第56話「遺言」
今日は生産に勤しむ人が多い。
ハ○太郎口調のドワ子が何かしたらしく、生産した道具の威力が二倍に増えている。
ようやくハチノコ以外の食材にありつけた安心感は尋常ではなかった。
クリーミィじゃない、甘くない、香辛料とダシが最高だ。
涙を流しながら久しぶりの飯と呼べる料理を食らう。
皆の士気も物凄い勢いで上がっていて、まさに彼女は救世主と言っても過言じゃない。
隣にあの格闘家の男、オーガのリュウが座って俺と同じメガ盛り肉丼を口にしている。
正直人付き合いが苦手な分類なので、なんか反応した方が良いのかよくわからない。
とにかく飯だ。飯を食らう。
美味さに泣きながらメガ盛り肉丼を咀嚼していると彼が話しかけて来た。
「あんまり泣くと脱水症状になる。魔術師にあとでアイス製の水をもらって来たらどうだ?かなり大量に水は作れた筈だ」
MPはHPと同じように休めば回復する。
今までは送り込まれたハチノコ料理の器にアイスを置いて一晩置いて溶かしてから飲んでいた。
全く行き渡らない水が今回の製作活動によって飛躍的に精製できるようになったのだ。
「そう゛、します……」
彼が言った通り脱水症状なのか喉がカラカラだ。立ち上がって水を取りに行く。
料理をしているところや鍛治屋など設備が暖かくなっている近くに水の器は点在していた。
だが、一杯に対する水の量がかなり多いのが難点であった。食事の器を水に付けて掬い上げるのはリュウによって御法度とされたからだ。
水の汚染からの細菌感染が現状1番恐ろしいと言っていた。未知の世界は未知のウィルスがあると考えているらしい。
とにかく水の量が増えた事による弊害で、鍋に大量の水が並々と溢れていたのである。
誰かとシェアしなければ使いきれないだろう。
人見知りの俺にそれが出来れば、というやつである。
そういえば、先程のリュウは水を持っていなかったように思える。
先程食事をしてきた所に戻ると、リュウは丁度食事を終えたようで両手を合わせていた。
鍋の水面がチャプリと揺れる。
彼から話しかけられて少しはハードルがさがってはいたものの、話しかける勇気がまだ足りなかった。
なんて声をかければ、良いだろうか。
「水を持ってきてくれたのか?」
彼が話しかけてくれた、その一言がどうしようもなく有り難かった。
「は、はい。一人じゃ使いきれないと思って……」
「あー……まだ知り合いがいなかったんだな。預かるから座って話をしようか。割と最初に言ってたが、改めて。
俺はリュウ。君の、名前は?」
俺から鍋を受け取り床に置いてそう聞いてくる。
少し強引だったが、それが望まれていると判別出来たので素直に座る。
「俺のゲームネームはミスト、です。リアルネームは、えっと」
言い澱むとリュウが手のひらをヒラヒラさせる。
「ミストか。リアルネームは、一応個人情報だからな、言いたくなった時にでも教えてくれれば良いさ」
そう言ってリュウは布を取り出してチクチクと刺繍を始めた。
「それ、なんですか?」
興味が出て尋ねるとリュウが布を見せてくれる。
そこには沢山の人の名前とレベル、職業が乱雑だが簡易的に刺繍されていた。
この世界では同じ名前はシステム的に弾かれるので全員別の名前を持っている。
「これ、何故作っているかわかるか?」
リュウがそう聞いてくる。
「えっと、作戦の為に必要だからです?」
その為だけに話しかけられたのかと少しガッカリしたが、生き残る為には必要だとも思った。
「確かにそれも少しはあるな、だが、メインはそこじゃない」
彼はあの目立っていたドワ子のノイムを指す。
彼女の欄だけ、名前の頭にバツが刺繍されていた。
「これは、帰れなくなった仲間のリストだ」
ドクリと、心臓が鼓動した。
彼がやろうとしてる事が一瞬で理解出来た。
「……リュウさん、もしかして、帰還出来なかった人の代わりに、何かするつもりなんですか」
「……あぁ。例えその家族や友人に罵られても、彼等の最後を、と思ってな。ほら、スマホのツールから手紙が読めるだろう?落ち着いた頃に手紙にリストの人の住所か家の電話番号書いて保存すれば、向こうに帰ってから連絡が取れるかもしれない」
リュウさんはそう言って俺を真っ直ぐに見た。
本物のカリスマってこんな感じなんだろうな。
「……リュウさん、フレンド登録お願いします。後で名前と家電教えます。」
「あぁ。……俺が死んだら全部おじゃんになってしまうから、もしそうなれば生き残った奴に託すぞ?」
リュウさんが戯けたように笑いながら言う。
でも人見知りの俺でもわかる。これはマジだなって。
その後、好きな物の話題になって盛り上がった。
そして、リュウさんは俺みたいな人見知りがいる事も想定していたようで趣味が合いそうな人達を紹介してくれた。
最初は緊張しきりだったメンバーだったが、俺がものすんごく勇気を出して自己紹介をすると段々打ち解けれた。
控えめに言って最高に楽しかった。
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「ノイムちゃん!!」「ノイムさんっ!」
慌てて倒れたノイムさんの元にチームの皆が駆け寄って行く。
ソウルさんに抱き抱えられたノイムさんはスヤスヤと寝息を立てて寝ていた。
元々パーティ登録をしていたので、ノイムさんのステータスを一部覗く事が出来る。
MPが空っぽになっていた。0だ。
HPはほぼ満タンで状態異常などはなかったので、原因はこれだと断定する。
「多分、MP切れで寝ているだけだと思う。……おいおいソウルさん、おっかないオーラ出すなって、どこで手に入れたんだよそのスキル……」
ソウルさんから赤色のオーラが出ている。ステータスの異常があるのかパーティ項目を見るとゲームでも見た事の無い何かの状態異常、加えて全ステータスが向上しているマークが表示されていた。
全ステータス向上のマークを知っている由縁はゲーム時代の攻略廃人組だ。
ネットに上がっていたそのプレイ動画は弱いモンスターを前に、《捨て身》などを使用したバトルソルジャーに仲間全員がバフ連携を施し全ステータス向上させたらどうなるか、という検証モノだった。
いつも通り空振りで終わる残念動画かと思った瞬間特殊なマークが出たのでめちゃくちゃ驚いた記憶がある。
「……?タクトさん、何の話なんですか?」
無意識に発動してるのかー、そうかー。
愛の力は偉大である。
そう言う事しか出来ない。
結局この状態異常は何だったのだろう?
覚えはあるが……思い出せないという事は大した状態異常では無いと自分に納得させた。
その内に思い出すだろう。




