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第一話
受難の始まり
『君になら、殺されてもかまわない』
『ヒロ……』
液晶画面の中で爽やかなイケメン俳優と髪の長い美人女優が熱い口づけを交わす。
絶妙なタイミングで主題歌が流れ、エンドロール。
「イヤー!! もう最高っ! ヒロ様かっこいい!! 一度でいいから言われてみたいわ!」
母さん俺、言われましたよ。
「…………はぁ」
「あら溜め息? ダメよ千里。幸せが逃げちゃうでしょ」
「いいよもう。既に半分逃げてるから」
四十代目前とは思えない童顔が、きょとんとした表情をつくる。
フリルの付いたエプロン。
ウサギのぬいぐるみを抱き締めて女の子座りで微笑むこの人は、俺、八木千里の母である。
「もう、千里ったら変なこと言うのね。こんなに素敵な朝なのに」
よく晴れた土曜日の朝。
朝食後のDVD鑑賞を楽しむ母を放置し、俺はフラフラと洗面所へ向かった。