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何がために君は死ぬ  作者: 小説中毒者
第1章 幼馴染
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第11話 食事

ようやく食事にたどり着けました……

ここまでが遠かった……ということで、そろそろ急展開にしたい直前話、遅くなりましたが、どうぞ。

 少々虚しすぎる自嘲を中断し。

 視線を鍋たちに戻す。もう沸騰しているようだ。まずは前座の野菜を入れるか。

 どこからか出てきたテーブルの上にとりあえず全部移動し、これまたどこからか出てきた二人分の椅子を配置し腰掛ける。校長も当然のように私と向き合う形で腰掛ける。ていうか、校長何もしてねぇ。


「働け、若人」


「いや、どこのキャッチフレーズだよ」


 なんか、政治家の若者雇用形ですごくありそうだ。

 にしても、このテーブルは二人で使うにはやけにでかい。3×5mはありそうだ。重厚感のある木製の、絶対にお値段異常なやつ。椅子は、まさに校長室にでも置いてありそうなふかふか椅子。座り心地が良すぎる。これ、自分の部屋に欲しかったな……

 見た目とんでもなく重そうな物たち。しかし、これまた謎素材。見た目に反してとても軽い。なのに少し叩くと感触がめっちゃ硬い。本当、校長の作るものはおかしいな、色々と。そして、その全てが魔法の一言で片付いてしまうのがまた悲しい。いや、逆に単純でいいのかな?

 それにしても、本当に魔法って変なところで便利で、変ところで不便だよな。そこはなんとも言い切れない微妙な辺りだ。

 金にはなるだろう。流石に、こんなものがこの世界の標準だったら、私は多分この世界で生きてはいけない。精霊なんて存在の作るものがありふれていたら、世界のいろいろな水準がとんでもないことになるよ、絶対。核戦争より怖いことが起こりそう。っていうかもう世界滅んでそう……


「失敬な、と言えばいいのか?」


「いえ、校長の技術レベルを褒め称えているのですよ」


「嘘くさいのう」


 嘘くさいなんてそれこそ失敬な。私は純粋に怖いほどすごいと褒めていたのに。なんて自分に嘘をついてもしょうがないか。


「もう突っ込む気力も失せたので流させてもらうぞ」


 いつもは私が突っ込み役なので、ボケてみるのはなかなか新鮮だったが、良い経験になった。流されたけど。

 でも実際に、そんなこ、もうどうでもいい。

 なぜか。そんなことは極めて簡単だ。


「野菜が茹で上がったかのう」


 そう、前座ができたのだ。最初は、ほうれん草もどきを何もつけずに一口。


「っっっ!美味い!何もつけてないのに、甘い!」


 おかしい。普段食べてたほうれん草は何だったんだ?もどきはこんなにも甘いなんて。これはもう、箸を止めるわけにはいかない!

 というわけで、野菜類を次々に平らげる。どれも一様に苦味などがあまりなく、めちゃくちゃ美味かった。自分の語彙力のなさを実感するね。美味いとしか言えない。

 ちなみに、校長も、年老いた見た目のくせして、よく食べる。私に匹敵する速度で、黙々と野菜を食べていく。

 そして、食べ終わってから後悔。醤油とかにもつけずに食べてしまった……なしでも美味かったが、つければもっと美味かったかもしれないのに。

 この後悔は無駄にしないと思いながら、次はメインの馬肉へうつる。

 自分の器には、醤油とポン酢を混ぜたものを入れる。私のお気に入りなのだ。

 馬肉を、火が通りきるまで泳がせ、まずは何もつけずに一口。


「っっっ!美味い!何もつけてないのに、甘い!」


 おかしい。普段食べてた馬肉は何だったんだ?自分で捌いた馬がこんなにも甘いなんて。これはもう、箸を止めるわけにはいかない!

 というわけで、馬肉を次々に平らげる。どれも一様に臭みなどがあまりなく、めちゃくちゃ美味かった。自分の語彙力のなさを実感するね。美味いとしか言えない。

 校長も、一言も喋らず、表情すら動かさずに一心不乱に食べていた。少し怖い。

 気がつけば、馬刺し用にと分けていた分を除いて、すべての野菜・肉がなくなっていた。二人で、何人分食べたのやら……


「満足です……」


「じゃな……久しぶりによお食ったわ」


 ふかふかの椅子にもたれかかり、食休み。満腹感と幸福感で動きたくねぇ。

 ぼーっと満月を見上げながら、なんとなく黙っていると、校長から話しかけてきた。


「のう、お主よ」


「なんだ?」


 姿勢はそのままで、会話に応じる。校長も似たような感じだから、本来無礼なのだがいいだろう。

 校長の言葉を待った。が、なかなか次の言葉がこなかった。

 鳥の鳴き声も、風の音も聞こえない、静寂。私は、待ち続けた。

 5分以上待っただろう。今まで通り、校長は、唐突に再度口を開いた。


「……お主は、故郷に会いたいものはおるか?」

 

 それは、不意打ちだった。

 私が、折角忘れようとしていたことを、的確に、校長はえぐってきた。


「言うまでもない」


「……そうか」


 それきり、校長は口を閉ざした。

 黙って、夜空を見続けていると、寂寥感がこみ上げてきた。

 親に会いたいとは、あまり思えない。それだけ家庭環境は複雑で、ボロボロだった。でも、そんな私でも、会いたいと思える人間は、やはりいた。

 もう心の整理はつけたつもりでいた。でも、無理だった。忘れることができなかった。

 だってあいつらは――


「あいつらは、私にとって、唯一無二の、家族なんだ」


 私は、両親に対して、一切の情を抱いていない。尊敬も何も、ない。彼らに一生涯会えなくなったところで、何の問題もない。しかし、あいつに、あいつらに会えないのは、耐えきれない。

 校長の一言で、私は、それを強く、実感させられた。

 気がつけば私は、泣いていた。満月の夜空を眺めながら、我ながら見事なまでに静かに。ただただ涙を流した。

 何も言ってこない校長の存在が、逆にありがたかった。今話しかけられても、何も言えない。

 心に穴があいてしまった、というやつだった。悲しかった。寂寥感に押しつぶされそうだった。不安だった。会いたかった。自分がこんなに女々しいやつだとは思っていなかったが、案外こんなものかも知れない。

 あいつらの顔が脳裏をよぎる。なんだか、これ、死の直前の走馬灯みたいだな……

 私の意識は、そこで落ちた。

これからも少々投稿乱れる気がしますが、どうかよろしくお願いします。

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