坂田探偵社の朝
今回の話では事件は起こりません。
ここは探偵社。のはずなのだが。
何やら部屋の真ん中で毛布にくるまり蠢いているものがある。
「働きたくない俺が働いてもなんのやくにもたたない俺なんかいないほうがいいんじゃないかうんきっとそうだ社長もそう思ってるに違いない」
そういいつつ毛布は蠢く。そのとなりでは五十にはなろうかというダンディな男性が毛布を励ましている。
「黒田くん落ち着くんだ。僕はそんなこと望んじゃいない。黒田くんがいない探偵社なんてメンマのないラーメンみたいなものだからね。」
はたしてその例えが的確なのかはさておき。
朝のいつもの探偵社がそこにはあった。
ここは鷺野町坂田探偵社。二階、黒田の使う部屋である。黒田は重度のうつのため、薬が切れるとすぐこうなってしまう。そこへドアを開けて入ってきたのは
「やっと来てくれたね赤坂くん。」
赤坂。同じ階の隣に住む完璧主義者だ。
「坂田社長、今日はなぜこんなに早く…?」
「いや昨日の夜に黒田くんを見た時にもう少し薬が切れ始めていたからね。また彼の腕に傷を増やされても困るからさ。」
そう言っている間にも黒田は近くにあったカッターを手に取る。
「おいおい東くん。薬が足らないからって自分を傷つけちゃだめだと何回言ったらわかるんだい?」
「赤坂さんだっていつも薬作らされてめんどくさいなとか思ってるんでしょ俺がいるから薬代ばかにならないって前言ってましたもんねいない方がこの探偵社もうまく回って赤坂さんからもお金が飛んでいかないんだ」
黒田がそう言っている間に赤坂は薬を調合していた。そう、1グラムの狂いもなく。
「ふう…完璧だ。東くん。これを飲んでまた今日も仕事を頑張ろうね。」
「うっうっ…俺なんかがいていいんですか?ほんとにいいんですか?頑張ります!今日も俺は仕事を頑張ります!」
こうして彼らは今日も仕事に向かっていく。
彼らは坂田探偵社。迷い猫探しから裏の業務まで全て承る、有能探偵である。
というわけで坂田探偵社の朝の話でした。
ちゃんと赤坂は薬剤師の資格を持っています。調合している薬が合法かは別として…。
赤坂の下の名前は貴仲です。