第49話「瞳」
『名声称号【世界の探求者】【叡智の従僕】【創世の祝福】を獲得しました。
【世界の探求者】の称号により、何らかの異変が起こった際、痕跡が光を放ちます。
【叡智の従僕】の称号により、全ての時代のルトテッカ言語が自動で翻訳され、その知識を理論的に即座に理解します。
【創世の祝福】により、自分や仲間の作成アイテムの効果が2倍になります。
アホのたわしに知識チートとか……使いこなせる気がしないぞスタディグさんや……。
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ボロボロのマーマンをエンプティヒールの魔法が包む。
ゆっくりと瞼が上がり、虚ろな目が現れる。
彼は誰かを探すように周囲を見回した。
そしてとある一角に視線が留まる。
「ノイム、ちゃん」
脳に麻酔でもかけられているかのように動作はぎこちなく、ゆっくり立ち上がったマーマンは前へ前へふらふらと移動していく。
余りにも危なっかしいその動きに周囲も落ち着かせようと声をかけるが、彼はまるで聴こえていないかの様にノイムと呼ばれたドワーフの元へ向かおうとする。
あと僅かの所でマーマンが躓き転んだ。
それでもなお、遺体の場所に近付いた魚人は這っていき、ついにたどり着く。
手に生えていた小さな青鱗は触れた血液をジワリと吸い込み、その色に沿って鱗の輪郭を描いた。
マーマンは残された装備が血染めになるのもお構いなくドワーフを抱き締める。
「ノイムちゃん、ノイムちゃん」
ドワーフの口から溢れた赤を手で拭いながら、なんとか起こそうと試み。
「残念だが、もう死んでいるぞ」
リュウが誰も口にしなかった一言をかけても。
マーマンの反応は無かった。
「こいつから先に蘇生したのは失敗だったか、とりあえず次はオーガを起こそう」
またもエンプティヒールが発動し、オーガの目がゆっくりと開く。
鬼人も、周囲に視線を向け、マーマン達を見つけると、目元を隠す様にして項垂れる。
先ほどのマーマンと同じく動作はどこかぎごちない。
「感傷に浸っている所すまないが、君の名前を教えてくれないか」
またもリュウが声をかけるが、同じく反応はない。
「なぁ、聞いているのか」
リュウがオーガの肩に触れ、軽く叩く。
オーガがゆっくり顔を上げて、声を発する。
「取り乱して、すまない。ここは何処なんだ?」
「先に俺の質問に答えてくれ」
オーガはポカンとした顔をして、すぐに返した。
「何故か耳が、聞こえないんだ。感覚が、麻痺してる」
そういう事かとリュウは納得した。
「誰かマキュアかオルキュアの呪文を使える人はいるか」
状態異常を回復させる魔法は、麻痺ならマキュア、毒ならポキュアなど、細分化されている。
その全てを回復出来るのが、オルキュア。
装備で対策出来るため、上位のプレイヤーからしたらオルキュア以外は必要ない呪文。
しかし運が悪かったのかオルキュア持ちはいないようで誰も手を上げない。
「僕、出来ます」
コウモリブタを模した帽子を被っているドワーフの彼はそう恐る恐る宣言した。
「…マキュア」
運勢最悪という事ではないらしい。
片手杖から湧き出た魔法が黄色いオーラとなってオーガを包み込む。
その瞬間、オーガは苦しそうに咳込んだ後、口から透き通った黄色のカケラを吐き出した。
「ゲッホッ……なんだこれ……麻痺結晶?」
ステータスメッセージを見たらしきオーガに改めて名前を聞く。
「俺はリュウ、君の名前は?」
「俺はタクトだ。そこにいるのがノイムさんとソウルさん、あっちのオーガ娘がセシィで、ちっこいのがテロル」
その後、タクトと情報交換を行った。
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「リュウさん」
「ん、どうした」
さっきのドワーフの子だ。
「ソウルさんにマキュアを使うべきでしょうか」
「……もう少し一人の世界にさせてやろう」
あれから二時間くらいたったが、未だにソウルはノイムから離れる気配がない。
「いや、でもなんか変なんです」
そう言われたので見てみると、二人を包むように薄っすらと赤い霧のような物が漂っていた。
ブツブツと、声を紡ぐソウルの声が聞こえる。
「ノイムちゃん、ノイムちゃん、俺は君を、繫ぎ止めるよ。実の弟であろうと、君を蔑ろにする奴は、全てぶっ飛ばしてあげる。君がいる場所なら、何処へでも飛んで行くから。幽霊になったって俺達はずっと一緒だ。目には目を、歯には歯を、毒には毒を持って、君の敵を屠ると誓う。だから、だから、ノイムちゃん、好きだよ、好きだ、起きて。俺に君を、君を、もう一度、もう一度、守らせて」
その言葉は形を持って呪詛のように渦巻いていた。
彼の瞳は絶望に彩られ、紅色の瞳はさらに真紅に染まっていった。
その姿は愛する者が殺され、復讐に生きると決意したイベントボスのNPCが発現させた神話の呪い『水神ウォークレイクの嘆き』そのもの。
愛に生き、愛に死ぬ、そんな彼らの遺伝子に組み込まれた僅かな魔素回路を起動する事はプレイヤーにとって不可能に等しかった。
虹彩から零れ落ちた赤い雫がノイムの身に着けている装備で唯一無事だった髪飾りを汚していく。
そして、とぐろを巻く赤い霧が、一層紅くなったその瞬間。
ノイムの耳に吸収されていった。
彼女の目がゆっくりと開かれる。
意思を感じない瞳に、光が灯っていく。
「にい、さま…??…っ!?な、何で抱っこしてる、のだ…っ!」
死者が蘇るなんて、あり得ないだろ。
リュウは鳥肌を抑えずにはいられなかった。
お待たせしました




