第3話「とりあえずなんかやろう」
腹は減っては戦は出来ぬ、致し方なし。
謎の肉が使われたこの料理を粗食する。
箸はついてくるようだ。
「う、美味しいような美味しくないような……なんだろー、この一味足りない感じ……」
たわしは空腹を満たす為に食べきった。
生きる気力が多少は湧いたのか思考が働く様になったのだ。
「うーむ、これからどうすればいいのだろう…」
ノイムがそう呟くと同時に遠くから羽音が聞こえる。
その方向を見ると、女神カルテットの使いとされている怪鳥コウモリブタが大量にこちらへ向かってきていた。
「にゃっ⁈」
まるで嵐の様にノイムのスレスレを擦りながら飛んでくる。
「にゃー‼︎」
コウモリブタが自宅に押し寄せ視界が黒とピンクに染まる。ポストに何かを投入していくと彼らはそのまま飛び去っていった。
「現実のお知らせコウモリブタ怖すぎ……!」
彼らは女神カルテットの声と郵便物を届ける大切な存在だ。
ゲーム内では左上端にキャラクターアイコンが表示され荷物が届いたと報告してくれるだけだったのだが、こちらではそうではないらしい。
ボロボロになりつつポストを確認すると、そこには輝くGがあった。
お金の単位はGである。
昨日モリブタバザーに出品していたことを思い出す。
モリブタバザーは冒険者達の大切な収入源の一つだ。
好きな様に好きな値段をつけて売れるのだが。
「たわしの作った料理が、全部売れてる……?」
クラバトは作って戦うRPGだ。
メイン職業は戦闘職、サブ職業は生産職として活躍出来る。
ノイムのサブ職業は料理人、レベルは45。
サブ職業のレベル上限は50の為、高い方だと思って良いだろう。
そんなノイムの作った料理が普段売れないランクCの料理からランクAの料理まで、すべて売れていた。
「住宅村、出た方が良いのかな」
この世界の現状を確認する為に住宅村を出て中都市ランブに行く方が良いのはノイムも理解していた。けれど、ノイムが一時的なパニックになっているのだ。
他のプレイヤーも同様にパニックを起こし、中都市ランブが無法地帯と化している可能性は誰も否定出来ないであろう。
「……外に出るの、怖いのだ」
実戦なんてケンカくらいしかやったことがない。しかし、このリアルと同じような触感をもつ世界で、死んだらきっと痛いだろうということは、たわしにも分かった。
「『マイク』」『ログアウト中です』
もう何度呼んだかわからない恋人の名前を呼んだ。
この世界に彼がいないという残酷な答えが、たわしをまた、蝕んで。
「一人は、怖いよ。」
リアルの知り合いはクラバトをやっていない。クラバトで顔を知っている人間もリアルで会ったことはなかった。
『マイク』はクラバトで出会って付き合い始めた彼氏である。あと一ヶ月もしない内にリアルで会う約束をしていたのだ。
その日を楽しみにしていた矢先にこの異常事態であった。
「……材料ないと、ご飯が確保出来ないぞ」
気を取り直そうと、アイテムボックスに入れていたカカシ付き畑を取り出した。
この世界がゲームだった頃、庭の畑は一個しか置けないという制限があるのを知らずに購入したものだ。
もうゲームじゃないのだし置けるんじゃないか?
ふと、置いてみた。
制限なんて知らんぞと言わんばかりに、畑が増えた。
結果的に、3つの畑をこしらえた。メガシャキレタス、ライスローズ、ビッグポテトがそれぞれ植えられている。
だいじなものに入っていた『楽チンジョウロ』の仕組みはわからないが水をあげた瞬間畑全体にジョウロで水をあげていないのにも関わらず、ジョウロと同じ高さの位置で雨が降る。
すごい勢いで潤っていく土。
それをおかしいと思えないほど、不安定になった心で畑のメニューを押し、肥料を撒く。
「……バザー、見てみよ」
今の内に何か買わないといけない気がして、たわしはバザーを覗きにいくのであった。