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プロローグ
「どうか僕を殺してください」
「……はっ?」
平日の午後。
学校の授業を終え、茜色に染まる住宅街を歩いていた俺の前に突然、見知らぬ男が現れた。
沈みかけの日を背にした痩身のその男は、アスファルトに不気味な影を落として突っ立ったまま、どこか遠くの方でも見るようにぼんやりと顔を上向かせている。
鼻の辺りまで伸びた寝癖だらけの黒髪。
薄い唇と細い顎。
俺の平和な日常に似つかわしくない異質さ。
それに面食らい、鈍った頭が咄嗟に見知らぬ男だと認識した。
「ほら、煮るなり焼くなり刺すなり絞めるなり」
「警察呼ぶぞ」
「警察? 何故。不審者でも見つけたの?」
「お前だよ」
俺よりだいぶ高い位置にある頭がコテンと傾げられる。
「僕? 尚更どーして?」
あ、ダメだコイツ。
話が通じない。