第1話 目覚
同日投稿です。
うららかな春の陽気、澄み切った青い空、燦燦と降り注ぐ日差し、大男20人が登っても決して折れることのないような大木、その木の根元、そんな格好の場所に、ソレは落ちていた。
いや、転がっているという方が正しいだろうか。
いや、否。それも違う。何故なら、ソレは、寝ているのだから。
年の頃は、10代後半といったところだろうか。肌は少々不健康なほどに白く、体型は瘦せ型。髪は長く、腰ほどまでストレートに伸ばしている。髪の色は黒。そして何より、印象的なのは、その顔。男女100人に聞けば、意見が半分に分かれそうな顔をしている。
そう、半分は美少女と、半分は美少年というだろう。
つまりは、容姿端麗なのだ、とても。一部の層の人(御腐人)なら鼻血を出してしまいそうなタイプの。
ぴくっ。ぴくぴくっ。瞼が震えだす。
しかし、その瞼はまだ開かない。まるで、目を閉じて見える世界に、未練があるかのように。
だが、無情にもそんな理想の世界は儚く崩れる。まるで、夢のように。
彼と外界を分け隔てていた扉がようやく開き、彼は目覚めた。
日本人の目。その中でも、特に黒の強い目だと言える。
* * * *
夢を見ていた。
なんとなく、人の笑い声だけは聞こえた。一瞬恐怖を覚えた。他のことは、覚えていない。
夢の残滓にしがみついて、絶対の安息の地で安らいでいたかった。
しかし、それは叶わず、まぶたに、燦々と降り注ぐ日光を、そしてその温もりを感じながら、目を開ける。
体を起こそうとして、まず違和感。
妙にスースーとするように感じる。いや、というか、
「ここは、一体どこ?あの草は何?この木は何?……そして、何で私、裸なんだろう?」
困惑が思考のほぼ全てを占める。なぜか、困惑していてもそうは見えないとよく色々な人に言われたが。
とりあえず、表情は平常運転(自覚症状なし)のまま、状況把握と記憶整理をする。……うん、無駄である。何も分からん。
直前までの記憶を必死に弄る。とはいえ、それは私が眠りにつく以前のものであったが。しかし、確かなことは言えないが、体感的にはせいぜい3時間もたってないはずだ。
私の記憶が正しければ、私は、あの草原に転がって、昼寝をしようとしていた。というか、寝た。当然、服は着ていた。まだ3月だというのに裸で外に出るなんて、寒すぎて到底無理だ。そもそも、私にそんな露出して喜ぶような趣味はない。断じて、私にそんな趣味はないのだ。
思考を戻そう。
おかしい。服が消えているというのもそうだ。それに、明らかに、裸だというのに、それほど寒くもなく、逆に丁度いいぐらいだ。周囲の植物が体に当たっても、くすぐったさを感じない。そして、やはり、周りの景色も見覚えがない。なんなんだ、この場所は。一見、ただのウラハグサ系統が生えた丘に思えるが、ここ、どんなに見渡しても地平線の彼方まで、丘が続いて見える。ていうか、それだと、ここ、とんでもない標高になる気がする。つまり、ここがどこだかわからない。
「ここはどこ?私は誰?」
これを言いたくなってしまった。私は誰は冗談にしても、マジで、ここどこよ?そして、何よりも、先ほどから感じているこの違和感。
「日本にこんな植物ない……」
そう、私は、かなりの植物好きだ。自分の住んでいる国の植物なら大抵この頭で覚えている自信がある。自画自賛だよ、ああそうだよ、でも自信があったんだよ。文句あっか?…なのに、その自信を打ち砕くかのように、周囲に生えている植物すべてが、初めて見る植物なのである。
視界に映ってから、ずっと思っていたが、何なんだよ、この植物たち!
よく観察してみると、一部に日本に似た様な植物が見られる。が、同じ種類の植物はなかった。
例えば、自分の周りにたくさん生えているウラハグサもどき。一見よく似ている。しかし、ウラハグサは、葉の根元が180度回転し、本来葉の裏となる部分が表を向いているのだが、このウラハグサもどき、葉の根元で360度回転して、本来表になる部分が、結局表を向いている。他にも、多分あれ、キビだよな?って言いたくなる偽物とか。日本に生えている植物によく似た植物が、本来の植生ガン無視で生えている。
外国?いや、でも、それなら、逆に、こうも揃って、すべて日本の植物そっくりなわけがない。
必死に、考える。しかし、いくら考えても、今自分がいる場所を特定・推測できない。世界どこにもこんな場所はない…はずだ。自信なくなってきたよ、まったく。
まあ、普通に考えて、先ほどまで寝ていて、目が覚めれば全裸で見知らぬ土地に転がっていたのだ。パニックに陥らないだけマシだと思う。自分のことながら。
夢だとは思えない。自分、生まれてからこれまでそんなにリアルな夢を着た記憶がない。いやまあ忘れているだけかもしれないけど。ただ、他に選択肢が思いつかない。
いや、それは正確ではない。自分で自分にツッコむ。今時の学生なら、聞いたことあるだろう、アレ。ただ、頭がそれを否定したがっていただけだ。
1分ほど悩んでから、諦めて、推測を口に出す。
「まさか……異世界?」
まだ続きます。
今後も読んでいただけると幸いです。