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第46話「生への執着」

お待たせしました




〜キララ捕虜組side〜




このガラスの展示ケースに入れられてから、三日目だと思う。



一日三食出してくるからな。


…今日のご飯はとんでもないものが出されたようで。



餌の時間になると天井が開くのだが、今回はいつも以上に嬉しくないお知らせ付きだった。





「また誰か連れてこられた!」





囚われている何人かが上を指差す。見ると、そこには5人のプレイヤーがぐったりとしてアームに捕らえられていた。


怪我をしているのか、天井から真っ赤で赤茶けた血液がポタポタと落ちてくる。




おそらく装備を破壊、没収されてロボットの麻痺や毒などの餌食になったのだろう。




3人が装備を没収されているので麻痺耐性装備だったのだろう事が伺える。




一人だけ、血塗れの怪盗レディスーツ一式を着ているドワ子。



怪盗レディにはセット効果に状態異常の耐性が無い。



放置しても問題ないと言う事か。




あのロボットはこの二日間の間に連れてきた他のプレイヤー達もご丁寧に全快してくれたから皆生きてる筈だ。


……そう信じたい。



しかしプレイヤーが増え過ぎた今、アームを当初のように使うのは登られる危険アリと向こうは判断したのか、そのまま五人はプレイヤー達が登れないほどの高さの天井に空いた穴から落とされる。





「っいくらなんでもやべぇぞ!」


「僧侶回復準備!魔術師マジックキャスターアイスで滑り台作れ!」




唐突な出来事なのに、この格闘家、切り替え早いな本当。



パキパキと音が鳴り響き、筒状の滑り台が現れる。




そのまま漏斗のような形状の入り口に吸い込まれた五人は氷の滑り台で流されていき、摩擦が無く衝撃を殺せないままゴールの壁に激突した。




派手にドワ子の血液で魚拓ならぬドワ拓が出来たが、何で血液止まってないんだ?





「《エンプティヒール!》」



怪我が一番ひどいドワ子にエンプティヒールが降り注ぐ。



しかし、血液の海はさらに広がっていくばかりだ。


「なんで!今までこんな風になってる人いなかったのに!《エンプティヒール》!《エンプティヒール》!!」


「……このドワ子は手遅れだ。他に回せ。」




格闘家の男が即座に見切りをつけた。




「でも、まだ…」



「そいつはもう死んでる。


鬼人オーガか、この魚人マーマンを回復させろ」




ざわりとケース内の空気が淀むのがわかる。



「そんなのわからないじゃない!!《リザレクション》!!」


復活魔法の緑の輝きがドワーフに降り注ぎ、そして消えた。神々しい光が降りなかった。


身体が癒えることも目覚める様子も一切なかった。



「だから、言っただろう」


少なくともこの運ばれてきたメンバーのレベルは高い筈だ。死んだとオーガに判断されたドワーフは高レベルの義賊装備。加えて、猫妖精キャットシーの頭についている花飾りは『高レベル難易度 天空の花』のクエスト報酬だ。




こんな惨状になるまでは戦えていたのだから、善戦した方だろう。



そうすぐにわかってしまうほど、俺達の平均レベルは低かった。



コウモリブタ帽子を被ってるプレイヤーが30人くらいいて、あべこべな装備しか持ってない奴が40人くらい。

90レベルのフルセットが5人くらいしかいなかった。



その他は大体自分のレベル帯に合ってないフルセットくらいだろう。





「死にたくない、死にたくないよ」





ハチノコもどきを食べるのを拒否していた絶望顔の面々が更に顔へ刻んだ闇を深くさせる。



頭がおかしくなったのか、ケタケタ笑い出す奴まで出てくる始末だ。ハチノコを食べて少し気力が戻った奴らも、その雰囲気に飲まれつつある。




「そいつら終わったら、こっちも頼む」




格闘家がおかしくなり始めた奴らに近づいて勢い良く拳を奮って殴り倒す。




「いってぇ!何すんだよ!さては俺を殺すつもりへぶっ」


「あはっはっ、あはははあははあはは!っばん゛んっ!」




次々と男女平等パンチが炸裂する。





陰鬱とした雰囲気が何故か、ほんの少しだけ和らぐのがわかった。






「可笑しくなるのは大いに結構だ。この状況を打破しようとも思わん腰抜けはここで死ね。




だが、生きたいならしっかり現実を見ろ。




生きたいと思った奴は元の世界に未練があるって事だ。……このドワーフの娘は分からんが」




そう言って格闘家は死体を見やる。



満足とも悔しいとも取れる、そんな死に顔を。






「っ……ぅわぁぁん」




コウモリブタ帽子をつけたプレイヤーが声を上げて泣き始めた。先程はあまりの絶望に流す涙もなく打ちひしがれていた人々からも、次々と嗚咽が聞こえてくる。




「母さんの、ご飯、っが食べたい……」




「っ家族と、旅行する、予、定あった」




「ポチに、餌、あげないと」



「あの漫画、やっと、完結するんだ」








せきを切ったように止め処なく溢れる『それ』は素朴で当たり前でなんでもない、けれどかけがえのない彼らの日常であった。





……俺も帰りたい、死にたくない。


せめて大人なのだから泣くまいと、歯を食いしばって耐える。生きる未来を渇望し始め、目をギラつかせたプレイヤー達を見て、格闘家はここで初めて名乗りを上げた。




「俺の名前はリュウ。リアルでは軍人をやっていた。日本の法律が改定後、海外に戦力として派遣され、俺は幾多もの戦場を駆け抜けて来た。彼処は運が悪い奴から死んでいくし、生きる気力がない奴も死ぬ。全てに不平等に死をもたらしてくる。


この三日間、俺はここから脱出する為に様々な事を試してきた。


結論から言ってしまえば、脱出は不可能だ。装備も勝機も全てあのロボットに握られコウモリブタの通信も遮断されている。

だが、絶望するのはまだ早い。


ここでどれだけケージを砕こうと足掻いても、ロボットは一切止めなかった。奴は慢心している。俺達が抵抗らしい抵抗をしなければ奴は俺達を観察対象として命ある限り生かし続ける筈だ。

外からあのロボットに勝てるプレイヤーが来るまで、俺達に出来る事は、いつでも脱出出来るよう生きる気力を持ち、まだ手持ちにあるアイテムで何が出来るかを考える事だ。




誰一人欠ける事無く、この世界から生還するぞ。」






彼のカリスマが、キララの虫籠のなかで一際輝いた。


彼の言葉と行動は、生きる執念と希望を俺達にもたらしていた。








「それでは、回復させます!《エンプティヒール》!」



もう何度見たかわからない、超常の魔法が名も知らぬ魚人マーマンを包み込んでいった。







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