、『サル』のような弟の方が大事らしい。


おぎゃあおぎゃあと泣く『サル』を、羨望の眼差しで見つめたのを覚えている。


その2年後、『サル』の父は突然いなくなった。

御構い無しに、『サル』はすくすくと育って気味が悪いくらい、気持ち悪がるたわしの後ろを追いかけてきて、さらに5年後。



『サル』は、『サル』は。




『風夢』は、小学1年生の終わりに特別な子が集まる教室に転入した。


たわしが迷惑だろうと母に渡さなかった授業参観のプリントを、学校から帰ってきた『風夢』が持ってきて。それを見た母はこの時間ならいけると、『風夢』に言った。


諦観ていかんの眼差しで、母を見つめた中学2年のたわしは、たわしは、私は、ーー忘れていない。


母は、私の事が嫌いなのだと思っていた。





「何で捜索届も出せないのよ!!2人とも家出なんてするような子じゃないわ!!!」





何故、今探しているのか、それはきっと。


母は私の事が好きだから、ではない。


便利だったからだ。そうに決まっている。


そうじゃなければ、たわしは、何故。





この世界で、死んだのだろう。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ぱちり、と目が開く。



「ッッ…ハアッ…〜ッ」



何だ、この、夢は。


何故、こんな、こんな、悪夢を、今更見た。

叫んでは、いけない。

ギリリッと歯が軋む。


諦めたと、そう思っていたのに。


まだ諦められないのか。

私、は。







ーーーー愛して大切にして、欲しかった。


その言葉の羅列が視界を、脳を、


心を、壊していく。





「……ッ…ッア゛ァ゛ァァーーーッ!!!」


心臓付近の肉がが再び抉られたように痛みを発した。


脳へ向かう血液を止められたかのように脳が萎縮しているのを猛烈な痛みの中で認知する。


幼い頃から作られてきた歪んだ思い、孤独な夜に幾度となく襲ってきた、ーー死への渇望が鎌首をもたげる。

張り裂けそうな胸を爪を立てて抑え込みながら、ダンゴムシのように丸くなる。


痛みに歪む顔を伏せながら、叫び出したい心の声をクモノに乗せて、自身を包む。


「ク゛モノックモノ、クモノ、クモノクモノ、クモノクモノクモノクモノク゛モノォオオ!!!」


獣のように泣き叫びながら、そう唱えれば。


立派な繭が、たわしを包んでいた。


叫び声を上げてしまったせいで周りがざわざわしている。



もう、全てがどうでもいい。


ここまでの醜態を晒したのだから、何事も無く生きるのも難しいだろう。


諦める、諦め続けるのが、私の人生だったじゃないか。


生きるのを諦めたって良いじゃないか。


生きてる事が苦痛で苦痛で仕方ない19年を、幼い頃から何度終わらせたかったかわからない。


頭痛を発し始めた重たい頭と、食い込んだ爪と、痛む心臓。





その全てに身を任せて、このまま死んでしまえたら。


そう思い、身体の力を抜く。




「ノイムちゃん」



ふわりと繭が持ち上げられる。

幼子をあやす様に揺れる繭は、自分が胎児に戻ったかのように錯覚させる。




「にぃ、さま」


「嫌な夢でも見たのかい」


「…うん」


「そっか」




にいさまは、それ以上何も言わなくて。


抱き上げられた繭越しに感じる腕の力強さと、暖かさが、ただただ私に寄り添っていた。



優しいにいさま。

八つ当たりしても、泣いても、叫んでも。

あなたはここまで見ても、私から離れてくれないのか。


あなたを信じても、良いんだろうか。


痛みと悪夢で弱った頭で虚ろげにそう考えて。


「にいさま、たわしの事、まだ、好きでいてくれてるのか?」


震える声で、そう紡げば。





「もちろん、当たり前でしょ」



なんて、温かい言葉が返ってくるから。


痛みがほどけて、代わりに涙が溢れていく。


「たわ、しが、ネタキャラじゃ、無くても?」


「一般人になったノイムちゃんも、見てみたい」



時間経過で、クモノが1つ解除される。



「たわし、きっと、にいさまが、思ってるような、人じゃない」


「友達だった期間も、君を好きになった期間も、短いと思うけど、ずっと君を見てた。それでわかったんだけどノイムちゃんって、一歩踏み込んでみるとさ。意外と心の壁があるんだ。だから、俺はね。


君しか知らない君を、もっと、知りたい。

聞かせてくれないかな」


「そう言って、聞いたら、どっか行くのだろ」


「行かないし、離れないよ。試してみるかい?」



また、クモノが1つ消える。



「たわしの話は、長いぞ、重いぞ」


「俺の弟のマイクはそれ、知ってる?」


「言って、ない」


「なら良かった。俺にだけ、聞かせて?」




あなたなら、大丈夫だろうか。

そう考えて、希望を捨てる。

裏切られたら、裏切られたで、終わりにしよう。


その方が、傷付かずに済むのだから。



少し自暴自棄になりつつも、誰にも明かさなかった、言葉を紡いだ。



家庭環境、母への気持ち、風夢との関係、それらが原因で悪夢を見た事。


ノイムという人格が無意識に生まれていた事。


自身と付き合った人は、皆離れていってしまう事。


マイクを信じきれない自分の不甲斐なさ。


情けなくて、不義理な自分が大嫌いだと。


紡げば紡ぐ程、涙と共に苦痛が心臓を抉る。


涙が出て、声が詰まる、その度に。



「大丈夫、ゆっくりで、いいからね」



そう声をかけるにいさまを。


たわしは、たわしは、ーー私、は。





「……今まで、凄く、辛かったね」






話終わった上で、にいさまはそう言うと、抱えた白玉を自身ごと揺らす。幼子をあやすかのような手つきで、トントンと繭越しに震動が送られてくる。




また時間経過で、繭の蓋が、溶けて。


外の光が、繭の中を照らした。





人を愛するのは、これで最後にしよう。

あなたでダメなら、私の、たわしの欲しかったモノは、最初からこの世に無かったのだ。

そう、自分に言い聞かせて。




彼に、人生最後の希望に、縋る事を選んだ。




繭の空いた隙間から、にいさまの服を掴んで上半身を露わにする。



「ノ、イムちゃ…ん?」


「にいさま、ちゃんと、責任、取れよ」



たわしの血が染み込んで赤みが増した布地を、自身に向けて引っ張った。






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