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プロローグ ~脱出~

私なりのカッコいいロボットものを目指しました。楽しんで頂ければ幸いです。

プロローグ

 そこは銀河系の一隅であった。最近距離の恒星系まで数光年はある様な、寂しい宙域。そこで今、大変に小規模な戦闘が終結しようとしていた。いや、実際にそれを戦闘とは呼べまい。帝国皇族タナニミア公私兵団所属のフリゲート艦2隻に護衛された同所属の小型輸送艦ペスロ・ゾルキスヌ・アグミナー0014は、空間跳躍離脱後間もなく、所属不明の帝国型重巡洋艦2隻から襲撃を受けたのだ。完全な奇襲であった。戦力差は絶望的といえた。これが逆の立場であったなら、あるいは勝機はあったかも知れないが。重巡洋艦の中出力電磁集束砲連装砲塔が旋回し、2連射ほど威嚇射撃を行うと、フリゲート艦は逃走を図った、輸送艦を後に残し。到底勝ち目のない戦いをする気も、足の遅い輸送艦を律儀に護って全滅する気もない、という事なのであろう。相手は用意周到に待ち伏せていたのだ、自分達の空間跳躍離脱地点もそのタイミングも完全に把握した上で。宇宙空間での艦隊同士の邂逅など、小数点以下幾つ0が並ぶか判らないほどの低確率なのであるから。相手はまだ戦力を隠している事さえ想定出来たのである。

 新たに空間跳躍してきた旧型の商船に乗船していた完全武装の歩兵によるエスコートで、輸送艦の殆どの搭乗員が商船に移され、いずこかへまた跳躍した。輸送艦に残されたのは、積み荷と1人の女性。

<アルマエロ一等技官。輸送艦は完全に掌握しました。救出が遅くなりまして申し訳ございません>

頑丈そうな自動扉が開くなり、その20代と思しきスレンダーな体型の女性軍人は、フランス語と中国語をミックスした様な語感の言葉を発したのであった。より正確に言えば、彼女の身分は元軍人であるが。彼女の身につけた明るい青色の軍服は、解散させられた皇太子私兵団の物であった。軍帽の下からは纏めた栗色の髪が覗く。

<いや、よく来てくれた。大した戦力だが、帝国防衛軍に接収された物か?>

体育館程度はありそうな空間に1人、ぽつりと立ち尽くし壁際に固定されたコンテナ類を見回していた、こちらも20代であろうグラマラスな作業服姿の金髪の女性が、振り返りそう言った。そこは貨物室であった。

<はい、軍内の協力者を通じて借用しました。執政も気付かないでしょう>

元軍人の整った顔を一瞬、嘲笑がよぎる。一矢報いた、とでも言いたげに。

<そうか…ところで、これからどうするのだ?>

元軍人の元へ歩み寄りつつ、そう訊ねる。

<現状、帝国、連合、いずれの領内にも我らの居場所はありません。重巡洋艦は間もなく帰投し、我ら2人はこの宙域を離脱します>

<行く当てはあるのか?>

<ある筋から、ミマノロ一等操士の消息情報を入手しました。我らが発見出来なかったのも致し方ない程の遠い恒星系に居ると>

<そうか、生きていたか…我らもそこへ?>

<はい。30回近くの空間跳躍が必要となりますが>

<なるほど、遠いのだな>

遠い目付きになる。それは、消息不明となっていた同僚であり親友であった女性との、距離と時間の隔たりに思いを馳せてのものであったろう。

<早く再会したいものです。その惑星で必要と思われる機械類も、搬入を済ませております>

元軍人が相好を崩す。

<行く人員は?>

<私と貴女のみです。操艦はお任せ下さい。既に航路情報は入力済みです>

<そうか。それでは、私は機関のチェックを手伝わせて貰うとしよう>

<お手数をお掛けします>

胸に右手の拳を当てる様な敬礼をし、元軍人は出て行った。貨物室内をもう一度見渡し、アルマエロも後にする。

 最後の核融合炉を目視とコンソールの各種表示でチェックし、正常を確認するとアルマエロはコンソール上に艦橋との通信ウィンドウを開いた。元軍人のバストショットが表示される。

<空間跳躍機関、核融合炉共に問題なし。推進機はどう?>

<問題ありません。艦橋に上がって下さい>

<そうする。ああ、その前に、貴女の名前を訊ねて良いか?>

<プリヌフ二等航宙士ですが。プルで結構です>

<プル、プルね?では私もアルムでお願い>

<了解しました、アルム>

画面越しに、2人は笑いあった。それから暫くの後、輸送艦は淡い紫電とプラズマ光を残し空間跳躍に入ったのであった。


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