第6話 知識
「では、参るぞ」
参るぞってなんですか!いやいや、結構ですと言いたいが、もう手遅れだろう。なんか、体の周りを、光が覆っていっているのがわかる。というか、これもしかして……
唐突に、頭に猛烈な負荷がかかる。痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?これは――
「ッグッッッガァァァアァアァァァァァァァァアァ!!!」
* * * * *
………………………どうやら、夢を見ているらしい。これは断言できる。何故か?理由はきわめて簡単である。だってさ。自分は異世界に来ているはずなのに、目の前に故郷の友人たちの顔があるのだ、それも複数人。こんなこと、まずありえないだろう。
いやまあ、さっきまでの異世界の方が夢ってこともありえるんだけどね?どうしても、あれが夢とは思えない。願望抜きで、直感的にそう感じるのだ。あれは、現実だと。そうすると、今の状態は、夢としか思えない。
っていうか、これ、一体どんなシチュエーションだ?自分の意識も、信じられないほどにはっきりしている。少し、夢なのかこれ?と疑いたくなるレベル。というわけで、状況確認。
「なあ……これって一体どういうシチュ?」
口に出して聞いてみよう!さて、私の夢なんだし、聞けば答えてくれるぐらいにイージーな世界だろう、きっと。
「いや、俺は知らねえよ」
一人称・俺。本名・末福玄能。なかなかにユニークな名前である。
まあ、見事に強面で、がたいがいい。身長高めの、肩幅ひろく、強面。ここまで揃っているので、あまりまともには見えない。が、その実、真面目で単なるいいやつなのだ。ツッコミ役で、苦労人である。かわいそうに。
なんとなく、人を自分なりに解説してみると、自分が相手をどう見ているか、改めてわかるものである、うん。
「お前、今、結構失礼なこと考えたよな」
何故か見抜かれてしまった。かわいそうな子を見る目でもしてたかな?
「とりあえず、恋怒が失礼なことを考えているのはいつものことだよ」
自分が一番失礼なことを口に出しているこいつが、一人称・僕。本名・髙橋紫苑。我々の中だと一番普通の名前なので、本人は少しそれがコンプレックスのよう。多分、他のメンツが名前まともじゃないだけだから、気にしなくてもいいと思うのだが……今度誰かに言ってもらうか。もっと適任のやつに。押し付けるわけじゃないぞ、別にそんなつもりはない!
容姿は、まあ普通に美少女だろう。いつも眠そうな顔をしている。身長は少々低め、というかハッキリ言ってしまうと、まな板系ちび女子。顔は年相応に見える。髪はショートカット。雰囲気は神秘系で、ある程度親しくないと何考えてるかわからないだろうと思う。私は、もう見分けがつくぐらいには付き合いが長い。でも、理解するのに5年はかかった。性格は面倒くさがり屋で、いろいろ計算しているタイプで、朝に弱い、という感じ。
以上、私流人間解説終了。
「そうね……今も明らかに人を解説してたし。ちょっと、女子の容姿について言及するのはどうかと思うわ」
「いや、マジでお前は何で私の考えていることわかるのかなぁ!?」
こえぇ!いつもいつも人の考えてること読んできやがる!超能力者かよ!って感じ。他にここまで読まれることないのに……あ、いや、校長にも読まれたか。
「私とあのしょぼくれた人……恋怒的に言うと校長と一緒にしないで」
「だからなんでわかるんだよ!」
勘かしら?とか可愛らしげに首を傾げても無駄だよ。というか私が校長と違和感なく会話できていたのは、咲良に読まれ慣れていたからなんだろう。もうやだ……慣れたくないのに慣れてしまった。
にしても、何度も見ているはずなのに、惚気たくなるような絶妙な首の傾げ方である。これを素で出来てしまうのだから天然って怖い。
咲良の人間解説は……いいか。する必要を感じない。というか、解説しようにも、私の語彙力では、愛おしいとしか思えない。ごめんなさい。惚れてます、天然が好きなんです、ていう感じ。
にしても、こいつらに夢で会えるとは……夢って、結構本人の願望とか混じることあるってことは、私、大丈夫なフリを自分に対してもしていたが、やっぱり本音では辛いよなぁ……
これが、誰も知る人のいない異世界に行くってことなのか。なるほど、私は、こいつらに、それほどまでに会いたかったのか。さらに言うと、依存していたのかもしれない。
「夢の中でも、会えてよかったよ」
しみじみと私が何かいえば、いつもならば茶化されるのだが、今回は違った。
「まあな。俺としても、感謝だぜ」
「僕も、素直に嬉しいよ」
「私も、会えて嬉しいわ」
全員が、真剣な顔で、それぞれ返事をしてくる。どうやら、そん感じていたのは、私だけではなかったらしい。
「こんな状況でも、約束は有効なのかな?」
私がたずねると、当然と言わんばかりの顔で返される。
「状況なんて関係ないぜ」
「杞憂だよ」
「今更何を言っているの?恋怒」
よかった。みんなともう一度確認できて。今ならそう思える。4人の約束は、結束は、決して破れない。そう、確信できた。
私は、もしかしたら、そのことが、ほんの少しだけ心配で、みんなに確認したくなっていたのかもしれない。そう、思う。
心残りはあるけれど、もう、不安に感じることはない。
多分、この夢って、ただの夢なんかじゃない。きっと、この夢は――
* * * * *
…………………………………………………………なんか、頭が重たい。それに、身体中が痛い。地面の固い感触と冷たさが心地いい。わざわざ目を開けるのすら億劫だが、まぶたを持ち上げる。ああ、だるい。
どうやら、あの頭痛のせいで、のたうちまわって気絶していたようだ。全身が汚れている。それに、たくさん打撲したよう。
それに、顔の辺りが濡れている感覚がある。あまりの痛みに、涙を流してしまったようだ。うん、自分の状況は、今こんな感じ。いや〜、それにしても痛かった。意識がとんでしまうぐらいに――
「――って、何勝手に人にトンデモない魔法かけてるんですか!知識を付与する的なものでしょう、あれ!こちとら気絶しましたよっ!」
勢いよく起き上がって、目の前にいた校長に抗議する。いやもう、今回ばかりは切れた!
「はっはっはっは」
この校長…飄々と笑いやがって!
はっ、落ち着け私。
「儂としても、まさか脳が負荷に耐え切らずに異常をきたすとは思っておらんかったわ。魔法で治癒せんとならんとはのう」
うんやっぱり殴ろうそうしよう。
なんてことを考えている場合じゃない。
「今後こういったことはなしにしろ」
口調も変えて真剣に言ってみた。
「なんと、お願いどころか命令とは……とはいえ今回は儂に非があったのう。今後こういったことはなしにすると確約しよう」
「……一応今は信用しておきましょう」
若干怪しい気がするのだが。やむをえない。
「それはさておき、お主、折角魔法の基礎知識を授けてやったのじゃ。さっさと確認せぬか」
さて置かれたよ!明らかに、私死にそうな話だったのに流されたよ!
とはいえ、確かに、知識の確認は必要か。はぁ、しょうがない…………………。
さて、確認、確認ねぇ……とりあえず記憶の整理をするかっと。
「っ?っっっっ!!!!!!」
唐突に、頭に何かが流れ込んできた。いや、違う。これは、たくさんのことを一気に思い出した感覚だ。
うん、明らかにさっきまで知らなかったようなことばかりなのに、違和感がまるでない。その知識を異物と思えない。ずっと前から常識として知っていたかのようだ。
「ふむ、知識は得たな?」
「Yes.」
「何故英語?……まぁ知識を得たのならばよし」
話しかけないでほしいな今。正直かなりヤバい。違和感なく知っているとはいえ、さっきまでは本来知らなかったことばかりだ。頭パンクしそう。
その場に突っ立って目を瞑りながら集中する。武道やっていたおかげで精神集中は得意だ。
この世界の魔法に関して整理しよう。
・魔法では、使用するごとに本来何らかの数値が減少したりはしない=いくらでも使える。
・一般的に、2流魔法使いで連続して魔法を使うと、初級で5発。中級で2発。上級以降は使えれば上等。
・魔法は、全ての星の中心から無限に出てくるマナをはたらかせて使用する。原則、どこも濃度は同じ。使っても、マナは消費されない。質量保存の法則無視。
・精神力とは、その人などがマナに命令できる強制力。言うなれば思念波の強さ。この思念波の強さによって、使用できる魔法の規模も変わる。
・魔法を連発できないのは、思念波を使うたびに、ロスが生まれ、体の中の、言うなれば思念波を発する器官に損傷を与え、思念波を発せれなくなってしまうからだ。なおこれは、個人差はあるが、24時間以内には治る。
・魔法は、詠唱しても良い。これは決まった詠唱の作り方があり、開発もできる。イメージがしっかりとできていれば、無詠唱でも問題なし。
こんなところだろう。うむ、だいたいわかった。この世界、絶対楽しい。だって魔法が面白そうなんだもの。
校長が私に知識を与えてくれたことは感謝してもよさそうだ。方法はあれだけど。
まだ、わからないというか、知らないこと、疑問に感じることはたくさんある。しかし、しかしだ。こんな面白そうなものがあって、使わないなんて私の好奇心が許さない。
これはもう、使うしかない!
まずは詠唱から。
「属性水。20ばかりなる1。位置指定眼前。ウォーターボール!」
……瞬間。私は歓喜する。来た来た来た来た来ましたー!
魔法成功。完璧に、私のイメージした通りに発動した。本来詠唱は速度や温度まで口頭指定するようだが、そこはイメージでどうにかする。
今回のは、詠唱省略というそうだ。なんというか、思った以上にこれまでの妄想が役に立つ。
流石日本。妄想で、本来高等な技とされる詠唱省略がすごく簡単に感じる。これ、きっと日本でいろいろアニメ見ているやつなら簡単にできるんだよなぁ。映像として知っているのは、やはり強みだ。
さてと。言われた通りに魔法を学習してみたわけなんだが。
「とりあえず、この後に何すればいいんでしょう?」
完璧に空気になっていたが、そういえば、校長いたな。
と思ったら、目の前にはいなかった。
「まったく……教えてやると言うたに。お主、自力でやってしまうとはな……異界人恐るべし、といったところか」
「うわっ。後ろから当然話しかけないでください!心臓に悪い……」
「よく言う。どうせ最初から気づいておったくせに」
バレてたか。うんまぁ、知ってたんだけどね。
とりあえず、向き合って質問。
「で、どうすればいいんですか?」
「はぁぁぁぁ……」
なんかため息つかれた。何故?
「もう終わりじゃ。お主、儂が本来教えるつもりだったことまでやってしまったしのう。知識はもう与えた」
「えっと………つまり、これで指導終了?」
「そういうことじゃ」
ええぇぇ……折角いろいろ楽しそうだったのに。まあ、確かにもう魔法については明らかに基礎とか超えてるだろう知識得たけど。流石に、基礎知識で最上級魔法まで教えないだろう、普通。
もし、基礎で上級魔法教えるのが普通なら、この世界、強さの基準がとんでもないことになる。
あれ?というか、私――
「――それぞれの魔法の実際の威力とか知らないんですが?」
うん、上級魔法なんて、よくよく考えると発動方法以外何も知らないや。
「言われてみればそうだったのう」
「ええ、知りません。是非、実演を!」
好奇心が抑えきれない。
魔法を見たい。今すぐに!
「わかった、わかった。実演してやるから、そんなに迫ってくるな」
普通に嫌がられた。顔をしかめて、逃げられる。
さすがに、これ以上はやりすぎなので、素直に待機する。
「はぁ……とりあえず、上級魔法だけでいいな?」
「はい!」
さあ、この世界の魔法の威力はどんなもんかな?
近日中にまた投稿します。