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「ええっと、鴨井さん?」
「できればユラで」
「鴨井さん。あの、悪いけど、どこで会ったかも思い出せないんだよ」
「ホントに?」
「ホントに」
項垂れた鴨井の肩から、学生カバンが滑り落ちる。
ここまであからさまに落ち込むってことは、本当に会ったことあるんだな。
まずい。
思い出せない。
結構インパクトあるのに。
「とにかく俺、帰宅中なんで。物騒な冗談には付き合いきれません」
「冗談って?」
「冗談でしょう? いきなり殺してくれ、だなんて」
鴨井由良の体がふらりと揺れ、前髪に隠れていた右目が僅かに見える。
数秒後、眠そうに伏せられていたそれが、カッと開いた。
「チサトくんのことが好きだ。だから、ぜひ殺して欲しい」
「………………」
何を言い出すのこの人は。
目、怖いし。