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第55話「クラバト・カルテット」




翌日、朝の食事は材料だった。



部屋の全員がハチノコ以外の食材に驚愕している。


これ幸いと言わんばかりに、タクトパッパに作ってもらった 新米の包丁 を使って材料を切り刻んでいく。


異世界ご飯のカサ増しとしてぶち込んで食うのがここ最近の流行り。嘘です。今日が初めてなのだ。


ゲーム時代では戦闘中に装備出来なかった職人道具だが、こっちではもちろん装備出来る。


その兼ね合いか、職人道具にも攻撃力がある事が判明した。


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新米の包丁

ランクA

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新米料理人が使える基礎の調理道具。

高レベルの鍛冶職人が世界の為に作り上げた刃の波紋が美しい万能包丁。

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攻撃力50↑


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新米シリーズは料理人の装備可能三種系列である鍋、包丁、フライパンの、初期から装備出来る初心者道具だ。


一定回数使うと壊れる使用だったが、こっちではどうなるかわからないのが使用する上どのネックかもしれない。


だが注目すべきはその攻撃力にある。


この攻撃力の威力は30レベル相当の武器の威力だ。

言い換えればどんなに弱いプレイヤーでも、30レベル相当のダメージソースを与える事が出来る。


初期職人道具なのでメインのレベル1の初心者でも扱えるお手軽さ。サブ職が無いにいさまがたわしのお手伝いの時に使っていたのもこの包丁だ。調理自体が失敗した理由は恐らく使っていた鍋やフライパンが新米シリーズでは無かった事も一因だろう。


タクトパッパはスキルに頼ったりもしつつ、一通りの新米シリーズを作ってくれた。

元のサブ職のレベルが高い事もあって、新米シリーズの製作難易度は余裕の余裕。


ランクAの武器を次々と量産していくので、たわしは鑑定で一つ一つ使えるか確認していく。


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新米の銅針

ランクA

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新米針子が使える基礎の裁縫道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に丁寧に仕上げたブロンズの輝きが美しい一品。

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《攻撃力10↑》

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これは、使える。


新米の包丁よりも、ずっとずっと使える。



釘バット、ならぬ針バットが脳裏に浮かぶ。


100本殴る所に付いてれば1000ダメージじゃないか。


ただ、折れやすそうな見た目をしている。


使い切りになる気がした。



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新米の銅鍋

ランクA

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新米料理人が使える基礎の調理道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に仕上げたブロンズの輝きが美しい一品。

使い込む程味が出る。

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《防御力60↑》

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あれか、かの勇者が使用した鍋の兜か。


特殊効果は無いものの、その防御力も同じくレベル30の頭防具相当である。



まともな防具が無い現状、あった方がマシだった。


これも使える方に。


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新米の裁ちバサミ

ランクA

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新米針子が使える基礎の裁縫道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に丁寧に仕上げた刃の輝きが美しい一品。

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《攻撃力40↑》

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これは使えなさそう。新米の包丁より攻撃力が低い。


使えないと判断したその時、リュウさんが声をかけてくる。


「ちょっと貸してくれ」


まだ検討していない新米の鍛治ハンマーを拾いあげ、ハサミの接合部に狙いを定めて打ち込み始めた。


「にゃー!?何してるのだー!!それまだ検討してないのだ勝手に使……」


金具が潰れ、ハサミが分離する。


「このフライパン借りるぞ」

「待てぇええ!!それもなのだぁあ!!」


検討してないフライパンを拾い、遠くに配置。オーガの腕力には敵わず、止めようとしたたわしを横抱きして何か試そうとしている。ジタバタもがいて阻止しようとするが、手足の長さも力も足りない。


最初たわし達がいた所に戻って来た所で、片割れになった裁ちバサミをそこから投擲しようとしている。


「フライパンが壊れるのだ!やめるのだ!!」


流石ににいさまより筋肉質なオーガを例の防具のスキルで邪魔したら自分の腕がどうなるかわからないほどアホでは無かったたわしは声を上げて抗議するしか出来なかった。MPも無駄にしたくないのでクモノも使えない。


為す術無く、無情に放たれる裁ちバサミ。




ーーーまるでバターを裂くように、フライパンを貫通した。



「……へ…?」


凹む程度だと思っていただけに予想外すぎる展開に頭がついていかない。

止めに入ろうとした周囲の人がオロオロするのを余所にリュウさんが僅かに笑みを浮かべながらこう言った。


「投擲ナイフとしてなら重宝出来るな、これは。ノイムさん、片割れのステータス見てくれないか?攻撃力を確認したい」


ムスッとした顔で鑑定を行う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

新米の裁ちバサミ《左》

ランクA

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新米針子が使える基礎の裁縫道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に丁寧に仕上げた刃の輝きが美しい一品。

《だったのだが、野暮なオーガが金具を破壊し分解した。》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《攻撃力30↑》

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攻撃力が下がっているが、使い捨てのダメージソースなら十分な威力だ。


「……攻撃力40から30に低下、野暮なオーガが金具を破壊した、が出てきたぞぉ」


横抱きから解放された後、ジト目でリュウさんを睨む。


「このフライパンと片割れのハサミも見てく……どうした?目にゴミでも入ったか?」

「反省してないのだぁ!!もう!貸したまえ! 」



リュウさんから穴の空いたフライパンとハサミをふんだくる。


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新米の裁ちバサミ《右》

ランクA

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新米針子が使える基礎の裁縫道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に丁寧に仕上げた刃の輝きが美しい一品。

《だったのだが、野暮なオーガが金具を破壊し分解した。切れ味が悪くなっている。》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《攻撃力20↑》

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新米の銅フライパン

ランクA

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新米料理人が使える基礎の調理道具。

高レベルの鍛治職人が世界の為に丁寧に仕上げたブロンズの鏡面が美しい一品。使い込む程味が出る。

《だが野暮なオーガによって鏡面は見るも無残な姿に変えられてしまった。》

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《攻撃力25↑ 防御力50↑(残り防御力30)》

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とりあえず鑑定結果をぷりぷりしながら伝えると、リュウさんが耐久テストを始めた。


結果から言えば、フライパンに一回攻撃を当てると、防御力が残り10になり、ハサミは切れ味が10になった。

二回目には両方0になり、フライパンだった残骸にハサミを投げるとカンッと音を立てて刃が通らなくなったのである。


というか一回も外さないリュウさんやべえな。



「やってる途中で、ノイムさんが不機嫌な理由を考えてやっと理解した。ロクに説明せず実行したのは申し訳ない。……合ってるか?」


「……たわしも、止める前に説明すれば良かったと思う。わかってくれたのなら、いいのだ」



唐突に解消されたわだかまりに困惑したお陰で、怒りを鎮めるのに時間かかる自分は、まだまだ大人になり切れていないと思うのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



他の新米シリーズを調べてみた結果だが、はっきり言えば最初に当たりを全て引いてしまっていたようだ。

残りの職人道具は使い勝手が悪い物や性能面に恵まれない物しか無かったのである。


タクトパッパに出発前作ってもらってガラスにバンバン当ててた異世界鉄フライパンはー……攻撃力50↑に防御力100↑(残り防御力60)。


防御力が40も落ちていた……。


新米より強いといえども、祝福の補正が入ってないので強さ的には微妙だったのだ。


タクトパッパに祝福付きのプレミア職人道具の予約をしてから、改めてアクリルガラスに向き合う。



あれから数時間、全員がかなりの準備を整えていた。


「すまない、ノイムさん。思い出した事がある」

「にゃ?リュウさんどうしたのだ?」


リュウ式ブートキャンプをしていたリュウさんが話しかけてくる。


「アクリルガラスは、主に水族館のガラスとして使われる事が多い。あの巨大なガラスは全てアクリルガラスを一枚一枚を重ね合わせたものだ」

「リュウさんが何を言いたいのかイマイチよくわからんのだ、どゆこと?」


たわしの脳内でアザラシが筒状のガラスの下からひょっこり出てくる。


リュウさんがアザラシみたいに首を傾げるたわしの頭の位置を両手で元に戻してきた。


「アクリルガラスは、熱で加工している、という事だ。ノイムさんのスキルに、加熱系のスキルがたしかあっただろう?」



「……あ!!均等加熱ならもしかしてって事か!?」


そういう事だと言わんばかりに頷くリュウさん。


「やってみるのだ!!」



頭の中に再び無機質なアナウンスが流れる。


『均等加熱を発動します。道具を選択してください』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


・素手

・フライパン

・包丁

・キリングハンド


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


メニューが開いて指が勝手に動く。千本ノックの癖でフライパンを選択してしまった。


まぁ、やるだけやるのだ。


『現在のフライパンの温度は150度です。耐熱温度は最高で1500度までとなっております』


スキルに皮膚強化Lv4と腕力強化Lv5があったが、千本ノックによって両方とも1レベルずつアップしていた。


腕力強化を発動。腕の硬化と筋肉の肥大が最初よりも大きく強くなっているのがわかる。


皮膚強化を発動させると、皮膚が分厚く硬くなっていく。

先程から握っていたフライパンの熱さが一瞬で無くなる程の頑健さだった。


フライパンを握って、ガラスに押し付ける。


徐々に、徐々に温度を上げていく。


胸が苦しくなるような、甘苦いプラスチックが溶ける独特の匂いが一瞬喉を焼く。

ゲホッと咳払いをすると、煙がみるみるうちに装備であるチェシャ猫チュチュに吸われていった。

毒判定なのだな……。


周囲にも毒煙が充満したらしく気分が悪くなる人が増え、慌ててリュウさんが毒専用の治療魔法であるポキュアを使うように指示を出す。


そうこうしている間にも、みるみるフライパンを中心とした直径1mの面積が、みるみるうちにへこんでいく。


「いけ、る!!」


煙の量が尋常ではない。


たわしの影が見えなくなるほどの有害な煙が放出され、その半分がチュチュに吸われていく。


もう50センチは沈めたハズである。


フライパンの均等加熱温度を150に戻すと、ゆっくり煙が無くなっていき、アクリルガラスが変形したのがわかった。


後残り10センチ程だろうか。



「やっと、出られる、ぞう」



あぁ、めっちゃ、疲れーーーー……。




能力が勝手にオフになり、たわしはぶっ倒れた。



MP無いと、人って倒れるのだなぁ。



異常な眠気に勝てず、たわしは意識を手放した。

大変お待たせしました!

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