第22話「束の間の休息」
あの後、たわしを苔玉と罵った不届き者にテロリスト共々助けられた。
「……悪かった」
「……そう言われたら仕方ないのだ、許そう」
許し許されるという事は、過去の悪い自分を救うという事なのだ。
「これにて一件落着ねん!良い子良い子!」
はるなんちゅが嬉しそうに元子犬を撫で撫でしている。
「うるせぇオカマ……」
そう呟きながらもその手を振り払わない元子犬は、きっとまんざらでもないのだろう。
このツンデレめ。
「ノイムさーん!」
「大丈夫か皆ー!」
タクトさんとヒメカツさんが走ってこちらに向かってくる。
「ヒメカツ、空を飛んでいくノイムさん見て幻覚でも見てるのかと思っちゃった!」
「跳ね返った漬物石当たってたもんなヒメカツ」
頭にアイスの氷を乗せているのはそのせいだったようだ。
遅れてセシィマッマも到着だ。
「ノイムさん達が無事で良かった……!」
そう涙ぐむセシィマッマの豊満なボディにたわしとテロリストが吸い込まれる。
抱っこだ。
「「マッマ……」」
テロリストと声が被った。
気分は赤ちゃんだ。
「ノイムちゃーん!」
ワードが更に遅れてやって来た。
「ワードさん!ワードさんがいなかったらあんな事出来なかったのだ!お疲れ様!」
バブみから抜け出してセシィマッマに抱っこされながら返事をする。
「えへへ、照れるぜ。
っとそれより、町に戻ろうぜ?
皆で食料持ち寄って祝勝会開こうって話になってるんだ!」
町の上空で花火が上がる。
太陽は地平線ギリギリに顔を出しているだけで、夕焼け空には夜の帳が下りようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ガヤガヤとする町に戻って来たノイム達御一行。
振り返る人々はノイム達の姿を確認すると手を振ったり拍手をしたりしてくれる。
「頑張ったなハ◯太郎!」
おい誰だたわしが聖水飲んでる所をこいつに教えたやつは。
「ノイムさんよー!こっち向いてー!」
お姉さんにはサービスしておこう。
笑顔で手を振る。
「お姉ちゃーん!」
人混みを器用に避けて足の間からかざむが飛び出てくるのをキャッチ。
「怪我してない?してない?」
「にゃはは、大丈夫大丈夫!この通り今は傷一つ無いのだ!心配してくれてありがとうなのだ!」
そのまま会話しつつ一緒に歩いて行く。
たわし達を案内してくれたお姉さんが振り返った。
「ノイムさん達はこっちのテーブルです!」
ウェイトレス姿のエルフ娘が大人数で座れるテーブルにたわし達を案内してくれる。
テーブルの上には、美味しそうなご飯が食べてと言わんばかりに湯気を立てて待っていた。
空腹を思い出したとでも言うように皆のお腹が鳴る。
「これ食べて良いのかー?」
「ええ!1番の功労者の皆様の為に料理人を極めたプレイヤー達が作ったのです!お代はいらないと言っておりました!」
テーブルの近くにいた人がたわしの身内ならとかざむの分の椅子を出してくれる。ありがたや。
中にはゲーム内で見たことがない料理まで並んでいる。
きっとスキルを使わずに作ってくれたのだろう。
まんぞくグラタンやふわふわ焼き魚、ホクホク肉じゃがにぷりりんエビチリなど、和洋折衷様々な料理が所狭しと並んでいた。
魚介類は釣竿があれば誰でも釣れるため、それを出してくれたのだろう。
たわし達は思い思いの席に座り、食べ始めた。
「美味しいのだぁ……」
「美味いねぇ……」
これはまさにランクAの料理。ぷりぷりとした色鮮やかなぷりりんエビチリの食感をかざむと料理をシェアしつつ楽しむ。
ホクホク肉じゃがやまんぞくグラタンにも浮気してみる。
ホクホクとしたビックポテトやコムギパウダーで作られたニョッキが良い感じに汁やホワイトソースとよく絡んで美味しい。
「幸せですねぇ……」
隣で座っていた猫妖精が涙ぐむ。
「うん……なぁテロリストよ」
「えへへ、何でしょう」
幸せからなのかツッコミはないようだ。
「テロリストの名前、教えて欲しいのだぁ」
「あははっ今更ですかぁ。
私は テロル って言います」
「そうかぁ、ちょっとドイツっぽい名前なのだぁ」
やっぱりテロリストじゃねーか。
ほのぼのとした雰囲気で食事は進んでいく。
「ヒメカツ!これうめぇぞ!」
「えー?冷製パスター?」
「このソースがすげぇ野菜の味を引き立ててるんだよ!ほれ、あーん」
「どれどれ……んーー!」
美味しいと言わんばかりにヒメカツが握りこぶしを上下に振る。
ヒメカツとワードが何やら良い感じだ。
ヒメカツのファンが血管が浮き立った顔でワードに呪詛を呟いているのは見なかった事にした。
はるなんちゅは元子犬にじゃれついている。
「あなたグッドちゃんっていうのね!良い子良い子!」
「うぜぇ!やめろって言ってんだろ!」
「はい、ジャガイモの煮っころがしよぅ」
「……ありがとう」
母子家庭の親子を見ている気分だ。
「セシィ、そこの料理取ってくれねぇか」
「はいはい、ちょっと待ってね……これぐらい?」
「ん、サンキュ」
セシィマッマがタクトさんのお世話をしている。
タクトさんに大盛りについだ料理を渡して素直に受け取られているセシィマッマ。
減らしてと言われないのはタクトさんが素直にその量が欲しかったからに違いない。
実際タクトさんはペロリと平らげてお代わりを要求している。
それはまるで夫婦のような雰囲気で……。
ならタクトさんはタクトパッパ……?
「マッマ、そこのご飯下さい」
そう考えていると、テロルがナチュラルに言った。
セシィマッマはテロルに少なめについだご飯を出す。
テロルは嬉しそうな顔で食べている。
「ノイムさん、もっと食べないと大きくなれないぞ」
タクトパッパ……。
「はい、ノイムさん、じゃがバター」
たわしの好みを的確についてくるセシィマッマ。
ポテト……!
「ここのお家の子になるぅー!」
たわしのバブみが加速する……!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
皆が食べ終わった後、はるなんちゅが口を開く。
「皆良かったらアタシのチームに入らない?」
「はるなんちゅ、良いのか?」
はるなんちゅがリーダーの「桃桜の葉」では、はるなんちゅがコロシアムで有名になってしまいファンがチームに押しかけた。
それが原因で人員募集を禁止にした経緯を持つ。
「アタシのオンナの感が勧誘した方が面白いって叫んでるのよぅ!んで、皆どうかしらん?」
オンナの感があるのかは微妙だと思うぞ。
「俺入ります!はるなんちゅさん!」
「あらあら、ノイムちゃんの弟なら大歓迎よぅ!」
かざむの黒い毛並みを撫でながらはるなんちゅが笑った。
「チーム、俺たちだけだけど」
「リーダーはセシィだからな、セシィに従う」
「ヒメカツは良いと思うよ!」
「なら、入れてもらいましょうか」
セシィ達は入ると決めたようだ。
「私はチーム無所属なので入ります!」
テロルがワクワクした顔でチーム入りを宣言する。
「……俺はもう入ってるから、やめとく」
子犬改グッドは入らないようだ。
はるなんちゅはグッドを気に入っていたのか少し残念そうな表情になったが、皆が入ると聞いて笑顔だった。
「皆、ありがとねん!これで何かあってもグループチャットで連絡出来るわん!
グッドちゃんは個人で連絡するから、フレンド送っておくわん!」
「入ってくれてありがとうなのだ!」
ふと、頭に疑問がよぎる。
はるなんちゅ、母子家庭じゃなくて大家さん……?
たわしがアホな事を考えているとヒメカツさんが発言する。
「ふぁぁぁ…ランブの町でも戦闘あったからか、ヒメカツ眠くなってきちゃった」
「そろそろ宿取るかぁ……」
「あん、それならアタシのチームアジト使って頂戴!グッドちゃんは行く?」
「俺はこの町で宿取る」
「あん、了解。それじゃあ皆、これ転移石ねん!」
はるなんちゅが皆にチームアジトに転移出来る石を渡す。
「それじゃあ、行きましょ!グッドちゃん、良い夢を!」
キラキラの粒子に包まれて、皆が転移する。
転移すると同時に和風の館が見えてきた。
松の木が等間隔に植えられているその庭には、温泉やシャワーが屋外に設置されていて、地面には砂利が敷き詰められている。
「ほら、上がって上がって」
一階は会議室兼宴会場、二階は宿泊の為の部屋になっている。
もちろん畳で土足厳禁、寝る所は布団だ。
「んで寝る時はこれ使って頂戴ねん!」
白い浴衣を皆に手渡す。
「お風呂は混浴になっちゃうけど、シャワーはちゃんと個室で用意してあるわん。
けど、異世界仕様だから、今のところアメニティがないわん。水着で入ればいいんじゃないかしらねん。
説明はこれだけ、あとは自由にしてくれて構わないわよぅ。それじゃあ、アタシは軽くシャワーだけ浴びて寝るわねん……」
はるなんちゅが出入り口から退館する。
「ヒメカツもそうしよー……」
「俺は風呂浸かる、ワードは?」
「俺はそこまで汚れてないしシャワーでいいかな」
「テロル、一緒にお風呂入るのだ!」
「きっとあの匂いついてるでしょうからね……」
「俺も入るー!!」
「三人とも身長低いけど、溺れない?心配だから私も入るわね」
それぞれアイテムボックスを使用して水着に着替える。
ヒメカツは白いパレオ、セシィは黒いビキニ、たわしはスクール水着、テロルはフリルのワンピース水着だ。
男性陣は男子用のスクール水着。
「早めに済ましちまおうぜ……ねみぃ……」
あくびをかみ殺すワードさん。
皆も疲れているようで、次々お風呂へ向かう。
「気持ち良いなぁ……」「ですねぇ……」「ほへぇ……」
プカプカとお風呂に浮かぶテロルとかざむとたわし。
タクトさんは浸かりながら舟を漕いでいる。
そんな皆を見守るセシィマッマ。
ワードさんとヒメカツさんはシャワーを淡々と浴びて寝床についた。
空を見上げれば、リアルとは比べ物にならないぐらいの星空。
「(……にいさま、今何してるんだろうな)」
空には三日月が登っており、金色に輝いていた。




