第七章 ~決戦~
いよいよ戦闘開始です。まどかマギカの最終回、の様な?
第7章
月曜日の昼休み、堅吾達の話題は翌週の中間考査となった。
「ああ、これさえなけりゃバラ色の高校生活なのに!」
テーブルの上に突っ伏す田辺。
「何だかんだ言って、常に中位をキープしてるあんたは良いわ。はぁー、こっちはいっつも低空飛行よ」
憂鬱そうに愚痴る秋川。
「大変そうだな、2人とも」
ぼんやりとした表情で、堅吾は2人を見較べた。
「ほうー、さすがはいつも上位に食らいついていらっしゃるお方のお言葉」
「羨ましいなぁー。少しはその脳みそ分けてよ」
白けた調子で2人が食ってかかる。
「だったら、来週直前に勉強会でもするか?」
堅吾にとっては、何気ない発言であったが。
「本当か?やったーこれで中間はバッチリだー!」
「本当?なら安心!」
堅吾にとっては予想外に盛り上がる2人であった。
夜の未来マテリアル研究所。クロイスパイアヌⅠー0008が格納されている実験棟では、最終点検が行われていた。日曜日深夜に密かに運び込んだ操縦席の中で作業を行っているアルマエロが出てくるのを、堅一郎は待っていた。トレーラの上で首が、腕が、足が、推力偏向噴射口が、動作する。更に僅かながら、噴射口からの噴射が確認出来る。間もなくそれは収まり、棟内に静寂が降りてくる。
「問題ない。むしろ好調」
ハッチを開け出てきた白衣姿のアルマエロ。
「それは良かった。異文明のテクノロジーと融和するか心配でしたが」
「私もそう。短い時間でここまで来るとは思わなかった。これなら充分間に合う」
「そうですか…戦争、ですか」
堅一郎も帝国の艦隊が接近中である事は知らされていた。心なしか、声が震える。
「巻き込んで申し訳なく思う。出来る限り被害は出さない様にするが、人々を避難させるべきかも」
「そうですね…正確な場所と日時がある程度絞り込めれば、方法はありますが」
「そう…お願い、します」
1つ頭を下げ、クロイスパイアヌⅠー0008を振り返る。
「こうなった以上は、私共としても出来うる限りの事はさせて頂きますよ」
「私達は、生き延びたい。生き延びなければならない。皇太子の意志を継ぐ為、この地で生きると決めた親友の子供の成長を、見届ける為」
「ハイブリッド・ジーンとでも言うのですかね」
「ハイブリッド・ジーン?」
「堅吾も、このクロイスパイアヌⅠも、貴女方と私共、異なる生命体、異なる文明の遺伝子を融合させ、引き継いでいます。混成遺伝子、ハイブリッド・ジーンです」
「そう…確かに」
「ところで、艦隊の襲来日時は予測出来ますか?」
「…規定通りの行程なら、次の日曜日の午前中当り」
「そうですか。判りました、対処します」
怪訝げな視線を投げ掛けてくるアルマエロに構わず、堅一郎はその場を後にしたのであった。
「駄目。今のままでは、勝機は見えない」
頭を抱えながら芳子が嘆いた。
「戦力の違いは判っている」
アルマエロが渋い表情で呟いた。
「ただでさえ少ない戦力なのに、使える戦力は更に少ない。私達2機のうち、1機しかまともに機甲騎士と戦えない」
花子がしゅん、となる。
「ご免なさい…」
「クロイスパイアヌⅠー0008は直った。最強の機甲騎士が直ったのだから大丈夫…ですよね?」
プリヌフがアルマエロをチラ見するが、渋い表情は変わらず。ここ芦屋家では、対艦隊戦の作戦会議中であった。日時は火曜日の午後9時過ぎ。堅一郎は本社へ行く為と朝早く出た。今日は帰らないと言い残し。理由について特に説明は無かったが、梅木の一件であろうと堅吾は解釈した。
「最強?随分と前の機体。どれだけ戦える?」
「充分に。扱いは難しいが、その実力を引き出し切れれば。開発者の私が保証する」
「貴女は、開発者として実力を引き出し切れる?」
「それは…けれど、今回の修理で良いところもあった。試作機用の電磁集束砲が使用出来る様になった」
「それなら、貴女でも使いようがある?」
「ある。重巡洋艦の電磁集束砲を無力化出来るかも。威嚇に使用するとしても、大気層のせいで高度を落とす事になる。通信施設が無くても操縦席の機能と電磁集束砲の射程で何とかなる筈」
「通信施設をお貸ししましょうか?」
花子が揶揄する様に言った。
「…判っている筈。断固として拒否する」
「…何で?」
それまで沈黙を貫き、議論の成り行きを見守っていた堅吾が口を開いた。
「連合に、機甲騎士の通信情報の記録を渡す事になる。帝国臣民としてそれは許されない」
「なるほど…」
1つ頷く堅吾。
「重巡洋艦が何とかなれば、後は機甲騎士の部隊。相手には大気層内での戦闘経験は無い。隙が出来る筈」
「それは私達もね」
花子の揶揄をアルマエロは無視した。
「空気抵抗で降下中も自由がきかない。迎撃は出来る筈」
「さっきから筈、筈、ばかり。楽観的すぎる」
「最初から状況は悲観的。楽観的になれる点を見つけられなければ、敗北は確定」
芳子とアルマエロの間に火花が散る。
「…なぁ、提案なんだが」
「何?」
「何!?」
アルマエロと芳子に見据えられ、堅吾は苦笑した。
「クロイスパイアヌⅠは、俺が操縦しようか?」
「良いの?戦いは嫌だった筈」
アルマエロが訊ねると。
「別に。戦えって言われて、面食らっただけだ。死者は出ないんだろ?」
「恐らくは。けれど、戦いに不測の事態はつきもの。ゼロとはいかないかも」
「そうだな…まぁ、それは仕方がないだろ。ただ、何も知らない住民達は別だ。安全は確保しないと」
「それについては、貴方のお父さんに心当たりが有るそう」
「そうか?親父は色んなところに顔が利くな…」
「ところで、芦屋さんは操縦出来る?」
堅吾の提案について当然の様なアルマエロとは違い、芳子はあくまで懐疑的である。
「堅吾で良い。操縦方法は覚えた。操縦席には暫く座ってないが、神経追随訓練は続けてた」
「続けていた?」
「ああ、ちょっとコツが飲み込めてきたところだ」
「見せて欲しい」
「部屋へ」
1つ頷き堅吾が立ち上がると、一同は一斉に立ち上がった。
カーテンの引かれた部屋一杯に、幾つもの球体が速度も方向もバラバラに漂っている。それは、机の上に置かれた、小さな装置がプラネタリウムの様に映し出した映像であった。
「俺が見えているものに、体は追い付かない。それは判った。だから、見えているものに正確に体が先回りできる様にした。肉体のタイムラグを織り込んで、正確に、先回りできる様に体を置いてゆく」
巨大な右手が現れる。それで、次々と球を掴み消してゆく。常人には理解し難いが、右手が全く淀みも迷いもないのは判る。全部が消えると、今度は倍の数の球体が。それを左右両手で次々と消してゆく。それが終わると、今度は最初と球体の数は変わらず、しかし今度は掴まず両手の甲で弾き合い、球体同士もぶつかり合い複雑な動きをするのを、更に足で交互に蹴りだす。蹴られた球体を、今度は両手で掴み、やがて球体は全部消えた。
「ま、こんな感じかな」
情報端末のスイッチを切ると、新たに出現していた球体は消えた。頭から外し、机の上に静かに置く。
「…短い時間で、よくここまで。ひとまず、操縦席はこちらに戻そう」
感動した様に、アルマエロが呟く。
「出来るか、俺は?」
「出来る。準備は整った。後は、操縦席を通して機甲騎士と同化するだけ」
「同化、か」
「時間がない。明日から始める」
「ああ、気合い入れて掛からなきゃな」
楽しげに話すアルマエロと堅吾を眺める花子の表情が余計暗くなる。
金曜日の朝。教室内の空気はざわついていた。
「よう、リッチ」
「おお」
朝練を終え教室に入ってきた田辺も、いつも以上に落ち着かなげである。
「なぁ、お前の父さん、あの工業団地に通勤してるんだろ?」
「ああ」
その話か、と大きく頷く。
「不発弾の処理で、日曜出勤は無理だと」
工業団地に建設中の工場敷地内から第二次大戦中の不発弾が発見されたため、日曜日午前中に処理を行うというニュースが流れたのは、昨日夕方の事であった。もちろん言うまでもなく、この一件は工業団地及び多賀湖周辺から住民を避難させる為の捏造であった。これには堅一郎も関与していると堅吾は考えていたが、謎の多いその人脈もあり、誰かに頼んだのであろう程度の考えで、深入りしない事にしていた。
「半径2.5キロだから、ここは入ってないだろ?」
「ああ。当日は避難所になるらしい」
「俺ん家は入ってるから、西部園の方に避難しないとな」
「こっちに来りゃあいいのに」
「指定されてんだから、仕方が無いだろ」
苦笑しながら答える堅吾。田辺の家は学院に近いのであった。堅吾にしてみれば、顔見知りの居ない場所が好ましい。もし探されて、居なかった時の言い訳が大変だからである。と、それはともかく。かくして戦場の用意は調ったのであった。
「まぁ、これで作戦は完成かな?」
芦屋家のダイニングで、もはや恒例となった作戦会議の最終回が行われた。
「これが今の私達に出来る最善。これ以上は無理」
「やるしかないでしょうね」
「…厳しい」
「私の役割は、これで良いの?」
アルマエロ、花子、芳子、プリヌフが各々感想を呟く。
「この作戦では、堅吾、貴方に一番負荷が掛かる。教練課程を見る限り大丈夫とは思うが、無理をしない様に。貴方の能力は頭脳を酷使する」
「…あんたも随分難しい単語を使う様になったよな。頭脳を酷使してるんじゃないか?」
「問題はない。もう一度事前準備の確認を」
「情報はこちらで流します。上手く誘導出来れば良いのですが」
「この内容で上手くゆく?」
芳子の懐疑的な問い掛けに対して。
「艦隊が貴女達の通信経路を利用して情報を入手しているなら。彼らには時間がない。私達がどこかへ去るかも。時間を掛けすぎれば、不審な行動と疑われるかも。帝国との通信経路を確保しながらやって来る時間は無い筈。そうなれば、貴女達の通信経路から情報を入手しようとする筈。もちろん、通信経路を把握している限りの話で」
「この情報を流せば、それが明確になる?」
「そう…貴女達は、私達の事を本国に報告した?」
「ええ。任務として当然」
「そう。それを、盗聴された。こちらの誘導通りに動けば、それが明確になる」
無表情のアルマエロに対して、嫌そうな表情をする芳子であった。
「監視はこちらで。何機か衛星軌道に置いておきます」
プリヌフがほくそ笑みながら言う。
「なら俺は、あれで戦える様になるか」
「明日、実機を動かす。それまでに教練課程修了を」
「了解。殆どぶっつけ本番か。もう少し時間が欲しかったな」
「貴方も機体も、残れば幾らでも。まずはそれが目標」
「ははは…ああ、そうだ」
乾いた笑いの後、堅吾が右手を差し出す。少し戸惑い、アルマエロも右手を差し出す。2人は固い握手を交わしたのであった。
土曜日の真夜中近く。休日の工業団地はしん、と静まりかえっていた。翌日午前中には不発弾の処理が行われる予定のため、休日出勤をしても徹夜は許されていない。クロイスパイアヌⅠー0008の試運転にはお誂え向きであった。
「機体を起動」
情報端末を装着したアルマエロが静かに指示を出す。連絡艇で密かに運び込んだ操縦席の隣に腰掛けながら。実験棟からアルマエロの運転により出されたトレーラの上に屹立するそれは、微かに身震いした。起動時の初期チェックが終了した。
「まず、両腕を肩まで上げ、高速振動剣を右、左と抜く」
機甲騎士の両腕が持ち上げられ、左右前腕部のバックラー内側に格納されている剣のうち、まず右腕の柄を左手が掴み、抜く。次いで左腕のを右手が抜く。両刃剣の刃の部分は白色に淡く輝き、そこから放たれる熱気(超高速で振動する刃の表面が、空気分子を激しく振るわせるため発生する)が、多少離れていても感じられる。
「良し。戻す」
先程の逆回しの映像を見ている様に剣が格納されると、気をつけの姿勢に戻る。
「良し。時速400キロで垂直上昇。上空50メートルで静止。10秒間」
両脇、両脚から青白い光が噴き出し、重量を感じさせない滑らかさで上昇してゆく。情報端末の画面には残り秒数(アラビア数字に調整されている。時間の長さも地球に合わせてある)が表示され、きっかり0カウントされたところで。
「良し。そのまま降下」
垂直に、等速度で降下してくる。トレーラに静かに着地した。
「良し。垂直上昇し30メートルで右に垂直回転。低速」
再び垂直上昇し、高度30メートルで両脚を大きく開くと独楽の様に回転し始める。ただし、独楽の様な回転軸のブレはない。
「良し。中速」
脚を少し閉じると、回転速度が上がる。
「良し。高速」
更に脚を閉じ、回転速度を上げる。
「短時間で良くここまで…信じ難い」
機体中に貼られた発光材の光跡を肉眼で眺めながら、溜息混じりに芳子は呟いた。
「同感です。アルマエロさんから太鼓判は頂いておりましたが」
恐らく芳子とは異なる点に感心している堅一郎。
「…やっぱり、役割分担は正しかった、という事ね」
冴えない表情で呟く花子。彼女にしてみれば、レシプロ機があっという間にロケットに追い抜かれた様な格好であろう。
「役割分担、ですか?」
「貴方の息子さんは、今回の作戦で重要な役割を担う事になります」
「そうですか?…ああ、息子の上達ぶりは、確かに凄いですね」
ようやく感心している点の相違に気付いた堅一郎であった。
「風の影響を受ける大気層内で、回転軸をブラさず、回転速度も高度も一定。推力の方向や量、姿勢等が完全に制御出来ている、という事」
発光材のみを追っていると、それは余計に判り易かった。それらが暗闇の中に描く残像には、淀みやガタつきがない。
「やはり地上を戦場にするのは正解だった。こういう環境での戦闘に不慣れな敵では、あれには太刀打ち出来ない」
今度は宙返りを始めた機体は、やはり歪みのない弧を描いている。
「貴女方の世界に、地球の様な惑星は無いのですか?」
「私達の陣営には、あります。発見されたのはほんの…10年ほど前ですが。それ以前は、私達、そして彼女達の発祥の地である母星くらいしかありません」
「?母星があるのなら、そこで訓練をすれば良いのでは?」
その問いに、花子は寂しげな表情となった。
「もう、ありません。今から、そう…1000年ほど前、恒星の終焉と共に消滅しましたから」
「!それは…何というか…」
「以後、私達は克服し難い困難と戦い続けてきた。彼女達にとっては、今回の一件も、その一環と言えなくもない」
暗い表情で芳子が呟く。
「そう…ですか」
彼女達の背負う余りに重苦しい事情に、それきり堅一郎は言葉を失ったのであった。
堅吾は、静かに星空を見上げていた。静まりかえった工業団地の周辺は明りもなく、いつもより星がよく見える気がした。アルマエロ達や田中姉妹が住んでいた星も、見えそうであった。とはいえ実際に見えるのは惑星ではないが。
「お待たせ」
機甲騎士と操縦席を実験棟に格納し終えたアルマエロがやって来た。堅一郎は既に連絡艇内にあって、アルマエロを待っている。
「ああ…」
尚も、堅吾は夜空を見上げていた。
「1つ、訊ねても?」
アルマエロに問い掛けられ、堅吾はそちらを向いた。
「何だ?」
「なぜ、急に操縦する気になった?」
「ん?言ったろ、別に嫌だった訳じゃない」
「しかし、私達の象徴になる事を躊躇った。アレを操縦する、という事は、それを引き受ける、という事。貴方が望まなくても、そうなる」
「そうか、そうなんだな…俺は、ただの地球人の、一高校生だ。あんた達にとって、俺のやる事にどんな意義があろうと、それは変わらない」
「ならば、なぜ?貴方には、それをやる意味が、ある?」
堅吾は前に向き直った。
「…これは、あくまで、俺個人の感情の問題だ。あんたなら、長年の苦しみから救ってくれた人に恩義を感じないか?」
「恩義…」
「いや、良い、忘れてくれ。つまらない事だ」
振り切る様に、堅吾は背を向けた。連絡艇へと歩み去る。その背中を、アルマエロは暫し黙って見詰めていたのであった。
監視衛星による第一報は、日曜日早朝にもたらされた。派遣艦隊が太陽系内に進入したのであった。
「真っ直ぐ、ここへ来るよな?」
「あの通信を盗聴しているなら。後は待つのみ」
最後の作戦会議の後、田中姉妹は偽の報告を上官に行ったのであった。内容を要約すれば、アルマエロ達は多賀上湖の湖面に艦を固定させ、輸送艦の引き揚げ作業を行っているらしい事、日曜午後には作業を終え地球を去る可能性が高い事、である。ペスロ・ゾルキスヌ・アグミナー0014が移動不可能という情報を与え、派遣艦隊をピンポイントで誘導すると同時に、威嚇のため電磁集束砲を使用するという戦術をとらせる事を促す目的であった。そして今、芦屋父子、アルマエロ達に田中姉妹は未来マテリアル研究所に集結していた。最終的な打ち合わせを済ませ、これから各自持ち場に散るのである。
「では、作戦開始の合図は私から」
ここに残る父子に向かって、連絡艇のタラップ上からアルマエロが最終確認を行う。
「ああ、待ってる」
拳を掲げてみせる堅吾。意味が判らないながらも、同様に返答するアルマエロであった。
「いよいよ本番だな」
息子の肩を1つ叩くと、力を込め掴む。
「…痛いよ。大丈夫、心配ないって」
肩を掴む右手を引き離すと、握手をした。
「頑張れよ!」
「もちろん!」
湖の方から、霧が漂い始めていた。
派遣艦隊は予想通り多賀上湖上空で静止状態に入った。これも予想通り、強襲揚陸艦は高々度を維持し、威嚇砲撃の為か、重巡洋艦のみが高度を落としてくる。射撃位置についたところで、降伏勧告の通信を入れてくるつもりであろう。しかし、堅吾達にそれを待つ気はなかった。電磁集束砲を2機、無理矢理に搭載したクロイスパイアヌⅠー0008は、降下中の重巡洋艦へ向かい上昇してゆく。湖を中心として発生した濃霧に紛れ、通常状態の機甲騎士は、射程ぎりぎりのところで背部の電磁集束砲1門を発射した。到底重巡洋艦を撃沈させられる程の出力ではないが、目的を達成するには充分であった。重巡洋艦には艦側に左右2基ずつ、前後を向いた電磁集束砲塔が配備されている。これは地上攻撃を重視しての配置であった。その冷却機関は左右各々1カ所に纏められコンパクトであるが、それは同時にそこを破壊されれば2門とも使用不可能となるという事であった。冷却機関にとって熱交換部は脆弱な部分であるが、そこを狙ったのであった。1発目は左舷に命中、火炎と放電が確認される。
『次は右舷。これで暫くは静かになる筈』
操縦席内にアルマエロの声が響く。
「了解」
短く答える堅吾。残る1門を発射すると、間もなく、重巡洋艦の電磁集束砲は砲撃準備をやめ沈黙した。
出鼻を挫かれた派遣艦隊が次に打つべき手は、当然ながら機甲騎士の投入であった。艦側左右2カ所ずつの巨大なシャッターが開放され、アームの先に3機ずつ、背中合わせに繋留された機甲騎士(田中姉妹のシミュレータで敵機となっていた)の、両脇や背部の推力偏向噴射口から噴流が迸り、切り離されるや誘導弾の如く飛翔を開始する。火器類は前腕部のマウントに留められている。
『来る。電磁集束砲分離。回収はこちらで制御する』
「任せた!」
分離された電磁集束砲2機は、降下しつつ小型の推進機を始動し離れてゆく。堅吾は、両腕の剣を抜いた。白色に淡く輝く刃が、空を一度、切り裂いた。
先発した機甲騎士小隊4機は、小隊長機を先頭にダイヤモンド編隊を組み降下中であった。上昇してくる機甲騎士を認め、光学迷彩状態になる。機甲騎士はステルス性能が高く、レーダーではまず探知出来ない。その上で視認性を著しく低下させる光学迷彩を発動されて、どうして所在を探知出来るであろうか?方法はある。答えは、大気と機体との僅かな摩擦熱、及び噴射口の発光である。宇宙空間にあってはもちろん摩擦熱は発生しない。機体内部から発生する赤外線は遮断出来るが、外部で発生するものは不可能である。堅吾は光学迷彩を発動させず、そのまま赤外線センサを頼りに見えざる敵機編隊へと急加速させた。飛行姿勢のまま腕部の火器を取り、よく見える敵機を銃撃しようと構えた小隊であったが、衝突コースから瞬間的に急降下した敵機を不意に見失う。クロイスパイアヌⅠー0008はその隙を突いた。再度急上昇し、下方からまず小隊長機を右の剣で火花を散らしつつ、正中線沿いに真っ二つにする。その後続の4番機は左の剣で袈裟斬りの状態とし、宙返りを打つと残りの左右2機の背後に回り込み追撃態勢に入る。両腕を真横に伸ばし高速の垂直回転を開始、間を擦り抜けると鮮やかな切断面を見せつつ、腰部から切断された機甲騎士は墜落していったのであった。この間5秒余り。小隊は1発も撃つ事なく全機撃墜されたのであった。恐らく何が起きたのか把握出来ていたのは堅吾のみ。撃墜された側は、ただ通信途絶の警告がスクリーンに表示された事で事態に気付いたのみである。
「”真紅の雷”…」
ペスロ・ゾルキスヌ・アグミナー0014艦橋内のコクーンで操縦席とリンクした映像を眺めていたアルマエロは、懐かしい通り名を口にした。それは、かつてその機体で戦場を正しく雷の如く疾駆した友に、帝国軍人から畏怖の念を込め送られたもの。もはや二度と見る事は無いと諦めていた神速の技を、こうして再び目に出来るとは。
「これが、強化人間の遺伝子…」
数少ない成功例の、更に数少ない素質の遺伝の一例。ミマノロは今でも生きているのだと、彼女は心に銘記したのであった。
何もしないまま1小隊を失った機甲騎士中隊は、残る8機で敵機を包囲する構えを見せた。距離を取り、上下左右から銃撃を開始する。しかし、宇宙空間や大気のない(薄い)惑星上空での戦闘経験しかない彼らは、風の影響で姿勢を安定させるのも一苦労の状態であった。その包囲網の中で弾体をあるいは避け、あるいはバックラーで受け流し、クロイスパイアヌⅠー0008は剣を振るった。上方を抑えていた機体に急接近するとこれを斬り捨て更に上昇する。僚機を失い追い縋ろうとした同小隊機達の眼前で、それは光学迷彩を発動させた。更に剣を納め推力も切る。加速を止めたクロイスパイアヌⅠー0008を、彼らは一時でも見失ってしまう。再び気付いたのは、手足の慣性により降下姿勢を整えつつ抜剣し、推力を全開にしたからであり、その時には迎撃、回避何れにしろ全ては遅きに失した。追撃のため集結しつつあった3機の中心を、中速で垂直回転しつつ一気に突き抜ける。3連発の打ち上げ花火が炸裂した様な火花が散ると、横に真っ二つにされた3機は墜落していった。最初の砲撃より10分余り、重巡洋艦は一時的とはいえ戦力から外れ、1個中隊は一個小隊にまで戦力を削られていたのであった。
堅吾の活躍を、輸送艦を中心に情報リンクを形成していた田中姉妹も見ていた。それは、到底機甲騎士の操縦席に初めて着いてより2週間余りの者の戦い方とは思えないものであった。
「…反則だわ、こんなの」
「”真紅の雷”の伝説は、本当だった?」
彼女達はミマノロと戦った事がない。彼女達が軍人となった頃には、既に消息不明となって随分な時間が経過していたからである。しかし、その記録映像や経験者の証言等には触れる機会はあった。ところが、その余りに常識外れな内容に、関係者達が己の過失等を隠蔽するため捏造したものでは、と疑っていた部分もあったのである。
『そろそろ出番』
操縦席にアルマエロの声が響く。
「了解よ」
「了解」
田中姉妹は、両手のレバーを改めて握り直した。連合の機甲騎士は、帝国のものと操縦方法は似ているが、肘掛けではなくトンファーの様な操縦桿のレバー部分に設定されたスイッチで推力偏向噴射口の向きと推力を制御する。今、2人の操縦するアエッナラ・シーリンー00011(花子)、00012(芳子)は、発進可能状態で待機している。格納庫の上部シャッターを開放し、トレーラ上に屹立する機体の背部には、堅吾も使用していた電磁集束砲が各々搭載されていた。帝国の兵器を連合機に搭載する事に関しては、難色を示す者は居たもののこの難局を乗り切るため、とアルマエロに説得される一幕があった。彼女達の目標は、敵機甲騎士ではない。といって、重巡洋艦でもない。つまり、強襲揚陸艦であった。重巡洋艦とも離れ、全機甲騎士を出撃させた艦は、今はガラ空きの筈であった。固定具が外され、両機は推力全開で宙に舞い上がった。
残るは1個小隊のみであったが、中隊長隷下の同小隊はなかなかの戦闘巧者であった。距離を取り上下左右から銃撃、というパターンは変化がないものの、1機に接近を試みると必ずもう1機が牽制に割って入り、件の機体は再び距離を取る、という事を幾度か繰り返す。狙う機体を変える様なフェイントにも、俊敏に対応してくる。そうして位置を変えつつ包囲網を崩さない敵に、クロイスパイアヌⅠー0008はまともな被弾こそ無いもののこの連携に手こずっていた。
「なかなか、やるなぁ」
少し楽しげに、堅吾は呟いた。相手は大気圏内での戦闘にも慣れてきているらしく、銃撃も隙が無くなってきている。
『こちらで何とかします!』
プリヌフの声。それから間もなく、下方を抑えていた敵機の噴射口1つが爆発するのが見えた。たちまち姿勢を崩す同機。その更に下方、光学迷彩状態の連絡艇に固定装備された22ミリ機関砲で、プリヌフが攻撃したのであった。
「グッジョブ!」
叫び、急接近すると胸部から真っ二つにする。僚機を救おうと追撃してきたもう1機を、宙返りがてら正中線沿いに真っ二つ。そうして包囲網はあっけなく崩壊した。
田中姉妹の機甲騎士は、予想通り支障なく電磁集束砲の有効射程内に強襲揚陸艦を捉える事に成功したのであった。狙いは推進機噴射口。4機のそれらを2人で破壊し、航行不能にするのが目的であった。そうなれば、攻撃手段に乏しい強襲揚陸艦では総員退艦命令が出されるであろうとの読みであった。そうなれば、重巡洋艦は搭乗員達の収容に忙殺され、戦闘どころではなくなる筈であった。
「行くわよ」
『判っている』
背部の電磁集束砲を発射状態にし、構える。頭上に突き出した砲口が一瞬閃くと、次の瞬間には2機の噴射口が爆発を起こし、停止した。艦尾方向から突然攻撃を受け、慌ただしく対空火砲を展開する強襲揚陸艦。
『効いている、大丈夫!』
砲の冷却、次弾充填の時間ももどかしく(小型化優先のため、こういった部分に課題を残していた)、再び射撃体勢に入ろうとした時。警報が操縦席中に響き渡る。
『誘導弾多数!追尾されている!』
下方から多数、誘導弾が接近中であった。電磁集束砲の放熱を追尾しているのであろう。重巡洋艦が上昇中であった。
『もう来た!離脱!』
芳子の声は珍しく焦燥している。しかし花子は。
「…大丈夫よ。貴女は誘導弾の迎撃を」
発射可能となった砲を残りの噴射口に向けつつ指示した。芳子はといえば。
『…了解』
左肩のマウントからサブマシンガンを抜き取り、誘導弾へと射撃開始したのであった。電磁集束砲が発射され、3機目が沈黙する。しかし、強襲揚陸艦からも誘導弾が発射される。
『弾切れ!』
「私のを!」
次弾準備までの間に、左肩から抜き取ったサブマシンガンを僚機へ投げる。キャッチし再び迎撃を開始する芳子であったが。
『ダメ、多すぎる!離脱!』
絶叫したところへ、強襲揚陸艦と2機の間に割って入った物があった。
『大丈夫?』
ペスロ・ゾルキスヌ・アグミナー0014は、対空火砲で誘導弾を迎撃しつつ盾となった。本来ならば、追われている張本人が出てきては不味い状況ではあるが、それを咎め立てする者は無い。
「ありがとう。射線から外れて」
砲撃準備の調った花子が指示すると、誘導弾を迎撃しつつ輸送艦は移動した。4発目は、4機目の噴射口を破壊したのであった。
プリヌフの操縦する連絡艇は、残った2機のうち1機の敵機甲騎士に追い回されていた。中隊長機はクロイスパイアヌⅠー0008と一騎打ちの最中である。よほどの場数を踏んだ人物なのであろう、なかなか決着がつかない。
「しつこい!」
堅吾達と異なり、撃墜されれば死ぬ確率の高いプリヌフは必死である。地形を利用し銃撃を巧みに躱しつつ、散発的に反撃を試みる。幸いであったのは、連絡艇は航宙士の範疇であり、手足の如く操れる事であった。ほんの10分程前、多賀下湖から浮上した輸送艦を迎撃しようとした機甲騎士に背後から攻撃を加えた結果が、この有様であった。
『大丈夫か?』
「かなり不味いです!」
堅吾の問いに泣き出しそうな声で答える。と、不意に銃撃が止んだ。あれほど執拗に追ってきた機甲騎士が、上空へ飛翔してゆくのがカメラ越しに見て取れた。
『何だ?』
『強襲揚陸艦が総員退艦命令を発令し、搭乗員を重巡洋艦が収容中。追撃の必要なし』
堅吾の問いにアルマエロの返答。
『了解だ』
「了解」
大きな安堵の溜息1つをついた後、プリヌフはひとまず未来マテリアル研究所へ進路を向けたのであった。
『敵はまだやるつもりか?』
『…いや、重巡洋艦は撤退を開始。私達の勝利』
『そうか…』
通信にも安堵の空気が滲んでいる。クロイスパイアヌⅠー0008の攻撃開始より1時間足らず。恐らくは地球人類初の宇宙戦争はこうして終結したのであった。
戦果を纏めるならば、こういう事になるであろう。クロイスパイアヌⅠー0008を操縦する芦屋堅吾は、初戦にして敵重巡洋艦1隻小破、機甲騎士9.5機撃墜。0.5はプリヌフとの共同である。放棄された強襲揚陸艦ブロイア・グロズスー0032は、噴射口以外は無傷といってよく総員退艦命令が発令されたタイミングは一見、早過ぎるとも思われるが、しかし推力を失い2門の電磁集束砲に照準されているのである。頼みの綱の機甲騎士中隊は壊滅状態と言って良く、その惨状に追い込んだクロイスパイアヌⅠー0008が戦列に加わるならば、攻撃手段の制限された重巡洋艦デロ・ペルナ・アグミナー0108とて無傷では済まず、最悪帰還不能となっていたであろう。結果的に、一連の措置判断は適切であったと言えよう。よって戦死者は0。奇跡的と言って良い。と、それはともかく。この戦闘の影響は、静かに、しかし大きく、地球、帝国、そして連合のそれぞれに波紋を広げてゆく事となる。
霧のなか、大型のトラックが路肩に停まっていた。荷台から、巨大なブルーシートが垂れ下がっている。未だ不発弾処理による住民避難の指示は解除されておらず、普段ならば途切れる事のない車の列は見られない。と、やがて聞こえてきたヘリのローター音は、そのトラック上空で停止した。大型ヘリの下方には、何か巨人の上半身の様な物が吊り下げられている。それはトラックの荷台に横たえられると切り離され、ヘリは去っていった。トラック周辺で人目をはばかる様に待機していた作業服姿の男達はそれをブルーシートで覆うと、ロープで荷台に固定し走り去っていったのであった。
その日の夕方。堅吾は馴染みのスーパーに来ていた。とはいえいつもの通り1人、という訳ではない。
「うわぁ、色々とある!」
生鮮食品売り場の鮮やかな色彩に目を見張らせつつ、プリヌフは先頭切って通路を歩いていた。
「はしゃぐな。変に思われるぞ」
苦笑しつつ、優しく窘める堅吾。彼の押すカートの中には和牛のステーキ用ロース肉やマグロの刺身盛り合わせなど、いつもより遙かに豪勢な食材が入っている。これから自宅でささやかな戦勝パーティーであった。敵の撤退を見届けた後、アルマエロは地上へ降りプリヌフを拾うとクロイスパイアヌⅠー0008を載せたトレーラごと収容し、外部アームで強襲揚陸艦と輸送艦を接続、ひとまず月の裏側へと曳航していった。そして、ほんの2時間程前まで強襲揚陸艦の応急修理をしていたのであった。4機の噴射口のうち2機は本格的修理が必要、という事が判り、作業を切り上げ戻ってきたのである。では、田中姉妹は、といえば。
『共同作戦は終了。元の関係に戻る』
『そういう、事だから』
フリゲート艦に機甲騎士を戻し、電磁集束砲を分離した(分離したそれは湖底の輸送艦へと帰還した)田中姉妹は、堅吾からの通信による労りの言葉と戦勝パーティーへの誘いに対し、こう答えたのであった。
「そうかい…ところで、これで終わりだと思うか?」
何気ない問いに、暫しの沈黙ののち。
『…そうは。行かないでしょうね』
『今度は、もっと手強い者達が派遣されてくる。執政の正式な命令で。近衛軍か私兵団…余り、考えたくない』
2人の声は暗い。
「その時は、またこうやって一緒に戦うか?」
『それは避けたいわ。こんな事が司令部に露見したら、懲罰対象になるから』
「そんな事言って、今回はアルマエロ達を戦いに引き込もうとしてたろ?挑発したりして」
『それは…それは、認める。しかし、次もそうとは限らない…』
芳子の答えは、歯切れが悪い。
『今回の一件で、きっと司令部も増援なり何なり考えてくれるわ』
花子の声には、希望的観測というより切望の響きがあった。
「でも、いずれにしろあんたらは逃げる訳にはいかない、そうだろ?」
『『…』』
2人の渋い表情が、見えた気がした堅吾であった。
精算を済ませるとレジ袋に商品を詰め込むのをプリヌフに任せ、2人はスーパーを後にしたのであった。荷物を持ったプリヌフを先頭に道を歩いていると、未だ若い男の声に呼び止められた。
「おい、てめぇ!」
声のした方へと首を巡らせれば、どこかで見た様な3人組であった。汚い茶髪男に日焼けしたイヤリング男。後は、特徴のない優男。コンビニの駐車場で屯していた彼らは、立ち上がり拳を固めている。
「?…ああ」
思わず両手をポン、と叩きたくなる。1ヶ月近く前、堅吾をボコボコにした不良達であったのを、奇跡的に覚えていたのであった。
「てめぇ!てめぇのせいで、右手が暫く痛かったんだぞ!慰謝料払え!」
何ともお粗末な知能指数の知れる茶髪男の発言に、それは殴った方が悪い、とは言わず、堅吾は3人を見据える。
「彼らは何?」
不快感を隠しもせず、プリヌフが訊ねてくる。
「以前、ちょっとな」
「どうなんだ、ああ!」
歩み寄ろうとしていた不良達へ、自ら歩み寄ってゆく堅吾。
「まぁまぁ、あんたらが俺にしたのと相殺って事で、どうだ?」
「ふざけんな!」
茶髪男が右拳を引くのに合わせ堅吾は左足を外に踏み出し、殴り掛かってくると同時に体をずらすと、体重の乗った右膝の裏側を右の踵で蹴った。膝カックンの状態で前に倒れ込む茶髪男。それを見て、特徴無し男が背後に回り込む。
「謝るんなら今のうちだぞ!」
日焼けイヤリング男がファイティングポーズを取るや、特徴無し男は背後から組み付こうとした。しかし堅吾の姿は眼前から消え、背後に回り込まれていた。背中を押され、立ち上がりかけていた茶髪男と頭突き合いとなり、両者ノックアウト。
「てめぇ、もう許さねぇ!」
「おいおい、自爆なんだぞ?」
わざとらしく肩を竦めてみせる堅吾に、キレた日焼けイヤリング男はジーパンのポケットから折り畳みナイフを取り出した。
「良いのか、そんな物持ち出して」
一転、凄味のある声になる堅吾。それは、相手を慮っての警告であった。日焼けイヤリング男は一瞬怯んだが。
「くそっ、死ねっ!」
右手にナイフを構え突っ掛かってくる。擦れ違いざま足でも引っ掛けてやろうと、堅吾が体勢を整えかける。しかし、それを止めたのはプリヌフであった。
「不埒者!」
テレビで得た知識を披露しつつ堅吾の前に出ると、日焼けイヤリング男の右腕を取り合気道の様に投げたのであった。
「いっ!」
アスファルトに強か背中を打ち付け、息を詰まらせる。
「やるねぇ!」
傍らのレジ袋を取り上げ、堅吾は逃げ出した。
「あっ、持ちます!」
慌ててプリヌフもこれに続く。家まで走りながら、堅吾はうっすらと涙を浮かべていたのであった。




