第5話「嵐の前の静けさ」
「その様子だと無事みたいだね、今ランブの町には行かないほうが良い」
たわしの悪い予感が当たったのだろうか。
そう思い質問する。
「まさか、ランブの町はプレイヤーがモヒカンでバイクを乗り回す無法地帯に…?」
「どこの世紀末なんだいそれ」
にいさまの博識には脱帽するぜぇ。
「んーと、原因は分からないけど、モンスターの襲撃に遭ってるんだ。
現地にいる知り合いによれば、まだ弱いモンスターだけど、念のため90レベル以上の冒険者が戦ってる。
けど、皆実戦なんてした事ないからまともに連携が取れてないって感じらしい。
まだ死んだ人が出てないからわからないけど、リアルに死ぬ可能性もあると思う。くれぐれも、死んじゃ駄目だよ。
……………、君はマイクの彼女なんだから」
その一言で顔に熱が集まるのがわかる。
「あにゃ、う、はいなのだ。
にいさま、情報ありがとうございましたなのだ!」
ふと、たわしが見つけた情報を共有する事を思いつく。
「えっと、にいさま、たわしも伝えたい事があるのd」
「ごめん、一旦切る。住宅村に入ってきてるみたいだ。家の外に出ちゃ駄目だよ!」
家を出る音がした後コウモリブタがバサバサと音を立てて飛び去った。
どうやら通信を切ったらしい。
一人で家を飛び出して行ったにいさまがとても心配だ。
「にいさま、無事でいて……」
もう一匹のコウモリブタがおい早くしろよと言わんばかりに体をどついてくる。
「にゃっ、わかっ、わかったから、痛いのだっ」
このコウモリブタは自身の弟、かざむの名前が書かれた札を提げていた。
急いで出る。
「いのむちゃん‼︎いのむちゃん‼︎助けて‼︎助けてェェ‼︎」
半狂乱の弟の声がコウモリブタから発生する。
この状態になった弟は手がつけられないほどパニックになっているので一旦落ち着かせないと話にならない。
「にゃー!ステイステイ!落ち着くのだ!息を吐いてー、うんうん、三回回ってワンと鳴いてから、説明するのだ」
「ワンッ、んで俺の家にいるんだけど!モンスターが‼︎あぁ、窓に‼︎もう俺死んじゃうのいのむちゃぁぁん……」
ビビりまくった弟の会話がまたもや支離滅裂になった。
要約すると、家にバリアのような物が貼られているらしく家の中には入って来られない様だが食料や水がなく、このままでは動く事も出来なくなりそうだということだ。
加えて住宅村に何故かモンスターが闊歩しているらしい。
弟は未だ70レベルにもなっていない。外に出てもモンスターによっては瞬殺される可能性もある。
唯一の肉親。
失う訳にはいかなかった。
「今ご飯届けるから、お家出たら駄目なのだ」
ソウルの言っていた言葉が頭をよぎる。
《「死んじゃ駄目だよ、君は…」》
「…『マイク』」『ログアウト中です』
いかなきゃ。
買ったばかりの装備一式を身に付け、Gを5万ほど持ち、料理をアイテム欄に入れノイムは家の外に出た。
まだ自分の住宅村はモンスターに襲われていなかったようだ。
キノコしかないからだろう。
しかし時間の問題である。
ランブの町に、足を進めた。