第2話「わからない事だらけ」
ひとまず棺桶ベッドから脱出し、外へ出ようと試みる。
どうすれば外に出られるだろうか。
クラバトがゲームだった頃と同じように、私は玄関の扉に触れる。
『外に出る
屋根裏倉庫
部屋の模様替え
何もしない 』
突如出現するメニュー。
びっくりしすぎて身体が跳ねた。
加減が効かない自分の跳躍力にもびっくりした。
50センチ位跳躍した気がする。
身体が軽い。
メニューの『外に出る』を選択して私が見たものは。
キャットシーが治める「中都市ランブ」に存在する【住宅村アリス地区】特有のそびえ立つ巨大キノコと、桜型ツリーハウスから舞い落ちる桜の花びらが美しい自身の庭であった。
「うぇぇ…これってぇ…」
頭の霧が晴れるように、先ほどまでスルーしていた現状が異質な物であると脳味噌が訴える。
動揺し過ぎてパニック寸前のノイム。
落ち着こう、いつものノイムじゃなきゃダメじゃないか、と残念な脳味噌がおかしな指示を出す。
ここはゲームの世界だから、自分のキャラは崩壊なんてしちゃダメなのだ。
「ま、待て、待つのだたわし。…これはきっと夢なのだ、だからたわしのお手手をキュッと抓ってもぜぇったい痛くないはず…
ぃたいのだぁ…」
自分で自分の手を抓って痛みが走った為、とりあえず現実だと思うことにした。
残念な脳味噌は順応能力が高いのである。
落ち着いてふと、思い出した。
クラバトで知り合った恋人の名前を。
「(今日、クラバトやるか!)」
約束して、しまっていた。
「あ…あぁ、『マイク』‼︎」
突然無機質なアナウンスが頭に響く。
『現在ログアウト中です。』
「ピャッ」
さっきよりも更に50センチ位跳躍した気がするのだ。
落ち着いた残念な脳味噌は、ゆっくり理解した。
「…この世界に、たわしの恋人は、
マイクは、いない、のだ。」
彼が巻き込まれていないと安堵すると共に、解放感と虚無感がたわしを蝕んでくる感覚がした。
ーーーーー
ザクザクと土を掘り返す音が聞こえる。
気分を紛らわせようとたわしは畑仕事に精を出していた。
「これでよし……」
独り言を呟いても、それを聞く人は無く。
「どれくらいたったのかな」
「…おなかすいた。」
飢えと孤独が絶望を加速させていく。
「『マイク』」
『ログアウト中です。』
心の支えになりそうな恋人の名前を呼ぶも、帰ってきたのは機械的なアナウンス。
絶望に染まるまいと、たわしの相変わらず残念な脳が気を紛らわせようと指示を出す。
「アイテム、見れるかな」
念じると目の前にパッと所持アイテムの一覧が表示される。
お腹が空いたたわしの目に留まったのは、
出来の良さ【ランクC】のメガ盛り肉丼であった。
牛丼に温泉卵が乗っているような見た目なのだが、生憎この世界には牛っぽいモンスターはいても牛はいない。
果たして、この肉は何の肉なんだろうか。
…とりあえず、手元にある食材でお弁当も作っておこう。
何の肉かはとりあえず考えないようにして、メガ盛り肉丼を食べた。