第15話 逃避
一週間抜いて、お待たせしました。
見事に、風邪をひきました……
どうにか、微熱の中、書き切りました。どうぞです。
そうと決めたら、直ちにここから離脱しますか。感覚的に、右側には何もいない気がするんだよ。いや本当、直感て便利だよね。
剣を右だけ鞘に収める。左は、何のため使えるようにしておく。刀と違って、剣って反りがないから、抜刀術を使うものでもない。つまり、すぐに使いたけりゃ、納刀しておくべきではない。
まあ、そういうことで、地面に擦らないように気をつけながら、走りますか。
自分で言うのも何だが、細いわりに、短距離は速い方なのだ。長距離は自信ないけど。
ポジティブに。これからするのは、長距離ではない。100m4本と考えればいいのだ!……なかなか辛いか、それ。
なんて余談はよくて。駄目だな、一人だと思考の横滑りが止まらん。
とにかく、色々思考排除して、今は走る!
やけに太い木の幹を、慣れで避けながら走る。
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走るはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるはしるハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシルハシル………………………………………………………
……………っは!いかんいかん!走るという概念が、私の中でゲシュタルト崩壊を始めてた。
しかし、気づけば200m以上余裕で疾走してた。これ、間違いなく私の自己ベストだよな。人って、命の危機を感じると、本当にとんでもない数値叩き出すんだな。火事場の馬鹿力ってすげーな。
一度立ち止まり、周囲の気配を確認。……うん、OK、近場にゃもういないな。
安全はもう確保した。
「っっっと……」
辺りを見渡してみる。うん、OK、見事に獣道とかもないな。
なんとなく、振り向いて後方確認。うん、OK、私の足跡残ってないな。っってそれ、何があった!
もう一度確認。うん、やっぱりない。
私はどうやら勘違いしていたようだ。あの、丘と校長がヤバイのだと思っていたが、それは違ったようだ。いや、違わないけど、校長もあの丘もヤバイんだけど、どうやら、魔法要素・生物・鉱物、色々やば気だ。
踏んでもすぐに起き上がる生命力。それを全ての植物が持ち合わせているという事実。
これは、この世界において、外来種持ち込みなんて迂闊なことしたら、どうなるやら……案外、もともとそこに生えてる物が強すぎて寄せ付けないかもしれん。が、それで環境に対応されたり、突然変異されて、植物分布が総入れ替えなんてことが起こったら、阿鼻叫喚だろう。そして、この植物たちは、それを可能にするだけの能力を持ち合わせているようだ。
これは、なんというか、もう、私の中の常識は、一部放棄しなければならなそうだ。無駄というか、邪魔になる。
ゴブにしたって、栄養状態とかが良いわけではなさそうなのに、あの動き。私の知る同じぐらいの体格の人間に比べ、遥かに能力が高い。筋力とか、圧倒的な差がありそうだ。ゴブリンの大きさは、多分1mぐらい。それが、木の枝なんかより太い棍棒を振り回す。信じがたい。が、これが現実。もう、諦めるしかない。
ここは異世界だ。
と、ここまで思考を終えたところで、行動再開。立ち止まってても意味ないからね。というか、危険だろう。
左の剣も鞘に収め、さて、どこに行こうか。向かう方向どうしよう?いや割とガチで。
棒で決めるか。と思ったのだが、肝心の棒が見当たらない。剣でやるか?でも、なんか気がひけるなー。
っていうか、迂闊な方に行くと、ゴブと遭遇すること間違い無しだよな。うん、気をつけよう。ってか、それ、行ける方向もう限られてね?
先ほどは、一点以外、何かに囲まれていた。つまり。後ろはアウト。それも、真後ろだけでなく。相当な範囲が危険地帯だ。
うん、正面しかないな、これ。
潔く、前方方向に、のんびりと歩いていきますか。
落ち着いて、ゆったりと。もう何かの気配もしないし、異世界来てから、初めてゆっくり出来た気がするなぁ……
それにしても、この状態だと、サバイバルするしかないな。
そして、改めて、よーく考えてみよう。
サバイバル必須アイテム、水。…………………魔法でどうにかなる。
サバイバル必須アイテム、寝床。…………………魔法でどうにかなる。
サバイバル必須アイテム、飯。…………………草と、どっかに居そうな獣と、魔法でどうにかなる。
………………まあ、知ってた。私、一生ここで暮らしていけそうなことぐらい知ってたさ。
流石にそれは悲しすぎる未来なのでごめんだけどね。
とりあえず、森から出られることを祈りながら、頑張ってどうにかしますか。
どうにかとは言ったが、歩くだけ、だけどね。
森の中の道無き道を歩く。私の前に道はなく、私の後ろに道はできる、なんつって。
あ、訂正。よくよく考えると、この植物たち倒れないからどっちにしろ道なんか出来ようがない。あのセリフ言った人、すみません。
てくてく、という感じだろうか。地面から音がしないせいで、私の呼吸音がよく聞こえる。
それにしても、これも異世界の恩恵なのだろうか?
何がって、私の身体能力向上である。
別に計測したわけじゃないけど、何となくわかる。自分のことだしね。
この革鎧や衣服は、まあきっと、こういった衣装の中では動きやすく、機動性に優れた部類には入るんだろうが、ジャージには劣る。ジャージっていいよね。ジャージ最高!もう、日常生活でスーツなんて着なくてよくね?
……私の欲求は置いておこう。もう、私にスーツを着る機会が訪れるかも怪しいんだし。
また思考脱線しちまった。思考を戻す。
革鎧とかだけじゃなくて、靴だってそうだ。革靴よか余程走りやすいが、運動シューズなんかに比べると、この、雨などにも対応してそうなブーツは、優秀とは言い難い。そりゃ、軽量化されて走ることに特化してるわけじゃないからしょうがないんだがねぇ……やっぱ物足りない。
何よりも、この剣。いくら細くて軽めとは言っても、金属だ。それなりの重量だ。それも、鞘付きで2振りだ。重さとしては十分すぎる。
それに、意識してなかったが、鞘なんて、邪魔なもの筆頭だよね。長さ的に、背中にかけるのは微妙だから、腰の方がいいんだが、走るには邪魔だ。
そして、最後に、障害物付きのこのフィールド。地面の植物のせいで微妙に滑るし、木が遮って真っ直ぐ走れないし。この条件下で、自己ベストを叩き出しちゃうとか、なんかあるっしょ、絶対。そうでないと説明つかない。冷静に思考すると、ただの火事場の馬鹿力とは考え難い。結論。異世界きて、強くなりました。
そもそも、振るっておいて今更だが、よくよく考えると、この剣もおかしいしね。やっぱ、異世界製金属なのは確定だろう。軽さ・頑丈さ・柔軟さ。この3点をクリアした金属なんて、理想形すぎだろ。そんなのあったら、昔の戦争はもっと過激になってた。それも、集団対集団ではなく、一振りの剣を携えた英雄の蹂躙、という形で。
だって、あんな無茶に耐えられるほどの剣を、過去の一騎当千な輩に持たせれば、一般兵に止めるのは無理だろう。
抵抗なく斬れるということは、使い手の負担は減るし、斬るのも疾くなる。簡単に言って、悪夢だ。
その点、この世界は、魔法がある。剣士だけが英雄ではない。単体で集団を殲滅できる存在が確実にいるのだ。
それは救いなのかどうなのか……
そんなことをつらつらと考えながら前へ進むこと、体感1時間。
モンスターどころか、動物にすら遭遇せずに、私はたどり着いた。
どうやら世界は、そこまで私を嫌ってはいないらしい。
目の前には、そう――道が、あった。
できれば、近日中に、もう一話、投稿したいのですが、少々危ういかも……
と、そんな感じなので、今後とも、よろしくです!