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何がために君は死ぬ  作者: 小説中毒者
第1章 幼馴染
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第4話 精霊

字数今回増えました

 まずは返事を待つ。そうしないと相手がどんな存在かもわからないしね。


「ははは、どちらを向いているのだ?儂はこちらにおるぞ?」


 頭上から声が響く。そう、正面の木ではない。正確には、大木の枝の先に、その方は立っていた。

 長く蓄えられた髭と髪。白のように見えて、その美しい光沢から見て、銀。肌の色は白人の肌の色と同じだ。顔立ちも同じく。もしかして、体毛も全て銀なのだろうか?そんなことをふと思った。

 特徴としては、何よりも印象的なのは、目。語彙が少ないからか、上手く表現できない。それでもあえて言うのなら、まさに賢者の目、英知をたたえた、慈愛の目。そんなところだろうか。

 服装は、こちらも賢者らしいローブ。色は緑だった。杖は持っていなかった。残念。

 少々意識が脱線しながらもまわりくどい解説を自分の頭の中でしてしまった。だが、最後に1つ言わせてもらいたい。ダOブルドア校長なのか!そうなのか!先生って呼ばせてください!

 思考が激しく脱線しかけたので、急ぎ修正する。

 このお方、とりあえず校長と呼ぶことにした。

 そんなバカなことを考えている間も校長はこちらを感情のこもらない、なのに温かみのある目で見つめてきている。これが慈愛の目というものなのだろうか。

 向こうが一向に口を開こうとせずに、10分ほど経った。さすがに気まずく感じたので、話しかけてみる。


「あなたは、一体どなた様でしょうか?」


 あ、しまった。許しの言葉でもなんでもなく、先ほどから一番気になっていることを聞いてしまった。

 だが、それについて、校長は何も言わず、代わりにこんなことをおっしゃった。


「ふむ、別にこちらも怒っているわけではないからのう。そこまで畏まらなくてもよろしい。それに、聞きたいことを率直に聞くこと、これが意外と歳をとると難しいからのう。今のお主の年齢のうちは、そこはもう少し素直な方がよかろう。

ちょうど、今は聞きたいことがいろいろあるだろうからのう」


 校長はまるでこちらの考えていることを読んでいるかのように語る。ちなみに、終始無表情である。威圧ハンパねぇ……

 なんて思ってたら唐突に消えた。

 転移だ!すげぇ!というか何処行った?

 探そうとすると、再びこちらが一瞬だけ考えたことを読んだかのように、背後に気配が……

 って普通にびっくりした!心臓にワリィ!でもかっけー!っとイカンイカン思考が激しく脱線してしまった……

 とりあえず振り返り、校長と目を合わせる。落ち着け、私の心臓。テンション下げろ。落ち着いてきたところで、再び校長のお話。

 

「いくら思春期の悩み多き時期だからといって、流石に全てを人に頼るのは良くない。それは、その思いは、自分で考えるが良い。時が、そなたの最大の友であり、恋人であり、師であり、一生付き合う相手なのだから」


 とても説教くさい話であった。なのに、妙に心に響くような気がするのはなぜだろうか?

 それにしても、ここまで見事に心を読まれている感覚になるのは久しぶりであった。

 そんなところで変に感動しながら、ようやく返事をひねり出す。


「いろいろ聞きたいことがあるということは、つまり、私が今置かれている事態についてということでしょうか?」


「そこまで畏まらなくてもよろしいというておるに。もう少し楽にしてみてはどうだ?らしくないぞ?」


 まだ会ってからほとんど経っていないというのに、らしくないと言われるとは。しかし、校長なら、どうせ、普段の自分も筒抜けな気がしてきた。

 ならば、と開き直ってみる。どうせ筒抜けなんだろうし、そもそも自分はたいていの人に一貫して同じ態度を通してきたのだ。わざわざ一人だけ変えるのもおかしい話だろう。

………………………………いやまあ、例外はいるんですけどね。


「ではお言葉に甘えて。言葉を崩させてもらいます。で、話は戻るんですか、怒ってないなら、先ほどの質問に答えていただきたいのですが?」


 一気にガラッと雰囲気を変えて話してみた。若干人をなめているような話し方。丁寧語でも、不快感を与える話し方。いや、こちらが素だったのだからさっきまでの態度がやっぱり変だったのだ。

 この素の喋り方。いったいどれだけ色々な人の神経を逆なでしてきたことだろう。でも、逆に、面白がられて人が寄り付いて来もした。普段はそんな感じだ。いや、感じだった、か。もう、環境は大きく変わってしまったのだろうから。

 しかし、普段通りに話してみたつもりだったのに、若干萎縮して話してしまった。やはり、校長の雰囲気は、なんとなく人が自然に敬意を抱くような何かがあるのだろう。自分しかいないので全然確証はないけれど。

 そんなことをぼーっと考えていると、唐突に返事が返ってきた。


「ふむ、まず、最初の質問に答えるかのう。端的に言うと、儂は、精霊じゃな」


「………………………………はい?」


 いや、何言ってるの、校長?精霊ってあれ?あの羽生えたちっさいの?っていやそれ妖精か……あれ、でも妖精と精霊って違うのか?なんか同じものだったり……しないか……


「わからぬか?うーむ、お主は、自然の様々なものには、精霊が宿るということを聞いたことがあるかの?」


 そこまで言われればさすがに分かった。いやでも察した。やはり、全然妖精なんかじゃない。それは、つまり――


「――つまり、あなたは、その大木の、いや、それに宿る精霊ということでしょうか?」


「そういうことじゃな。あと、ものには精霊が宿っていると言ってものう、全てに儂みたいなのがいるわけではないぞ?」


 付喪神的なものかな?でも、あれ確か、愛用されて100年とかいう条件の伝説だった気が……


「それは、何らかの条件があるということですか?」


「条件はあるのう。ただし、付喪神とは違うぞ?精霊は、すべてのものに宿っておる。ただし、大抵は実体どころか、そもそも意識というものを持ち合わせとらん」


 宿るものによって精霊の格のようなものが変わるといったところだろうか。しかし、それなら納得である。知恵の原木なんていうものなら、そりゃあんな精霊が宿ってもおかしくないわ。だって、知恵の原木って、それ、本の集合体みたいなものでしょう?それはどう考えても宿るよ精霊。うんうん。

 考えようによっては失礼な風に納得してから、再び質問。


「つまり、あなたの宿る大木は、それだけの格があるということですか」


「そうじゃな。さらに言うと、大規模な森なら一番の大木に、砂漠なら一番の砂丘に、山脈なら一番高い山に、という感じに意識ある精霊が宿っておる。もっとも、実力にはかなり差があるし、必ずしもそうとは限らんがの」


 ちなみに儂はここ周辺で一番の大木ぞ、なんていうことを言っていたが、そんなことよりも妙なことを聞いた気がする。

………………………………山、だと?

 いやまあ、何にでも宿るというのだから、そんなことがあってもおかしくないのかもしれないが、スケールが大きすぎないか?

 というか、それなら、海なら海底火山とか、島とか、大陸棚とか、海溝とか、湾とかにもいるんだろう。それって、八百万の神、日本神話の考え方じゃないか。日本人よ、我々の信仰は間違っていなかった!以上、現実逃避。

…………………不思議と、疑う、という選択肢はなかった。やはり、これも雰囲気というものだろうか?

 そんなことを延々と考えていたが、校長の声で我に帰る。


「先ほどから色々と疑問に思っておるようだが、お主の考えていることは概ね正解だぞ」


 ……やっぱり考えは読まれていると考えた方が良さそうだ。

 にしても、概ね正解ってことは宿っているんだろうな~。遭遇したくない。そんなの、神と出会うのと大差なくない?現状かなうわけないだろそれ。

 しかし、こういう物のお約束ってのだと一回ぐらい遭遇しそうで嫌だな~。

 ……そんなことを考えるより質問していた方が建設的か。


「では次の質問ですが、やはり今私が置かれている状況というのは特殊なのでしょうか?」


 校長が珍しく、いや初めて若干迷う。


「まあ、一般人は一生出会わないしのう。人口に対する割合は低いといえよう。しかし、お主の世界からは貴様を含めて13人おる。が、異邦人としていうならもっと多いのう」


 確かに、13人か……多い気がするが、人口70億人中13人は少ないと言えるか……

 この場合の異邦人というのはきっと異世界人のことだろう。そして、お主、つまり私の世界から13人ということは、それ以外の世界からも来ているということだろう。世界が複数ある、ということだ。

 知りたいことだらけなので、質問を重ねる。


「異邦人たちは皆、私と同じタイミングでこの世界に来たのですか?」


「そうじゃ。時間は見事に貴様と全く同じじゃ。ただし、降り立った場所は皆それぞれ違うのう」


「場所を教えてはもらえませんか?」


「残念ながらそれはルールに違反するのでな。禁止されておるのじゃ」


 今大変気なる言葉聞こえた。ルール、だと?それはつまり——


「あなたを縛るようなルールがあるということですか?」


 明らかに格の高そうな校長が縛られるようなルール。それって、もはや、世界の法則とも言えそうだ。

 校長は大きく頷く。


「正解じゃ。要するに、創造主が儂らのような高位存在に課した制約じゃ。これを破るということは自ら死刑宣告を受けに行くようなものじゃ」


 またも気になる言葉を聞いた気がする。創造主?それはつまり神だろう。神がいるということは――


「――宗教があるのですか?」


「創造主を筆頭にさまざまな神がいるからのう。それぞれ別の信徒たちが崇めておる。規模はそれぞれ違うが、どの神でも制約を守り崇めておれば加護をもらえるしのう」


 複数神か。それにしても、創造神もいるとなると、宗教戦争やら、いろいろありそうだ。元の世界ならまだ神の加護なかったのでマシだったが、この世界、神様から介入ありそうだしな……だって、加護があるんだよ?加護が何か知らんけど。

 ということで再度質問。


「加護とは?」


「神がそれぞれ下界のものに与える祝福のようなものじゃよ。神によってその性質は異なるがの。それぞれ司る事柄が違うのでな。また、加護の力も個人差がある」


 ああ、やっぱりよくある小説の加護か……これ、異世界に来た時に授けられるチートとかないのかなぁ……ないよなぁ、たぶん……今後もらえるのを精々軽く期待しておくか……


「どの程度ですか?」


「弱いものは擦り傷が直せる程度、とても強いものなら死者蘇生といったところかのう」


 また幅が大きいな。死者蘇生だと?それでは、もう加護でもなんでもなくて神そのものではないか。

 にしても、やっぱり、宗教戦争絶対起こるな、それ。

 そんなことを考えながらも質問を続ける。


「最初の方に話を戻します。私のような異邦人は、歴史の中でも複数存在しましたか?」


「お主らの前に一代だけだがの」


 たった一代だけか。以外と多くないな。


「彼らの数は?」


「お主らと同じじゃ」


 同じか。なんというかとてもフラグ立っていそうだな。


「それぞれ何か成し遂げたりしましたか?」


「おうよ。半分は建国王になっておる。他には世界規模の商会の創業者やギルド創設者などがおるの」


 うん?建国王?創業者?創設者?またとんでもないな。

 それに、ギルド創設か……先を越されたというか、定番作っといてくれてありがとうというか……ロマンあふれる世界だな。

 とりあえず優先すべきと思っている質問を続ける。


「時代はいつ頃ですか?」


「ざっと2000年ほど前じゃ」


 うーむ、西暦とほぼ同じか。では


「彼らは元の世界でいうとどのぐらいの時代から来ましたか?」


「お主らと同じじゃ」


 だと思った。そりゃ、商会創ったり、国立ち上げたり、ギルド創設してる時点でラノベ知ってる奴らの仕業だろうと想像がつく。それにしても惜しいな。今も生きていたなら共通の話題で盛り上がれたかもしれないのに。

 

「話は変わりますが、なぜ自分たちはこの世界に来ることになったのでしょうか?」


「…………………」


 初めて校長が黙り込んだ。表情の読めない顔で、こちらの顔をじーっと見つめてくる。微妙に怖い。

 重い沈黙だ。これは耐え切れない。


「無――」

 

 先ほどの発言を取り消そうと口を開けば、校長に遮られる。


「――よかろう」


 今度は流暢に喋り出す。


「ただしお主らがこの世界に来ることになった理由をしゃべるのはルールに違反するのでな。それに関しては一言だけ。お主ら全員に共通する点がある。それを調べれば自ずと分かるようになるだろう」


 ここまで言い切って、校長は不思議な瞳でこちらを凝視してくる。正面から見つめられるとやりにくい。

 それにしても、共通点ねぇ……他の異邦人探すところからして大変そうだ。なんて思っていると


「ただし、理由は喋れんでも、原因は喋れるからの」


 知りたいか、と瞳が訊ねてきているように感じた。


「それを知ることによって、少しでも今後のことが定まるのであれば、是非知りたい。また、そうでなくても、誰に責任を負わせるべきなのかは、はっきりと知っておきたい」


 丁寧語もやめて、純粋な、本音で話した。

 確信できた。自分たちがこの世界に来る原因になったもの。それは間違いなく知性ある何かによる故意的なものだと。直感に等しいものだったが、今まではその直感に救われてきたことも多かったので、今回もその直感を信じてみた。しかし、後悔した。返事を聞いた途端、校長の表情が暗くなったのだ。

 何かまずいことを言ってしまったか?逆鱗ってわけではなさそうだが、表情が暗くなるようなことを言ってしまったのだろうか?まずい、全然わからない。


「責任のう……残念ながら、それはできんのう」


 責任を負わせることはできない、ということだろう。でも


「何故?」


 純粋にそれがわからない。


「それに責任を負わせると、周囲に対する被害が大きすぎてのう。神でも迂闊に手を出せんのじゃ」


 それはつまり、世界規模で被害を及ぼすことができる存在、ということなのだ。それって、どれだけ強大なんだ?

 でも、確かに、異世界に人々を移動させる――これはとんでもない存在にしか無理か……


「その正体は?」


 申し訳なさそうに返される。ちなみに、申し訳なさそうなのは口調で、表情は動いていない。


「すまんのう。先ほどはあんなことを言っておきながら、それも言えんのじゃ。しかし、その正体は伏せるが、何を行ったか、だけ話すとしよう。

簡単な話じゃ。ソレはとても神を憎んでおった。殺したいと思うほどに。しかし、それはできんかった。なにせ、自らの存在が強大すぎたせいで、迂闊に動くこともできんかったのでの。

そこで、ソレは、ある手段を思いついた。それこそが、貴様らがこの世界に来た原因じゃな。そう、ソレは、自らの代わりに、別のものにやらせようとしたのだ。神殺しを。

そこで、ソレは、早速準備を始めた。神に気付かれぬように、慎重に。そしてある日、遂に決行したのじゃ。異世界人召喚を。

その召喚を成功したかのように思われた。しかし、そこで思わぬ邪魔が入った。神の介入じゃ。ギリギリのタイミングで、神はそれの行おうとしていたことに気付いたのじゃ。

その介入によって、召喚は一部成功し、一部失敗した。召喚自体は成功したものの、召喚されたものを支配下に置くこともできず、時代も2つに分断され、召喚地も皆バラバラ。

貴様らの召喚された経緯はこんなとこかのう。

ああ、それと安心せい。神の介入によって貴様らにかけられるはずだった隷属の魔法が効果を示さなかったので、貴様らに何か仇なす魔法はかかっておらぬ」


 一度に大量に話されたので、頭の整理が追いついていない。いや、頭というより心かな?いや、だけど、心は頭にあるんだから、やっぱり頭の整理でいいのかな?

 そんな風に思考が一部脱線しながらも、どうにかいろいろ整理する。

 そして、今最大の疑問を尋ねる。


「帰還する方法はありますか?」


「あるのう。それを教えるわけにはいかないが」


「そう……ですか」


 若干声が落ち込んでしまう。

 家族は、まあ別に未練ない。薄情だが、ちょっと親は会えなくてもいいや。会いたいと思えないほどに家庭がどうしようもない状態ということだけど……

 しかし、あいつらがなぁ……脳裏にあいつの顔がよぎって仕方がない……あいつらに会えないのは厳しいなぁ……

 やはり、元の世界でどうしても会いたいと思える存在はいるものだなぁ……

 ……とまあ、真面目な思考はこの辺りにして、切り替え、切り替えっと。

 ってことで、気になることをどんどん質問していきましょう!


「すまん。それは無理じゃ」


 ………………………………はい?


「他の質問に関しては、儂以外に適格者がおるからそちらに質問してもらうことになるのう」


 なんというか、気合い入れて損した……

 いやまあ、実はこんなことになりそうな予感してたんですけどね?

今後も時間あるときに投稿していきます

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