第12話 冒険・始
さらに更新遅れました。申し訳ありません!
ようやく、お話が動きます。お待たせしました。
7/9装備にローブを追加しました。ないと、野営が厳しいので……
――誰かの、声がした。姿の見えない、何人もの、声だった。色のない、声。
「……可能性はある。もしお主が――」
「ワシが思うに、一方通行では無理じゃろうな」
「然り」
「訂正しよう。もしお主らが互いに強く惹きあっているのなら――」
「――と西にて会えるはずだ」
「これは、分の悪い試練と賭けになりそうだ」
愉快そうに、声達が笑う。
「だが、成せば期待以上のことになるやもしれん」
「素質は十分にある」
「導きもした」
「肉体的に死ぬことはまずないだろう」
「精神が持つかはわからんが」
「だが、もしあちらもいるのであれば――」
「うむ、そうであろうな」
「ならば後は、見守るのみか」
「他にすることもできることもない故」
「長く生き、力をつけた上位精霊になってしまったのが運の尽きよな」
「しかし、だからこそ、あやつに邪魔されずに、こうして導いてやれる」
「ワシら精霊にここまで導かれたものも珍しいよの」
「ここまでしてやったのだ。楽しみにしていよう」
一旦言葉が途切れ、
「「「「「「「少年よ、汝に精霊の祝福と導きがあらんことを」」」」」」」
* * * *
夢の残滓に、しがみつきたいとは、思えなかった。
異世界2度目の目覚めだったが、なんというか、夢の内容を鮮明に覚えてるってここまで怖いことだったんだね……
目覚めとしては、悪夢以上の最悪さである。起きた時、完璧に夢の内容を覚えていて、でも、映像だけが思い出せず、あの、色のない声だけが頭に強く残っている。朝に弱い私が、一切の眠気を感じないほどに、強く、鮮明に、強烈に。咄嗟に、地面から跳ね起きてしまった。
頭はボンヤリしていないが、ごちゃごちゃしていて訳がわからない。ということで、いつでも必要な、事態整理をしてみよう!
箇条書きで頭の中でまとめてみる。
・夢の中で自称精霊(複数犯?)が話していた。
・精霊って実は暇している?
・運任せではあるが、私は西にて、誰かに会えるかもしれない。
・精霊に対する妨害者がいるようだ。
・私は精霊に期待と祝福をされている。
・精霊の見立てでは、私は肉体的に死ぬことはないようだ。
・精神までは保証されていない。
うん、訳がわからない。一体何があった?何故こうなった?
精霊が夢で話しかけてきた。内容はともかくとして、その事実が意味わからん。
精霊というのが謎なのだ。校長だって精霊のはずだ。だと言うのに何故、別口でわざわざ私に連絡を取ってきた?
一番考えられるのは、どっちかが嘘つきってやつだが……まず話してみて校長は、なんだかんだでホントのことしか言ってないと思うんだよなぁ。理由?直感ですよ。
では、夢で話していたあれらはなんだ?
単なるリアルすぎる夢には思えない。これも直感だけど。とすると、悪魔とかが話していたのか?
疑問。悪魔って、自分のこと精霊って言ったり、祝福してみたり、おまけに姿の見えない状態で語りかけたりしてまで、人と連絡取るのか?
全くもってわからず。それなのに、うん、なんというか、西に行ってみようと思ってしまう自分がいる。
根拠はない。だが、私の魂が囁くのですよ。西に行けと。
ということで、いざ、行かん!
うん、いかん。マジでいかん。長々と現実逃避を続けたが、私は、本格的にここまでなのかもしれない。
ここ、どこだ?
つい昨日、異世界の知らないところ(そもそも異世界で知ってるところなんてあるわけないが)に来たばかりなのに、異世界2日目、早速世界は私をいじめるようだ。
昨日私は、見渡す限り恐ろしい植物が生えている、絶景の丘の上にて校長といたはずだった。
が、今いる場所は、あの丘とは全く異なる。
まず、草原ではなく、森林、である。おまけに、見た所、傾斜もない。なんというか……日本の森林みたいで、すごく、落ち着く。杉もどきとか生えてるよ。暗めの森だ。
それに、自分の格好も変わっていた。昨日の学校ジャージ姿から、異世界に来ました的な格好になっている。
つまりどんな姿なのかって?まあようするに、中世の頑丈な衣服+革装備+ローブ+剣×2。
完璧に冒険者の装い。なぜいつの間にか着替えてるんだとかは、疑問しちゃダメなのだろう。校長に着替えさせられているなんて、想像したくもない。誰得だよその光景。キモいよ。
と、そこはどうでもいい。全然よくないけど、私のある意味貞操の危機ですらあるけど、何よりも感想。
何があった!
おまけに二刀流なのもバレてた!
誰がやった!
あ、いや、最後のは、装備が変わっていたりすることからも、校長かな?
だとすると、私がここにいるのは、校長に送り出されたのかな?もう、自分の好きなようにしろ、と。
……OK、自己完結してたら心拍数は下がったようだ。
落ち着いてから改めて確認してみると、ここは、見事に日本に似た土地なのだろう。
木は、杉に近い。花粉症患者の敵である。つまり、私の敵である。
下草は、背の低めなものでかためられている。ウラハグサとかミヤマオダマキとかフデリンドウとかキビとか。
…………生態系はデタラメなのね。さらに言うと、幾つかは昨日と同じものだ。
昨日のウラハグサはアレだったが、さて今回のはどうだろう?
ギゼン草
品質:低級
状態:良
特徴:薬草。回復薬の原料として使われるが、そのままでも、加工したもの比べると効果はやや劣るものの、HP回復など、一部に特化させた加工品とは違い、その効果は万能。何にでも効く。
HPに限らず、抗がん剤といった病気、精神病にまで。 本当に何にでも大なり小なり効果がある。
ギアク草の特効薬としても知られている。また、魔力のたまりやすいところに生えているギゼン草ほど、品質は良い。最高級のギゼン草は、一部欠陥すらも直す。
伝説では、さらに上の品質があるとも言われ、それは、神をも癒し、死者蘇生すらできると言われている。
久しぶりに異世界で安心した。よかった。超最高級なんて訳わからないものじゃなくて、低級で。
品質が低くて嬉しいと思うとか、重症だと自分でも思うが、やはり、植物で死者蘇生なんておかしすぎるんだよ。
……あれ?植物でなくても死者蘇生がそもそもおかしいのか?
気にしたら負けだね。
話を変えてみよう。杉の森って、下草とかあまりないはずだよね?おまけに、ウラハグサとキビとミヤマオダマキとフデリンドウって、同じ時期に花咲かせるっけ?一面美しい花畑なんだけど。日光あまり入ってこないのに花が輝いてるんだけど。
……深く考えたら負けなんだね。
私、今まで異世界で何回負けたんだろう。
1日と少しのはずなのに、たくさん負けてる。それだけ突っ込みどころが多すぎるんだよねーこの世界。
結局思考はネガティブになった。
今度こそ話を変えよう。
植物の鑑定からして、ここは、魔力がそれほど溜まっていない土地のようだ。なんとなく、そのような土地に強力な魔物なんて出なそうな気がするのだが、念には念を入れて。
何が出るかわからないから、ひとまず森から出ることにする。
一応言ってみよう。ネタとして。
「さあ、冒険を、始めよう」
……イタイね、これ。
今後も、更新はどうか気長にお願いします!