第43話「檻の街」
起きたら顔を洗って即出発だ。
トージの町からフィンクス大陸キララに行ける駅馬車が出ている。
というわけでセラさんの住宅村の石を使ってトージの町へ移動。
かつての悲壮な面影は無く、今やトージの町は活気溢れる商売の港町の様相へと変わろうとしていた。
ヘンゼルさんを筆頭にトージの町に住み着いたプレイヤーは、地上だけじゃ飽き足らず海にも手を伸ばし始めたようで、海上には建築の為の木枠の骨組みが浮かんでいるのがわかる。
ゲームでは出来なかった、既存の町の発展。
皆汗を滴らせながらも、笑顔だった。
手を海へと突き出したはるなんちゅらしき石像が制作されているのも見える。
その隣、ネズミ国の有名な石像の配置で、勾玉ポニーテールらしき石が彫られているのが凄い気になる。
著作権で消されそう。
あの時、ヘンゼルさんの手を罪に染めさせなくて良かった。
そう心から思える光景をにいさまと一緒に歩いていくと、トージで知り合った人が声をかけてくれる。
「二人とも、行ってらっしゃい!」「死ぬんじゃないぞたわしちゃん!」
「きゃー!ソウルさぁーん!お気をつけてー!」
「戻ってこなかったら許さないからなー!」
たわし達に贈られる彼等なりの激励の言葉だった。
その人たちへ手を振ったりグッドサインを贈りつつ駅馬車に乗り込む。
「皆さんもお気をつけてー!」
「行ってきますのだー!」
揺れる駅馬車。トージの町が見えなくなるまで、たわしとにいさまはその光景を見ていた。
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かざむとはるなんちゅを除いた、チーム桃桜の葉一向は駅馬車に乗り込み、キララへ。
ヒメカツとワードさんは諸用でツードへ向かうらしい。
馬車で揺られる事1時間。
風景は海から砂浜、砂漠へと変わりサボテンなどの乾燥地帯特有の植物が目立ってくる。
砂煙が立つ広大な大地の中に、その町はあった。
遠くから見てもわかる程の巨大な博物館がそびえ立つ、中都市キララが見えてきた。
見た目はイギリスのクリスタルパレスに似た建築様式で、ガラスはステンドグラスの様に鮮やかな色彩で彩られている。
町の施設は砂から守れるように博物館の中へ収容されている。
その手前には巨大な庭があり、中央には智神スタディグの神像が祀られていた。
到着したので降り立ってみると目の前には駅馬車停留所と町を隔てる鉄格子の門があった。
「俺らは予定通り中都市ツードの調査に行ってくるからなー」「皆気をつけて行動してね!ヒメカツとの約束だよっ!」
「2人とも気をつけていくのだぞー!」
ヒメカツとワードはそのままツード行きの駅馬車に乗り込んで出発していった。
さて、キララの町だが。
いつも通り解放されていて、おかしな所は見当たらない。
人が見当たらないのは皆中に避難しているからだろうか。
「誰もいませんねぇ…」
「中にいるかもしれない、様子見だな」
タクトパッパに肩車されたテロルが呟く。
しばらく進んでいくと、何やら焦げ臭い匂いがする事に気がつく。
背の高い木に囲われた道を抜けると、そこに広がっていたのは明らかに交戦したとわかる、一面の抉られた地面だった。
所々に血の跡も残っている。
「……想定してはいたけど、最悪全滅しててもおかしくはなさそうね」
ガサリと後ろで音がして全員が武器に手をかける。
目の無い智神スタディグの像が庭木の隙間からこちらを見ていた。
その目はぽっかりと無くなっているように見えて、闇という物質が入っていると錯覚させる違和感があった。
虚無と言えば分かりやすいかもしれない。
そのあまりの怪奇な様子にゾワリと鳥肌が立ち身体が近づいてはいけないと危険信号を出す。
像が動く様子はない。
「……スタディグの像は真ん中にあったと思うんだけど……」
「ホラー要素満載ですよコレェ…」
スタディグ像は相変わらずこちらを見ている。
「……《残像》もう一人のたわしに接近させよう」
分裂したたわしがスタディグ像の足元に移動する。
スタディグ像の虚無の目がたわしの分身に向けられた。
『ドワーフノ娘、料理出来ルカ』
キィェェエァアシャベッタァァァァアと叫び出したいのを堪えて頷く。
『他ノ者ハ』
たわしが後ろを向いて皆の様子を見る。
皆首を横に降っていた、その後ろ。
巨大なロボットが足音一つなく、静かに接近していた。
「皆後ろ!逃げてぇえ!!」
『《侵入者発見》』
「コイツ一体どこから!!」
けたたましいサイレンが鳴り響いて町の外部へ続く道が一瞬で閉ざされる。
周囲を囲む柵は上へ上へと伸びていき、重なりあって巨大な檻へと変貌を遂げた。
皆が一斉に距離を取り、巨大ロボットと相対する。
その見た目は中世の重鎧の騎士。
巨体が重いようで二足歩行をしても歩行スピードが遅い。
それをカバーする様に鎧の隙間から触手のようにニョロニョロと動く素早いアームがこちらへと勢いよく伸びてきた。
「どうやらコレのせいで全滅したみたいだなァッ!
どんな手を持ってるか、わからねぇから、慎重に見極めろ!!」
地面が抉れるぐらいの力を持つアームをテロルを肩車したまま避けながら、タクトパッパが叫ぶ。
「今のうちにアームを減らします!」
にいさまは迫り来るアームに向かってハンマーを振って故障させていく。
それによりぐしゃぐしゃになったアームは本体に戻っていき格納される。
「プロミネンス・ファイアボール!」
タクトパッパの肩で詠唱していたテロルがファイア系の上位魔法プロミネンス・ファイアボールを放つ。
タクトパッパに肩車されているお陰で攻撃を避けて貰える上に詠唱まで危険無く出来るようだ。
「火属性通りました!」
「《火属性付与》!首締めていいから足で踏ん張れテロル!」
「ヒィィッ……!」
そう言うなり敵のアームを掻い潜りながら邪魔なアームも切り落としていく。
バターを熱でカットしたかのように鉄の手が溶け落ちる。
剣スキルの属性付与によりタクトパッパの持つ剣には赤い光が灯っていた。
けど、エフェクトがおかしいような。
視界の端にセシィマッマの姿が映る。
持ち前の素早さを生かして数え切れない程のアームを追従させている。
勢いよく反転したその体に赤い光が迸る。
「《昇龍炎》!」
次の瞬間、手に炎を纏ったセシィマッマがアームの塊に飛び上がり、その拳で乱撃を繰り出していく。
拳に宿ったその意志は鋼鉄の束縛を次々と融解、合体を繰り返させる。
鉄の塊となったアームは地面に自身だったものを溶け落としながら撤退していく。
たわしも負けられぬ!いいからドーピングだ!
料理ボックスからあの凄まじい器用さと素早さとの上昇を誇るホットケーキを取り出して1ピース分齧りとる。
ほっぺをハムスターのように膨らませながら咀嚼すると体がふわりと軽くなるのがわかる。
ゲーム内での器用さトップランカーより、今のたわしは間違いなくナンバーワン。
たわしの攻撃力ステータスじゃあれは破壊出来そうにない。
何を基準に狙っているのかを確認する為に残像を使う。
「《残像》!」
たわしの分身を出現させると、アームが二手に分かれたのが見えた。
「《全力逃走》!」
義賊のスキル、全力逃走を発動。
本来なら素早さを2倍にさせ敵の素早さパラメーターを超える事で戦闘から離脱させる確率を上げるスキルだが今回はあの鉄の腕を雁字搦めにする為に使用する。
コマンド式のゲーム世界ではあまり役に立たなかったスキルだが、現実になったこの世界では素晴らしいスキルである。
「ちょ、まっ、めちゃくちゃ速いぃ!」
誤算はホットケーキの料理効果で素早さも上がっていた事くらいだ。
そのあまりの速さに街の外壁の一部を走っている事に気がつかないまま全力で走り抜ける。
「はわぁっ?!」
頭上スレスレをアームの群れがよぎり悲鳴をあげるテロル達。
セシィやソウル、タクト達を捉えようとするアームの数を優に上回る3倍の量がノイムを捉えようとしていた。
「ノイムちゃん!1番の目的は君みたいだ!」
「な、なんだとぉーぅ?!」
にいさまの声を拾ったたわしが後ろを見ると、隙間が見えないほど塊になったアームがこちらを追いかけているのがわかる。
「ヒィィッ!!捕まったら死ぬだろこれぇ!!《残像》ぅぅう!!!」
たわしの分身がさらに一匹現れ、アームの半分くらいを引き受けて逃走する。
あれ?残像って一匹しか出せなくね?
そんな風に考えているうちに目の前の壁がアームの衝突で轟音を響かせながらめくれ上がる。
「ぎにゃぁぁあ!なんでたわしばっかりー!!」
遺跡の森、フィンクス大陸にたわしの悲鳴が木霊した。
おまたせしました




