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52話「統一の対価」




それは襲っては来なかった。



でもソレやたわしに、怯えた目を向ける人達が大勢出てしまった。


これは良くない、非常に良くない。

これからたわし達は生死を賭けた戦いに赴かねばならんのに不信感から作戦失敗とかホントマジで洒落にならんぞ。


「…右へ動いて逆立ちしつつ、たわしはノイムですのだと言う」


支配権があるかの確認。



数歩右に動いて逆立ちをした。とりあえず制御が出来ている事をアピールせねばならん。


「たぁわしはノォいムですのォだぁ」



一応言う事は聞くらしいが、牙と下が邪魔しているのか喋るのは不便のようだ。



「喋るのだな…」


「しゃ、喋るのって《残像》でも出来てたじゃないですかぁ?!」


テロルが肩に足をかけてプルプルしながらたわしの頭にしがみつつ答えてくれる。



「それは違うぞ、テロル。《残像》で作られた分身は完全にたわしの顔をトレースする上に喋らない」


「なら何でグッドさんの時ノイムさん喋ってたんですかぁ!」


「《残像》は言わば脱皮。攻撃が当たる前に本体が体から抜け出て別の所に移動する。抜け出た後はたわしが頭で指示した所に移動してくれるのだ。そっちに気が向いている間にたわしが喋りながら背後に回っただけの事だぞ」



この身代わりを見る限り、たわしの背中の違和感は羽根なのだろう。





もうひとアピールと行くか、



羽根を僅かに動かしながら動きと構造を確かめる。


羽根を上に上げる時は線状に羽根の一本一本が骨に沿って隙間を開けていき、空気を逃す。

そして、下に下げる時は羽根の隙間を密閉させて空気を逃がさないように。

なんとなく感覚は掴んだ。



「にゃし、テロルよ」


「な、なんですか」








「びびってるテロルをもっと見たいから飛んで見るのだぁぁ!!!」

「この鬼!外道!サイコパァァァスぅぅううあああああああ!!!!」



すまん、怪物見たショックを引きずる訳にはいかんのだ。ここで目立って置かねば全員に聞いてもらえぬのだ。






たわしの全力ジャンプでテロルを天井近くまでお届け。すると慌てたように触手アームが出入り口から這い出てたわし達を追い払う。



同時にもう一人のたわしも飛び立ち滑空を開始した。

エアロレースのような軌道と鮮やかなスピンを描きつつ、触手アームを避けていくたわしと身代わり。


にゃんにゃんぱらり、にゃんぱらり。


蝶のように舞い鳥の様に飛ぶこの姿を見て、少しでも和らげないものか。



そうやって五分程飛んでいたが、そろそろ捕まりそうなので着陸態勢に入る。


「死ぬ…死ぬ…」

テロルの魂が半分くらい抜けかかっているのを見て正直申し訳無く思った。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



とりあえずたわしの願いが叶ったのか、怪物を見た後の緊張感が薄まったようだ。


ケース内の人々が暖かい拍手を送ってくれる。


【たわし、事情を言うなら今なのだ】



ノイムの感が、言うならここしかないと教えてくれる。


すぅ、と息を吸って緊張で震える声を抑える。




ここで震えたら、皆不安にしか、ならんのだ。



「皆さま、改めまして。


たわしはノイムと申します!見ての通りこの分身はたわしの命令を聞きますし、制御も完璧に出来てますのだ!怖がらなくても大丈夫!それがわかった所でたわしから、死んでみた感想を述べさせてくだしあ!」



それぞれが、コクリと頷いた。


スタディグに言われた事、カルテットの言った事、スキルの事。白の世界で得た知識の一部を伏せて話し、共有した。




あともうひと踏ん張り。頑張れ、伊乃夢。


「ここまで聞いた皆様方!信じる信じないは任せますのだ!どうせ死んだら嫌でもわかるぞ!………それを、踏まえた上で、ここから動力室に調査しに行くか決めて欲しいのだ。


帰りたいなら、ここで残ってる方が安全ですのだ!


行く人はたわしの血飛沫の近くに、行かないなら遠くで待機して欲しいのだ!



タイムリミットは、ケース内から脱出する方法をたわしが見つけるまで!!

以上、解散!!!!!」


勝手に決めちゃったけど、良かったのかな。


不安で仕方ない、たわしにこんな大役が務まるのだろうか。


早速行動を始めたプレイヤー達の雑踏がたわしの存在を掻き消していく。



「ノイムちゃん」


優しい低めの声。


「……どうしたのだ、にいさま。」


複雑な気持ちを乗せながら返事をする。



「…………あー、……うん、えっと……」


にいさまが言葉を詰まらせながら何か言おうとしている、その様がなんだか凄くムカついて。

たわしが色々考えてるのに呑気そうに見えて、仕方ない。


ムッとした顔を深めると歯切れ悪く続きを言い始めた。


「頑張ってるノイムちゃんは、凄く偉いよ。だから……助けが必要ならすぐに行く。君が攻撃を受けそうなら俺が幾らでも受けるから、絶対に、もう……


俺の目の前から、何処にも行かないで」



喉から手が出るほど叫びたかった。

その行動が、たわし、否、ノイムが好きだから出る言葉である事がとても憎たらしくて。どうせ、どうせ捨てる癖に、逃げる癖に。


ふざけんな、ふざけんな!!


歯をギリギリと食いしばって張り倒したいのを耐える。


やっぱり、たわしはノイムのままで良かったのかもしれない。

そうすれば、こんな怒りや苛立ちになんか支配されなくて良かったのではないかと。


笑って受け流せれたら、良かったのに。

素直に受け取れる人間なら良かったのに。



「……にいさま、ごめん、黙って欲しいのだ。怒りで手を出しちゃいそうなのだ。……にいさまのその感情は、異世界に来てパニックになった吊り橋効果で出来た紛い物なのだ。そんな一時の感情で命を無駄にしないで欲しいぞ。」

「一時的な物なんかじゃ……!」

「もう疑心暗鬼になるのたわしは、たわしは嫌なのだっ!無駄に体力を消耗して疲れるのだ!!もう、もう、期待を裏切られるのがイヤなのだぁ……!!」


前髪を鷲掴みにして引っ張り、胸が苦しいのを我慢する。暴れる感情とストレスを制御しようと身体が勝手に反応する。眉間にシワが寄り涙が溜まって。ギリギリと歯を食いしばった。



にいさまが訂正しようと声を荒げかけ、たわしの見苦しい有様を見て、ゆっくりと口を閉ざした。


「…ノイムちゃん。ごめん、自分勝手過ぎたみたいだ」


そう、それでいいのだ。これで幻滅しただろう?醜くて見るに耐えないだろう?これがたわし、じゃなくて私なんだよ。愛情に飢えて愛情に振り回される可哀想な奴なんだ。




「……過去のノイムちゃんに何があったのか俺は、知らないけどさ。


ノイムちゃんは、頑張り屋だね」


「なんで、」


「皆の為に出来る事が無いかを一番に考えて、自分を犠牲にしてでも頑張っちゃうもん」


「にい、さまがそう思って、るだけ」


「弟君の事だって先の事考えてはるなんちゅさんに預けて、弟君の自尊心が育つように色々褒めたりしてあげれる」


「っ……」


なんで、知ってるのだ。なんで、見てるのだ。

髪を掴んだ手で隠した頰が、溢すまいとしていた涙で濡れる。


「皆が落ち込みそうなら励まそうと和むムードにしようとしてくれてとても助かったってタクトさんが言ってた。セシィさんも、危ない時に誰一人死なせないと言って、それを成し遂げたって言ってた。今だって、皆に分身が安全だって証明したんだもんね。その気配りも、努力も、俺は、賞賛されるべきだと思う」


にいさまの手が頭を撫でる。


幼い子供をあやす様に。

あの温もりを感じる夢を見ていた時の様に。




涙が余計に溢れてきて鼻水が出てくる。


怒りが形を持ち始めた。

それは、疑心暗鬼に支配されるリアルの自分への憤り。素直に受け止められない捻くれた心を持ってしまった悲しみ。そして、ノイムじゃないたわしには不可能に近い、無謀な願いを貫き通そうとする愚鈍な自分自身への怒りだった。

イライラして爆発したのも、にいさまの発言がトリガーになっただけ。


嗚咽をしながらにいさまに謝る。


「たわ、たわし違うも゛ん。今、皆助ける自信もう無いの、無いのだ。頑張ってもどうにも、ならないかもしれな、いの。言葉を、信じるの、無理だよぅ。八つ、当たりし、てごめん、ごめんなさい、なの」


なりふり構わずにガチ泣きに移行してしまった。

ぐしゃぐしゃになった涙濡れのたわしに、にいさまが少しだけ笑う。


「そっか……うん、うん。やっぱり、壁あったんだ。気をつかわせたね。

俺も察せなくて、気づかなくてごめんね。俺の事、一旦置いて良いから。

戦闘も、大変だったよね。こんな状況での重圧何回もあったら今回は上手くいったけど、次は……って思っちゃうよね、俺もそうだ。」


ノイムの人格が統一された事なんて知るよしもないかのに、どこか見透かしたような言葉を紡ぐにいさま。

それに加えて、母親が優しくおくるみに包んで揺れてくれる様な、そんな言葉がささくれだった心に染み渡る。


「もうノイムちゃんだけが頑張る必要無いよ。俺も、皆もついてるんだから、もっと甘えて。」


「ヒャっぅう゛ぇぇ…うぁぁん゛ひっく」


嗚咽をあげながら鼻をすすり赤ちゃん返りしてグズグズになったたわしを変わらず撫で続けてくれる、にいさまは、優し過ぎると思った。




大変お待たせしました。本日2度目の更新です。更新してない間にブックマークが少しずつ増えているのにびっくりしました、いつも励みにさせていただいてます。

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