第14話「怒りの声」
打ち上げ花火の音と光が近づいて来る。
先ほどのような物体Xではなく、ちゃんと鳥と視認できるほどの距離になっていた。
「急いで!時間がないわよ!」
距離から到着時間を予測するタイムキーパーの役割をしていたセシィが叫ぶ。
「漬物石、準備オーケーです!」
「打ち上げ花火掻き集めました!」
「すまん!まだパチンコは時間がかかりそうだ!」
大工が叫ぶ。
動く相手に当てるために回転機能をつけているせいか、作業に時間がかかっているようだ。
そうしている間にも、モンスターは迫って来ていた。
「どうするタクト!」
「仕方ない、陣形を組むぞ!
花火組は目標が500メートル先に来たら迎撃を開始する!
投石組はパチンコが出来るまで大工達を守護、僧侶はパラディンの体力を切らさないよう注意してくれ!
飛び道具及び魔法が使える人は建物を盾にしながら目標の体力を削るんだ!
いいか!絶対に無茶はするなよ!」
タクトの指示がヒメカツのスキルで全体に拡散される。
「「了解!!」」
「タクト!いつでも大魔法発動可能だぜ!」
「これだけチャージが早いと、たわしも一緒なら魔術ガトリングになるのだ!」
ワードとノイムの周囲に複数の魔法陣が展開されている。
「了解!セシィ!距離は!?」
「街までは5000メートル!到着時間は5分後よ!」
「花火組は移動を開始するぞ!セシィ、ボーフゥの指揮は任せた!」
タクトとヒメカツが花火組を引き連れて住宅村に向かう。
500メートル地点まで、残り4分。
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「もう!こんだけ花火打ち込んで退却しない理由はなんなのよぅ!」
はるなんちゅがスカラベキングの揺れからかざむを守りつつ叫ぶ。
「はるなんちゅさん!町から大勢の人が!」
花火を片手にかざむがボーフゥのプレイヤーを発見した。
「幸先良いわね!このまま突っ込むわよぅ!」
スカラベのスピードをさらに上げ、ボーフゥまで駆け抜ける。
500メートル地点まで、間も無く2分。
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「タクト!あれノイムさんの弟じゃない?!どっちかわからないけど!」
「なんでモンスターに乗ってるんだ?!」
「かぎやーーーっ!」
「これから毎日!鳥を!焼くわよぉぉぅ!」
そう言いながら打ち上げ花火を使用する二人。
その下には目をハートマークにさせたスカラベが全力疾走している。
どういう状況だこれは。
二人の声質からしてピンク髪の方が不審者らしかった。
猛スピードで走行して、花火組とすれ違うその瞬間。
「後は頼んだわよぉぉう!」
着物から大量の花火を地面に転がしながら走り去るはるなんちゅ。
「後で事情聞くからな!
皆!迎撃体勢につけ!」
「ヒメカツと一緒に皆も気張っていくよー!ノイムさーん!弟さんとピンクいのがそっちいったー!」
「ヒメカツ!カウントとるぞ!」
「了解!発射まで残り5秒!4、3、2、1……
発射ァッ‼︎」
打ち上げ花火の一斉砲火が開始された。
凄まじい数の音と光が、昼の空を影に変える。
「ギャァァァ"ァァオ"オオ"オオオオオオオ!!!」
聞く者全てを威圧するような、痛みと恨みの混ざった声がボーフゥの町まで響いていた。