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「この間のひったくり、近所に住んでたらしい」
「えっ」
凝視していたことを咎められるという事態にはならなかったものの、思いもよらない話をされて心臓が嫌に高鳴る。
立ち止まった拍子に、提げていた紙袋が欄干にぶつかって小さな音をたてた。
「……ひったくりって、あの?」
「ああ。お前が追いかけて、捕まえた奴」
「近所に住んでたなんて、誰に聞いたんだよ」
「生徒会長。被害にあった女の人が、会長の姉だったんだ」
ハルの静かな声に、二週間ほど前の出来事が甦る。
あの人が、うちの会長さんの?
確かに似ていなくもなかったような……。
あれは日曜日。
今日のようにハルと出かけた帰りのことだ。
店の外へ出ると雨が降っていて、傘を忘れた俺たちは入り口で立ち往生していた。
『笹ちゃんにでも傘を借りて帰ろう』
俺が言った直後。
近くで女性の悲鳴が聞こえて、目の前を一人、男が走り抜けていった。
来た方を振り返れば、踞って叫ぶ茶髪のお姉さん。
『誰か捕まえてっ!!』
強い声に弾かれて、俺は状況も把握しないまま、咄嗟に男を追いかけた。