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嫉妬チョコレート

作者: 袋小路 めいろ

 嫉妬の先には良い話を聞かない。言葉にして、声に出せる嫉妬は、嫉妬とは違うのだろう。良く聞く話は、大抵が内緒話であった。誰々が、誰々に云々の黒い雪達磨で、溶けた後の黒い水は何処へ行くのだろう。それですら内緒だから、嫉妬の存在は計り知れなかった。




 基本的憂鬱の朝は、電車までのゴールと、会社までのゴールに割り振られて、企業戦士を成り立たせていた。その小脇を素通りして、慎太郎は家路に着く。コンビニアルバイトの夜勤だった。

 地方都市のコンビニは、暇な時と忙しい時の差が激しい。昨日の夜は暇だった事もあるが、今日が月曜日である事でも、慎太郎の気分を良くさせた。




 帰り着き風呂に入って、飯を喰って寝るだけが、慎太郎の今の目標であった。後、五分ほど歩けば、アパートの扉の前だ。扉の中へ入ってしまえば、世界中の煩わしさを脱ぎ捨てられる。命の保護施設と呼べる、自分の部屋だ。扉の前までタタンと軽やかに来ると、右前ポケットにあった鍵を取り出した。


 鍵穴へ入れて楽になろうとした。


 瞬間、突風。


 少し瞬きをした時だった。左前ポケットのスマートフォンが振動する。慎太郎は、溜息を出した。少し前の風を、溜息が追いかける。

 スマートフォンを確認すると、一緒に働いている女性、二人からの連絡だった。

 二人とも、明日の17時から22時の勤務をやってくれないかという内容である。慎太郎が了解すると、17時から翌朝6時までの勤務になる。13時間勤務になってしまうのだ。

 タダ働きでは無いが、わざわざ、疲れる必要も無い。何か明確な理由があれば、疲れに行く甲斐もある。慎太郎は、扉の前で二人に返信した。



 -何か理由があるんですか?納得出来れば、別に良いですけど。



 扉の前でしばらく待つ。慎太郎は、部屋の中ではスマートフォンを見ない。パソコンがあるからだが、そのパソコンですら、基本的に興味のある事を調べるだけで、部屋の中から外へコミニュケーションを出す事は無かった。


 スマートフォンが振動する。


 二人から返事が来ている。どちらも、切羽詰まっている様だった。

 一人目は、20歳の大学生。笹倉さんからの返事を見る。



 -好きな人が、その日の夜に会いたいって言ってるの。大事な話があるって。

 変わりに出て貰えないかな?

 埋め合わせするから。



(まぁ、そんな所だろう)慎太郎は予想通りという顔になった。

 笹倉さんは、真面目な子という印象だった。引き継ぎが丁寧で、慎太郎の頭に残っている。メモ紙と、物が置いてある所まで一緒に行っての身振り手振りでの引き継ぎ。そこまで気が利く子はあまり居ないので、嘘でも無いのだろう。

 慎太郎は、考える為に二人目を見た。

 二人目は、35歳の主婦、木崎さんである。



 -その日の夜に旦那がね、子供達をお爺ちゃん、お婆ちゃん所へ預けて、ディナーに行こうって言ってくれたの。滅多に無い事なんだよね、何年振りかなぁ。

 だから、頼まれてくれないかな?

 お願いします。



(これが、来ましたか)慎太郎は、嬉しそうな木崎さんを想像した。

 木崎さんは、いつも明るくて、仕事する風がテキパキである、凄い人だった。

 あるイベントが勤め先のコンビニ近くであった時、一時間早めにヘルプに入った慎太郎の受けた、木崎さんに対する印象であった。余裕がありながら早いという、お客さんからしても納得のいく店員さんだ。



 慎太郎は悩んだ。これは、四択である。

 一つ、笹倉さんのシフトに出る。

 二つ、木崎さんのシフトに出る。

 三つ、どちらも出ない。

 四つ、自分もシフトを休む。

 どれが一番良いのか分からなかったが、慎太郎は早く休みたかった。少し長めの黒い髪が、風に揺れた後、先に木崎さんに返事をする。



 -わかりました。14日、火曜日の17時からでしたよね。ただ、笹倉さんからも、同じ内容で依頼が来ていたんですよね。先に木崎さんに返事した事にしたので、そこの所、よろしくお願いします。



 次に笹倉さんに連絡を返す。



 -ごめんね。先に木崎さんから同じ内容で来てて、先に良いよって返事しちゃったんだよね。焦ってるなら、店長に言って、変わって貰った方が確実だよ。あの店長は、若い女の子には甘いから。



 慎太郎は返事が終わると、煙草に火を付ける。流石に我慢出来なかった。携帯灰皿を出すと、トトンと灰を落とした。

 冷たい風が吹くと、スマートフォンが振動した。

 木崎さんからの返事だった。



 -ありがとう。ちゃんと今日、チョコレートあげるね。旦那より、良いヤツにしとくから。じゃあ、ゆっくり休んでください。おやすみなさい。



 慎太郎は、すぐ返事をした。



 -いえいえ、お気になさらず。それでは、おやすみなさい。



 これで、木崎さんとのやり取りは終わりである。笹倉さんからの連絡に、慎太郎は目を通した。



 -そうなんですか。うーん、仕方ないですよね。あの店長、セクハラギリギリな感じだから、嫌いなんですけどね。恩を作りたく無かったんですが、木崎さんが旦那さんとご飯に行くの知ってたし。



 慎太郎は語尾を見て、やり取りが続きそうだと予感した。眠い頭をフル回転させると、なるべく早く終わる様に必死に文を綴った。



 -店長ってそうなんだけど、大切な人と会うのなら、仕方ないと思って言った方が良いよ。バレンタインデートってヤツでしょう。ちゃんとして、気持ち良く行った方が良いよ。



 送信した内容が、ディスプレイに表示されている。慎太郎は、早く寝たくなってきた。煙草を吸い終わったので、携帯灰皿で消した。携帯灰皿をパチッと閉めると、後ろポケットに入れた。



 スマートフォンが振動する。



 -そうですよね。わかりました。店長に言ってみます。でも、セクハラされたら相談乗って下さいね。後、今日、チョコレートあげます。お返し、高いの下さいね(笑)じゃあ、おやすみなさい。



 慎太郎はすぐ返事をする。



 -高いのは無理だけど、それなりにお返しはするよ。じゃあ、おやすみ。



 一通り終わると、慎太郎は頭を掻いた。

 右前のポケットから鍵を取り出すと、鍵穴へ入れて扉を開けた。ようやく、慎太郎は部屋へ入ると、扉を閉めて鍵を掛けた。



「チョコレートねぇ・・・」



 慎太郎の独り言が部屋に響く。荷物を下ろして、少し欠伸をした。シャワーを浴びて、寝るまでの時間を逆算すると、着替えを取る為に、クローゼットを開けた。パジャマ着上下と、下着にインナーを選ぶとカーテンを開けた。もう、大分明るかった。

 慎太郎は、開けっ放しのクローゼットの横を通って、風呂場へ行く。

 クローゼットの中には、悍ましい程の笹倉さんの写真が貼ってあった。それらは、朝日を浴びてキラキラ輝いていた。

 去年のチョコレートと共に。


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