第44話「絶命のカウントダウン」
円形状の外壁を垂直に走り抜けるノイム。
しかし当人は自分がどこを走っているのか全く理解していない。
「う〜!もう!どこまでついてくるつもりなのだぁぁぁあ!ヒィッ!」
アームを飛んで跳ねて避け続け、ついに目の前にたわしの分身達が見えてきてしまった。
今のたわしフェイスは汗を大量にかきつつ歯を食いしばり、顔中にシワが出る程歪んだ顔をしているようだ。
その状態をトレースした分身の顔がえらい事になっている。
あと少しで転びそうな感じのフラグが立ってるやべー奴の顔だ。
流石に後ろに引き連れてる大量のアームの横を通り過ぎるのは無茶だ。
この物量じゃこま結び出来るか怪しいのも確か。
……今のたわしなら三つ編み行けるかな?
分身なら当たっても問題ない。
「《残像》《残像》《残像》!」
新たに三匹のたわしが現れて追っ手を引き受けていく。
後ろが見えない程だったアームは少なくなった。
これぐらいならいけるか?
すぐ目の前では鬼の様な形相のたわしが複数迫って来ている。カオスだ。
隙間を見つけて滑り込む。
「ノイムちゃん!?」
ソウルから発せられた驚愕の声はガチャガチャと響き合う機械の音色にかき消された。
ノイムの分身も果敢に飛び込んでいく。
消えてしまうかと思ったが敵は攻撃の為ではなく拘束のために追いかけて来たようで、アームは分身の身体をすり抜けていくのが何故かわかった。
「っしゃぁあ行くのだァァぁぁあ!」
それならとたわし達は三つ編みレベルを遥かに上回る難易度のミサンガを織る事に決めた。
上へ下へ前へ後ろへ。鋼鉄のミサンガが織りあがっていく。
「ノイムさん!こっちです!!」
テロルの声が聞こえたのでそちらの方角を見ると
プロミネンス・ファイアボールの火の塊が煌々と輝いている。
そろそろ玉止め時のようだ。
「サンキュー!テロリストォッ!」
鋼鉄のミサンガがギチギチと音を響かせ、全身でもってたわしへの恨みを口にした。
迫り来る炎の塊を器用さステータスで避け、
スレスレを回避しつつ走り抜ける。
肌がストーブに当たりすぎた足のように熱くて仕方がない。
むしろ少しヒリヒリするくらいだ。
たわしの背後で鉄がマグマのように煮え立ちながら融解し始める。
テロルは氷魔法の詠唱をもう終わらせていたのか、目の前には氷の塊が集まっていた。
「アイス・ロック!」
氷のつぶてが融解部位と結合し、大量の水蒸気となって砂漠の砂嵐と混ざり合う。
走り抜けたたわしの身体事吹き飛ばす勢いで猛烈な波が押し寄せた。
にいさまがこっちに走って来るのが一瞬見えた。
「オラァッ!」
「《昇龍炎》!」
甲冑から伸びたアームをタクトパッパとセシィマッマが根本に近い所から削ぎ落とす。
ミサンガは地面にガシャガシャと音を立ててその活動を停止させた。
「ノイムちゃん!」
飛んできたたわしをにいさまが受け止めようと構えたその時。
にいさまの後ろから大量の黄色いガスが溢れ出す。
皆が包み込まれる。
たわしも謎のガスのせいで身体のコントロールが効かなくなりそのままにいさまに地面もろとも突っ込んだ。
にいさまの温かい鼓動が伝わった。
その、瞬間。
たわしの体を何かが突き抜ける感覚がした。
ガブジャゥッ
目の前にはにいさまの服があって、にいさまの服は赤色で、でも何だかやっぱりいつもの服の色じゃなくて。
今はもっと、赤黒くて。
たわしの心臓の辺りが動く感覚がする。
たわしの口からヨダレが出てるようだ。
倒れた時に口でも切ったかな。
機械音と共に、たわしの体がふわりと持ち上がった。
自由がきかない首が、力無く重力に従いコクリとこうべを垂れた。
たわしの目に入ったのは、銀と赤が混ざった花。
たわしの胸に咲いたその花の力で体が浮いていた。
「ノイムちゃ、ん」
にいさまの声が聞こえる。
あのガスは麻痺毒だったらしい。
身体の違和感はあるが痛みはない。
タクトパッパ以外は皆動けてるみたいだ。
麻痺耐性積んでなかったのか。
たわしも器用さ極振りだから人の事言えないのだ。
ゲームじゃないって、言ってるたわしは馬鹿だったなぁ。
だって、こんな状況になってもまだ自分が死ぬはずがないって思い込んでたんだから。
にいさまが慌てて手を伸ばすも、もうたわしには届かない。
「にい、さ、がんば、れ」
麻痺で動かない表情を無理矢理動かして、たわしは笑顔を作った。
叫びたいのを抑えるように、にいさまの顔がくしゃりと歪んだ。
もう、頭が働かないや。




