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「千里。水」
「ハル?」
声のした方へ顔を向ければ、起きたばかりらしい我が兄が、仏頂面で俺をガン見していた。
あれ?
デジャヴ?
昨日の鴨井の、狂気に満ちた目に近い。
「えっと、おはよー?」
「水止めろ。顔も拭け。床に滴が垂れてんぞ」
「あ、ああっ! 忘れてた!」
慌てて水を止め、投げて寄越されたタオルで顔を拭く。
「ボーッとしてんなよ」
最悪な寝起き面のまま洗面所に入ってきた兄、こと八木春一は、俺を追い出して顔を洗い始めた。
背も高くて大人っぽいけれど、歳はひとつしか違わない。
凛とした目元。高い鼻。
男らしい背中。
父親似のハルと、母親似の俺。
似てない兄弟の唯一の共通点である、真っ直ぐなネコ毛を、何となく見つめてみる。
ちょっと伸びてきた?
長い前髪は目に悪いのに。
そーいや、時々いるよな。
目が隠れるほど伸ばしてる奴。
「………………」
……ダメだ。
鴨井を思い出した。