幽刻町-怪奇黙示録-
久々に短編が書けました、超展開などが多々見られる描写があるためご注意を…もしよろしければ最後まで御覧になっていただけますと幸いです(汗)
此処は幽刻町、人口総数666名という田舎の比較的小さな町。
だがしかし、この幽刻町には『平和』の二文字は存在しない…と言っても、犯罪多発地域でもなければ環境汚染が酷い所でもない、むしろ最近の都会よりも治安は安全な方だ。
では何故此処が平和とかけ離れた町なのか?それは遥かな昔より呪われた『いわくつきの土地』だからである。
その昔、戦国時代の頃にあったこの土地には強力な霊能力者が封印したという魑魅魍魎が住まう地獄へ続くとされる道があったが、当時この地を治めてた領主が戦乱の世に打って出るため、何をトチ狂ったか?霊能力者が施した封印を解き、魑魅魍魎共を従わせて戦の道具にしようとした…が、当然ながら魑魅魍魎共は恩を仇で返すかの様に領主を犯してアッー!な事をやらかし、殺して、もう一回犯してアッー!な事をやらかし、人間の世界に這い出ては好き放題に暴れまくったという…。
肝心の霊能力者はというと当然ながら再封印に向かったものの健闘虚しく、魑魅魍魎達との戦いに敗れてこの世を去り、そのまま彼らの再封印も出来ないまま時は流れ、現代…。
幽刻町・商店街、パン屋『麦の市』。
「行ってきます。」
「「気をつけるんだよ〜。」」
外国人でもそうそう居ないくらい派手な癖毛混じりの金髪ロングヘアーにヤクザも逃げ出すくらい険しく恐ろしい顔つきをしてる如何にも『現代を生きる』を青春のテーマにしたような制服姿の女子高生・四日市結は見送りをする両親の声をバックに、自営業パン屋兼自宅から出て行く。
「この商店街も随分静かになったな〜。」
結は朝食代わりに母親から貰った自家製商品のトマトマヨネーズパン(95円)を食べ、周囲をキョロキョロ見渡しながら歩いていく…。
小さな田舎町とはいえ、人口666人も居れば誰かしらに遭遇するだろうが、現在この商店街を練り歩いてる人間は今のところ結だけであり、周りに人気などほぼ皆無…まるで彼女以外、誰もいない寂れたゴーストタウンみたいに。
『ブヒヒーン!!』
「…早速おでましか。」
一陣の風が吹くと同時に豚と馬を掛け合わせた様な奇妙な鳴き声が聞こえ、結は身構える。
『ブヒヒパオーン!』
豚と馬に加えて何故か象の要素まで加わった鳴き声を放つのは明らかにこの世の生物ではない『異形のモノ』だった…額から一本の長い角、頭部から背中にかけて赤いタテガミが生え、全身が鱗でビッシリ覆われた爬虫類と馬の合いの子の様な化け物…麒麟である。
「来いやァー!!バケモン!!」
『人ヲ見タ目デ判断スルナンテ悲シイヨ!!』
「それ以前に人じゃねーだろ!馬面がァー!!」
結は鞄から草刈り用の鎌を取り出して挑発したが、麒麟はというとニヤニヤ顔で彼女の差別発言を悲しむが、結の神経をかえって逆撫でただけだった。
「ビールの会社へ帰れ!!」
『オ酒ハ二十歳カラダヨ!』
結は善悪の区別が全然つかない未成年特有の残酷性の赴くままに麒麟目掛けて虎の様に飛び掛かり、草刈り鎌を麒麟の左目に突き立てて潰した上に、首筋の頸動脈を思い切り掻き切った。
『…。』
「ハア…ハア…ったく、今週に入ってからもう六匹目だよ、コイツ。」
血の噴水を噴き上げながら地面に倒れ、ピクピクと痙攣を起こし、周囲を汚い赤で染め上げて息を引き取った麒麟との唐突なバトルに勝利した結だが、実は麒麟をはじめとした異形と戦うのはこれが初めてではなかった。麒麟だけで既に六匹も仕留めているのだ…幽刻町の住人達曰く麒麟はスライムの如く頻繁に出て来る怪物らしく、中国では神聖な生き物とされてるが実物は神聖さのカケラも無いケダモノに過ぎない、だから殺す事にはなんら躊躇いすらない。
そう…この幽刻町は大昔に馬鹿やった領主のせいで現代でもこういった化け物が毎日当たり前の様にウジャウジャ沸き出たり、怪奇現象が度々起きる恐怖の化け物横町と化しており、人口666人だった町も化け物達の犠牲により死者540名・行方不明者54名・入院患者は肉体的ならびに精神的な者も合わせて23名、今やまともに暮らしている人間は結と彼女の家族も含めてたったの49人と大幅に激減してしまったのだ。商店街にほとんど人間の姿が見られないのもそのためである。
だが人間もやられっ放しでいられない、『こんな奴らに舐められてたまるか!』と言わんばかりに彼らは凶器を持ち寄っては片っ端からブチ殺す。度々現れては人間に襲ってくるうようなゲテモノ共にもはや耐える必要など無い。
人々は毎日毎日サバイバルバトルに明け暮れている…結もそんな対抗する側の人間の一人なのだ。
「しっかし、こんな非常時なのに学校行く意味あるのか?まあ一応校長が特別に卒業だけはさせると言ってた…しッ!!」
『『『ブシッ!!』』』
町の人間が激減してるため必然的に学校に行く生徒や教職員達も少なくなっている。だが今のところ生き延びてはいるが私用で学校にほとんど不在な校長の権限で学校に毎日行けばどんな成績不振者・素行不良者だろうが無条件で卒業させてくれるらしい…大学に行くか、そのまま就職するかはともかく、高校だけはなんとかまともに卒業したい結はいつの間にか自分の周囲をフヨフヨと漂う半透明な金魚の幽霊(全てデメキン)をハエ叩きで叩き落としながら渋々、今日も学校を目指す…。
町立幽刻高等学校・3-1組教室。
「あっはっは、笑っちゃうくらい人いねーッスわ、マジで。」
この教室には無事登校出来た結以外誰もいなかった。だがしかし、これは三年生はおろか他の学年の教室も同じこと、風邪ひいたとか集団ボイコットとかでも無い…教室がガラガラなのはそれだけ多くの死者が出たということだ。
「あ、むーちゃん…おはよう。」
「なーちゃん、おはよー…今日もお互い生き延びれたね」
ここで結のクラスに入って来たのはアホ毛が一本可愛らしく生えた菫色のショートヘアの髪に眼鏡をかけ、顔つきが険しい結とは対照的に年頃の可愛らしい女子高生・長柄棗、結以外で唯一のクラスの生き残りの生徒であると共に小学生から現在まで長い付き合いをしている友人でもある少女だ。
「見なよコレ、鏡見たらまーた顔が一段とヤバイ事になっててさぁ〜…ホラ、化け物共とバトッてると必然的とブチ切れちゃうから…ねぇ!!」
『黒ッ!!』
「確かに…昔に比べるとここ最近のむーちゃんは顔が怪物さん達みたい…にッ!!」
『水玉ッ!?』
「それ言い過ぎじゃね!?」
『マナ板ッ!!』
「ご、ごめんなさい〜!!」
『オッパイ!オッパイ!』
結は日に日に険しくなる自身の顔つきが悩みであり、そのことに関して棗によく相談したりなど、彼女と顔を合わす度によくこんな感じの日常会話しており、学校での二人の様子は案外普通だった…自分達のスカートを下から覗こうとしていた長くてヌメヌメした首を伸ばす鰻男や胸をジーッと凝視してくる炎に包まれた生首の妖怪・釣瓶落としを撃退してる以外は…。
『ハァイ!オ二人サン、オハヨーゴザイマース!!イヒヒヒヒー!!』
『ミギャー!!』
「きゃっ!?お、おはようございます…先生。」
「出たな、クソ先公。」
突如、教室に乱入しようとした上半身が人間で下半身が馬になってる怪物・ケンタウロス…の、首を目にも留まらぬ速さで撥ね飛ばし、鮮血のシャワーを教室内に撒き散らし、テンションの高い笑い声を上げながら現れたのは蟷螂の様な姿に六本の鎌状になった腕を持つスーツを着込んだ人型の化け物…否、3-1組の臨時教師(担当教科は日本史)である英国紳士・ジャックが現れる。
なんで化け物が臨時教師なんぞしてるかというと御覧の通り、現在の幽刻高校は多くの生徒や教職員が犠牲になったため、深刻な人手不足に陥ってしまっている。
『これはアカン』と思った校長は何を血迷ったか、海外から招き入れた化け物…しかもその昔、イギリス全土を震撼させた犯罪史上最悪、伝説の連続殺人鬼『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』として有名なジャックの逃亡の手引きを条件に彼を日給二百円という酷い労働条件で働かせているのだ。
『サテ、一時間目ハ現代国語ダヨ!教科書出シテ…ッテ、ソウダッタ!ボクチャン日本語読メナインダッタ!トイウ訳デ、自習!ア…「バイバーイ」、ト、「ウホホーイ」ッテ、語感ガ似テイルネッ。』
((少しも似てない!!))
ジャックは授業をするか…と、思いきや、日本に来て日が浅いイギリス人故に日本語が読めないことを理由に授業を放棄、意味不明な捨て台詞を吐きながら窓から飛び去って行った…彼は何かと理由をつけて授業をよくサボタージュして悪癖があるのだ。とんだ給料泥棒である。
「あの虫頭、相変わらず訳解んねー野郎だぜ。」
「私達が言えた義理じゃないけど何しに来たんだろう…。」
「しゃーない…図書室でヒマ潰しに行こうよ、なーちゃん。」
「うん、むーちゃん。」
授業サボタージュを行ったジャックに置き去りにされた結と棗は仕方なく自習時間と称して図書室で適当に本を漁りに行った。
幽刻高校・図書室。
『ヤア、コンニチワ!』
『僕達ヲ読ンデ!』
『折リ目ヲ付ケチャ駄目ダヨ!!』
やはりというか、図書室はクリーチャーの巣窟と化していた。本棚から次々と様々な本が飛び出し、本のページが開かれるとそこから半透明な身体がニュルリと生え、アチコチをペタペタと妙に生々しい足音を立てながら走り回っている。
「なんだ?テメーらは…あぁ!?」
『『『ドウモ、ポルターガイストデス。』』』
「名前なんかどーでもいいんだよ!!何ガンくれてんだ!コラァッ!!」
『『『ピギャアッ!!?』』』
イライラした様子で結は本の化け物…ポルターガイストにメンチを切り、鉄パイプを振るってのバイオレンスに走った。
「あのー…図書室はお静かにー。」
『ネエネエ、保険体育ノオ勉強シヨウヨ。』
『『『異性不純行為、万歳ッ!!』』』
「きゃあー!!?変態ーッ!!」
『『『プゲラッパッ!?』』』
暴力的な結と違い、棗は平和的に解決をしようとポルターガイストに注意を呼びかけたが、彼女の大人しさに付け込み、エロ本に憑依したポルターガイスト達が棗にセクハラをするという暴挙に出たが天罰覿面…図書室に常備されていたパイプ椅子で全員薙ぎ払われてしまった。
「ったく、学校でゆっくり読書することすら許さねーってか!?この有害図書がッ!!」
『ヒイイイイ!!タスケテクダサイ!タスケテクダサイ!僕ノ顔ヲペンペンシナイデクダサイ!!』
図書室での読書時間まで邪魔されてしまい不機嫌パワー全開な結が鬼の様な恐ろしい形相でポルターガイストの胸倉を掴み、怒りとテンションに身を任せてガシガシ殴りつけ、ついでにジャイアントスイングもかまそうとしていた時だった。
「…ッ!!大変!むーちゃん!アレ見て!!」
「ああん?どーした?なーちゃん…って、オイオイ!シャレんなんねーぞ!?なんだアレはッ!!」
『トチギッ!!』
慌てた様子の棗に声を掛けられたため結は中途半端なジャイアントスイングでポルターガイストを投げ捨て、何事かと窓から外の光景を見ると…
『『『エオッ…エォアアアアアアアアア!!』』』
『『『エェエエエ…エェエエエエエエエッ!!』』』
大地を裂く様に勢い良く地上から這い出てきた龍の頭と芋虫の様にウネウネした太く短い身体に複数のモゴモゴ動く虫の脚を生やしてるという怖気が走る様な外見をした巨大な怪物・ドラゴンの群れが校庭で大勢蠢めいていたのだ。
「ヤベーぞ!なーちゃん!あいつら相手じゃアタシらでも勝てるかどうか…!!」
「それにあの数じゃ…!!」
結と棗は戦慄した。幽刻町の人間はありとあらゆる化け物達に殺されたが、その人間を最も多く虐殺した化け物こそがドラゴンなのである…が、大型の化け物なれど一匹・二匹程度ならば結と棗でも倒せるが、流石に相手がこれだけ多いと勝ち目はほぼ無い、どう足掻いても絶望的戦況であるのは明白だった。
「だけど、やるしか…ねぇんだよォ!!ガァアアアアアアアアア!!」
結は最初から逃げも隠れもするつもりなどノミの毛程も無い、むしろ全てのドラゴンを駆逐するつもり満々だったのだ。獅子の如き勇ましい咆哮を上げて三階の図書室の窓から外へとダイブした。
「むーちゃん…そうだよね、私だけ弱気じゃ…ダメだよねッ!!やぁあああああああああああ!!」
大人しい棗も結の勇気という名の途方も無い無謀に突き動かされたかのように意を決して結の後に続いて窓からダイブした。
「しゃーっ!!コラァッ!オラァアアアアアアアアアアア!!」
『エギャアアアアアアア!?グゥウウウウ…!!』
「ファックッ!!やっぱ、デカブツ相手に一撃じゃ無理かッ!!
結は地面に着地したと同時に地面を蹴って宙を高らかに舞い、一番近場の、尚且つ、自分と目が合ったドラゴン目掛けて顔面パンチをブチかましたが、ドラゴンはというと吹き飛ばされそうになったものの地面に脚を力強く突き刺して踏ん張り、堪え切ってしまったのだ。
「はぁあああああああああッ!!てやぁあああああああ!!」
『エフンッ!!』
「キャアッ!?」
棗は自分が今、スカートであることすら気にせずに水玉模様のおパンツ様を豪快にパンモロさせながらの回し蹴りをするものの、ドラゴンは自身の太い胴体を振り回して棗を弾き飛ばしてしまったのだ。
「あうっ…うう…痛い、痛いよぉ…」
「なーちゃん!?ッの野郎ッ!!よくも…ッ!?」
『『『エォアアアアアアアアア!!』』』
「ぐばぁッ!!?」
地面を何回かバウンドして、地に伏して涙をボロボロ流す棗の…最愛の友人の姿を目の当たりにして怒りを燃やす結だが、棗に気を取られ過ぎて、トラックの様に疾走してくるドラゴンに気づかずに結はそのまま激突され、その勢いでバトル漫画で主人公にやられた敵キャラさながらに校舎の壁に減り込む。
「ゴブゥッ…ガハッ…こ、の…クソ虫ケラ、がァッ…に…人間様を…うぐっ…ナメ、んじゃ…!!」
『『『エォッ!オェ…エアアアアアアアアア!!』』』
口から赤い汚物を吐き出し、明後日の方向を向いた右腕と左脚、脳に直接響く様な頭部の激痛に苦しみつつも何とか立ち上がろうとする結だったが、目の前にいるドラゴン達はというと、自身の口を大きく開ける。すると喉の奥から赤く禍々しい光が発せられたと同時に熱く燃え盛る熔岩の塊を砲弾の如く発射した。
「いや…いやぁああああああああああ!!むーちゃん!!逃げてェエエエエエエ!!」
棗は結に逃げる様に泣き叫んだものの、肝心の結本人は痛みのあまりバランスを崩して倒れ、身動きすら取れず、逃げることが出来なかった…。
(…ああ、アタシ…これから死ぬんだな…ここまで一緒に生き残った友達を…ひとりぼっち、に…して…。)
最後まで抗い続け、遂に最期を迎えようとしていた結は朦朧としていく意識の中、不思議と死への恐怖は感じなかった…死ぬ事がこんなアッサリしたもので、いざ、自分がそういう運命なのだと悟ると案外平気だとは思いもしなかったが、ただ一つの心残りは棗を置いて自分だけが逝ってしまうことだった…。
ドラゴンが放った熔岩弾が結に迫りつつあり、薄れゆく意識の中、結が見たもの…それは…。
「ぶるぁあああああああああああああああああああああああああああああああああァアアアアアアアアアアアッ!!」
謎の絶叫と共に現れた一人の男の光速のスピードで放たれた拳で熔岩弾が全て粉々に砕け散るという信じられない光景だった。
「私が不在の間、我が学舎をよくぞ守ってくれた。感謝するぞ…!!」
結の絶体絶命の危機を救ったのは白銀の髪をオールバックにし、顔にはサングラス、彫りの深い濃い…渋い顔立ちに少々厚めの唇、浅焼けた素肌、耳にはピンクのハートのピアス、首にはオレンジのハートのネクタイピンを付けたネクタイを巻いた黒いスーツ姿の、ただならぬ闘気を全身から漂わせる壮年の男であり、男は虫の息の結に対し、礼を言った。
「へ…来、るの…が…お…遅過ぎるんだよ…馬鹿…校、長…」
「校長…先生…校長先生ッ!!」
「もう無理に喋るでない、今は暫し休め…我が愛しの生徒諸君よ…後は私に任せェエエエエエエェーいッ!!」
この男の名は伴川檻乃、幽刻高校の校長であると同時に幽刻町が誇る人類にして人類を越えた究極の『最終兵鬼』…最凶プレジデント、伴川檻乃であるッ!!
「長柄よ、四日市を今すぐ病院へ運べ…ヤツの生命力ならばまだ助かるハズだ。」
「は…はい!!」
伴川は蓄積したダメージで完全に意識がブラックアウトした結を棗に渡し、二人を避難させると、おもむろに自分の服に手をかけ…。
「ぶるぁあああああああああああ!!」
『『『エォアアアアアアアアア!!?』』』
威勢良く引き千切り、今年で四十代半ばの男とは到底思えぬ程、逞しく鍛え上げられたマッシヴなセクシーボディをドラゴン達に見せつけ、奴らに強烈な威圧感を与えた。
「さあ、私に先に殺されたいのは…どいつだァアアアアアアアアアアア!?」
『エギラォアアアアアアアア!!』
伴川の気迫に圧され、衝動的に群れの中から飛び出したドラゴンの内の一匹が伴川の背後から突進してくる、が…。
「んん〜…ぶるァッ!!」
『。』
伴川は後ろを振り向くことすらせずに裏拳を豪快に放つ…すると、どういうことだろうか?彼の裏拳の拳圧だけでドラゴンの頭部が『パァンッ!!』と風船が破裂したような音を立てたかと思うと、血飛沫と一緒にグチャグチャになった脳漿を飛散させ、しばらくピクピク痙攣した後…そのまま二度と動かなくなった。
『『『エォアアアアアアアアア!!』』』
仲間を殺された怒りに駆られたドラゴン達は今度は一斉に四方八方から飛び掛かり、口を開けながら、並ぶ細かいノコギリに似たギザギザの歯で伴川を喰い殺さんばかりの勢いで迫る。
「んぬぬぬぅうううう〜ッ…ぶるォアアアアアアアア!!」
『『『。』』』
しかし、伴川が気合いを込め、目にも留まらぬ速さで繰り出した手刀と共に放たれた真空の刃が全包囲から迫り来るドラゴン達は全て真っ二つにされた。この明らかに人間をやめたような技を食らったドラゴン達は哀れ…腸や臓腑を撒き散らしながら落下し、赤い湖に不法投棄された大量の生ゴミと化した。
『オッ!派手ニ殺ッテマスネェ!校長先生、私仕込ミノ技、早速使ッテ頂キマシテ光栄!光栄ノ極ミ…ハムッ!ハフハフッ…ハフッ!!』
『。』
ここで今まで何をしていやがったのか?ジャックがのうのうと伴川の前に現れ、ただの肉塊になったドラゴンの死体を喰らった…しかも、どうも彼の口ぶりから察するに伴川が先程披露したあの人間をやめた技はジャック直伝の、文字通りの『必殺技』らしい。
「ジャック…貴様、また授業を放棄して学校を抜け出したな?よって日給を二百円から百円に下げる。」
『WOOOOOOOOOO!!何故デスカァアアアアアアアアアアア!!?』
「当然だろうがァッ!マヌケェッ!!こういう時のために貴様を雇ったのを忘れたか!?大人しく学校に居れば四日市と長柄を危険に晒す心配も無かったものを貴様は…!!」
今更ノコノコ現れたジャックの職務怠慢に激怒し、伴川はただでさえ低い彼の日給を下げることにしたためジャックは悲壮な叫びを上げた。
ジャックの授業放棄は一度や二度じゃ利かないくらい毎度毎度の事であり、町に繰り出しては既に無人と化した駄菓子屋に無断で侵入して駄菓子を食べながらレトロゲームの筐体で遊びほうけたりなど…と、教師の風上にも置けない様な愚行を繰り返してる。それも化け物が場所を問わずに蔓延り、常に危険と怪奇が隣り合わせな幽刻町の学校に、いたいけな女子生徒二人を置き去りにして…減給されても当然だろう、因みにジャックの元々の日給は七千円だったが、上記の理由から現在は有り得ない値段になってしまったが完全な自業自得である。
『ナラ、貴方ガ学校ニ居レバ良カッタジャナイデスカ!?余所者ノ私ガ言ウノモナンデスガ!!』
「黙れィッ!!私だって、私だって本当は愛する学舎で生徒達と交流を深め、教育者として自ら導いてやりたいのだ…!!だが、私は『最前線』で戦う毎日…そんな余裕が何処にあるッ!?ならば貴様が私の代わりにあちらの地獄を味わってみるか?んん?」
『ア、結構デス。今ノ言葉ハ聞カナカッタコトニシテクダサイ。マジデ。』
ジャックは負けじと学校の責任者である伴川こそが学校に居るべきだと反論したが、伴川は現在、化け物が這い出る原因となってる開きっ放しの地獄の門付近の最前線…それも伴川の様な実力者ですら地獄と呼ぶ様な場所で他の町民と共に奴らと戦う毎日を送っているため、校長室の椅子で偉そうに踏ん反り返っているなど到底不可能だった…生徒二人のピンチを野生の勘で察知したため学校に来たが、この戦闘を終わらせたら速攻で再び地獄の門の最前線へと舞い戻るつもりであった。
『『『エギ…ギギギッ…!!』』』
一方、半数以下に数を激減されたドラゴン達は顔を青褪めさせて全身がガクガクと震えていた…先程まで容易にいたぶっていた小娘二人…結と棗とは完全に異なる強者…伴川の出現に怯えていたからだ。
『『『エギヒャアアアアアアアアアア!!』』』
ドラゴン達は背中から紫色の蛾の様な羽根を生やし、情けない鳴き声と共に羽根を羽ばたかせて FLYING IN THE SKY 、この場から逃げ出す…そう、彼らには最早戦う意志など皆無だったのだ。
「何処へ行こうというのかね?」
だが、この男には…伴川にはドラゴン達を見逃がすつもりなどは全く無かった。
「コォオオオオオ…はぁああああああ…ッ!!ぶるぁああああああああああああッ!!」
『モウヤダ、コノ人…絶対何処カノ研究所デ生マレタ、サイボーグカ何カダヨ。』
伴川は深く深く深呼吸をしてクールダウン…そして脚に力を込めると彼の姿が消えた。否、正確にはその場から完璧に人間を超越した…というか人間には絶対出せないだろうというくらい目にも留まらぬ信じられないスピードで跳躍し、逃げるドラゴン達を追う。そんな伴川の姿をジャックは見慣れてはいたものの彼の人間を越えた超人類ぶりに呆れていた。
「逃がさァアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアんンンンンンンッ!!」
『カッ!?』
『ラッ!!』
『ア。』
『ゲッ。』
『ポテトッ!!』
怒号を上げながら人間ロケットと化した伴川はドラゴンの腹を次々と貫きながら全くスピードを落とさずにそのまま上昇し続ける。
『『『エギィイャアアアアアアアアアア!?』』』
「ぬぅううううううううう!!ぶるぁ!ぶるぁ!ぶるぁあああああああ!!」
そして飛んでいた位置がバラバラだった残りのドラゴンの頭を踏み潰しながらの跳躍移動でグロテスクなスイカ割りを数回繰り返し、最後の一匹に対してはというと…。
「はぁあああああああああああああああああ…ンぉああああああああああ…ぶるァア゛アアア゛アアアアアアアァアアアアアアアアア゛アアアアア゛アアアアアアア゛アアアアアアアアアアアアッ!!!」
『ストッ。』
両手を構えて、その手から格ゲーじみた巨大な波動エネルギーの弾を放出、ドラゴンは内臓物をブチ撒けるどころか、肉の1g、血液の1mlすら残さずにこの世から完全に消滅した…。
「見たか、化け物め…これが人間の底力!人間の不屈!人間の魂だァアアアアアアアアアアア!!」
化け物は明らかに伴川の方である。
翌日、幽刻町総合病院。
「はい、むーちゃん、リンゴ剥けたよ。」
「ん、ありがと。」
『私ノモ、ドーゾ。』
「ちょ、おまッ…お前はこんな、食うのを躊躇われるもの渡すなッ!!しかも…ちょっとかわいいじゃねーかッ!!」
結のお見舞いに来た棗は彼女にウサギさんの形に切ったリンゴ、ジャックはやたらとリアルで細かい造型をしたウサギの形をしたリンゴを渡した。ドラゴンとの戦いに敗れたあの後、結はすぐさま病院に運ばれ、病院の唯一の生き残りである医者からの治療を受けた。今ではすっかり状態が安定しており、早くて二・三日後には学校に顔を出せるだろう。
「はあ…全く、まだまだアタシもあのオッサンの足元にすら及ばねーな…。」
結は頭をガリガリ掻きながら溜め息を深くついた…彼女も化け物に対抗出来る実力者とはいえ、まるで次元が違う存在である伴川とは大分差が開いている。彼に助けられた事で自分の力の無さを痛感させられた。
「で?校長はどうしたのさ?」
『校長先生ナラ、マタ最前線ニ戻リマシタヨ。』
「やっぱり…ま、仕方ないね。だってあの人は戦場に必要不可欠な存在だか…。」
ドラゴンを倒した後、どうやら最前線に戻ったらしく、それを聞いた結はどこか寂しそうな表情を浮かべたが…
「私がどうしたって?」
「…ら…って…!?」
「校長先生!?」
『何故ニ外ノ窓カラ!?』
最前線の戦地に向かったハズの伴川は何故か、病院の窓の外(三階)から顔を出し、普通に病室に入り込んで来た。
「何を驚く?私は校長だぞ?生徒の見舞いに来るのは当然ではないかね?」
「普通の校長は病室の窓から侵入なんかしねェーし!!」
「それに校長先生じゃなくても普通の人は窓から入って来ませんよ…。」
言動と行動から大きなズレを生じている伴川に結と棗は盛大にツッコミを入れた。
「それより、怪我は大丈夫か?」
「大した事じゃねーって…明後日くらいには…。」
「ふむ…そうか、これぐらいならば確かに…。」
伴川は結の怪我の具合を聞くが、彼女の口ぶりや状態から本当に重いものでは無いことを察すると、心なしか、穏やかな顔になっていく。
「長柄とジャックよ、悪いが何か適当に飲み物を買って来てくれ、ここまで物理的に飛んで来て少々疲れていてな…。」
「え?は…はい、いいですけど。」
『承知致シマシター。』
ここで何故か伴川は棗とジャックに買い出しを頼む、二人が出ていくと病室には伴川と結の二人きりになる。
「ふぅ…あまり私に心配させるなよ?」
「…あ。」
すると伴川は自身の岩みたいに硬く、ゴツゴツした無骨な手の平をそっと結の頭に乗せ、普段の人外じみたパワーをまるで感じさせない程良い力加減で優しく撫でる。
「へへっ…えへへ。」
結はというと、伴川に撫でられたと同時に彼女も彼女で普段の険しい顔つきはどこへやら…それこそ年頃の少女らしい笑顔(むしろ本来あるべき姿)を浮かべ、嬉しそうにしていた。
「また一段と派手に髪を染めたな、いい加減戻したらどうだ?」
「うーん…化け物に対抗するつもりでしたんだけど、戻して欲しいならアタシ戻すよ?」
「その方がいい、私はお前の元からの髪の色が好きだからな。」
「えへへー♪わかったー♪」
伴川は結の髪を撫でると同時に彼女の派手な髪に関して口出しをする。どうも元からこんなアホみたいな金髪では無かったようだ。これは結曰く、化け物を威圧するため、自身が舐められないようにするための意味合いを込めてるものらしいが、結は伴川の意見に嫌がる様子も無く、素直に髪の色を地の色に戻すことをニコニコしながら伴川に約束した。
「アタシちゃんと戻すよ、戻すから…たまには家に帰って来てよ、『父さん』♪」
「う…うぅむ…善処しよう、『娘』よ。」
「。」
『。』
病室から聞こえてきた結の衝撃的な発言に絶句した棗とジャックは手元に抱えたジュースの缶を床に落としながら化石にでもなってしまった様に固まった。
後にキチンと判明したことだが、伴川と結は正真正銘、血が繋がった『親子』である。因みに苗字が違うのは伴川の浮気が原因で結の母(即ち、伴川の嫁)と別れなければならないハメになったからだ。
魑魅魍魎の巣窟たる町・幽刻町、怪奇と戦いに満ち溢れる非日常を送る町民達に今はささやかな休息を…。
どうも皆様、なんとか短編だけは出せました(汗)槌鋸鮫です…最近は夏休みの宿題の如く執筆活動が滞りまくりの、ナマケモノが木にぶら下がってるかの様なダメな毎日を送っています。
今回書いた幽刻町は…正直、なんだこれは?と自分で思いました(汗)
主な原因は後半に現れた伴川がその大部分を占めてます…この人の存在のせいで怪奇(だろうか?)アクションがさらにハードなバトルアクションと化してしまいました…久々に書けたはいいものの、完全に方向性がおかしい…やはりちゃんと毎回書かないと文章もイロイロ変になってきますし…オチに至っては本気でなんじゃこりゃ?です(泣)
以下、作者の妄想的な配役です
伴川檻乃(イメージCV:若本則夫)
四日市結(イメージCV:山本彩乃)
長柄棗(イメージCV:浅倉杏美)
ジャック(イメージCV:真殿光昭)
尚、連載はネタ浮かびが難航してるためいつやれるかも心配になりますが、これからもよろしくお願いします、また、この作品の他にいくつか短編を上げてく予定(こちらもいつになるか不明ですが…)です
それでは、長くなりましたが槌鋸鮫でした!




