冒険者っぽく狩りでもしよう
トカゲちゃんにしがみついた俺は、神殿の裏にある水源地へと突入し盛大な水しぶきを上げた。
どうやらトカゲちゃんは着地が苦手のようだ。
俺が水から這い上がると、人型になったトカゲちゃんが宣言した。
「ボクはここに住むから1日1回は会いに来てね」
「ああ、俺はそこの神殿に住んでるからいつでも会えるぞ?」
「人型になるのは疲れるんだよ。大人になれば何日でも人型で活動できるんだけどね」
「そっか、じゃあ俺は皆に報告しないといけないからまた後でな」
神殿の外に出ると、村人全員集合状態になっていた。
「・・・で?どうなってる」とノヴァ
「トカゲちゃんはこの村に住むからよろしく!」
「ダンジョンってなんだ?どこに有るんだ?」とケモナー
「知らん」
エイミーさんと明星の人達が円陣を組んでなにやら会議を始めたので、獣人達の方へ近付くと熊が質問してきた。
「あのドラゴンはいつまでいるんでしょう?」
「え?ずっと居るよ?襲ってこないから大丈夫だよ」
「そうですか・・・皆、あのドラゴンは安全らしいから仕事に戻ろう」
熊が獣人達を解散させる。
どうやら、この展開に慣れてきたらしい。
獣人達を見渡すと、母狐の後ろに隠れて目に涙をためてる子狐を発見し、騒ぎで怪我でもしたかと思い近付くといつも通り俺の体をよじ登ってきた。
子狐を観察しても怪我とかは無いようだった。
たぶんトカゲちゃんが怖かったんだろう。
「!?」
なにやら視線を感じて後ろを振り返ると、小骨がスカートを握り締めてこっちをガン見してるし、崖の上からトカゲちゃんまでこっちを覗き込んでいた。
子狐でなんか変なフラグがたった?
選択を誤ると俺の田舎でスローライフが崩壊しそうな予感がする。
子狐を背負ったまま小骨をすくい上げるようにお姫様だっこし、全力で階段をダッシュしてトカゲちゃんの下へと移動する。
小骨が胸の前で手を組んで宙を見つめ、子狐が俺の髪を引っ張るが無視してトカゲちゃんの所まで進む。
「トカゲちゃん、紹介しよう。俺の嫁 小骨と娘 子狐だ!」
小骨が腕を天に向けて突き上げた後、泣き出した子狐の頭を撫でている。
やべぇ、何か間違ったらしい、小骨が世紀末覇王みたいなポーズとってた。
「じゃあボクはお妾さんだね!」
トカゲちゃんが俺の腕にしなだれかかって来ながら妾宣言すると、子狐の耳がピンと立って
「わたしも・・・」
とか言い出し俺の脚にしがみついてきた。
何これ?いつからエロゲに変わったのか。
おかしいな?VRMMOから村作りシミュレーションになってエロゲ(ヒロインALL人外)に変わったのか?
小骨が用事は済んだと言わんばかりに足取りも軽く神殿に戻って行く。
「子狐はもっと大きくなったらな~」
取り合えず、小骨とトカゲちゃんの広域破壊を伴うバトルが起きなかったから良しとしよう。
子狐を肩車して、トカゲちゃんに「また後でな」と言い残し神殿に戻る事にした。
神殿の前で円陣を組んで会議していた面々は何らかの結論に達したようだ。
「明星の人達は明日からダンジョン探しの旅に出ます!そして私は獣人の家を建てる前に実験的に倉庫兼寝室を建てます」
エイミーさんが決まった内容を発表してくれた。
「それで、荷物持ち兼戦闘補助に狼のスケルトンを貸して欲しい。出来れば1人1匹・・・」とノヴァ
「おう、そりゃ良いな。狼は2から7を連れて行けばいいよ」
こうして、翌朝からノヴァ達は崖沿いに森の端まで探索してくると言い残し旅立っていった。
暇をもてあました俺は、エイミーさんにトカゲちゃん用の鞍を作ってもらい山の上を探索する事にした。
手綱はブレスで焼き切れそうなので、鞍にバイクのハンドルの様な物を付けてもらい、鞍も踝と膝でホールドできる様にデザインしてもらったので、太刀を振っても落ちないだろう。
「ゲームが始まってはじめての冒険が今ここに!」
村を飛び立ち山を一つ越えた辺りを大きく弧を描くに飛翔するトカゲちゃんの上で、今更ながらに冒険を始めたという感覚に酔いながら獲物を求めて地上を観察した。
山の麓に小さな盆地があり、モンスターらしき影が点在している。
「トカゲちゃん高度を落としてあの盆地に近付いてくれ」
高すぎてモンスターの種類が特定できないので、接近してもらう。
どうやら、鬼?の様だ。頭に角を生やした2.5m位の人型で背中に大剣やら両刃の斧やらを背負っていて鎧も着ている。
弓でこちらに攻撃してきているのも居るが、トカゲちゃんが矢を回避しながら飛行している。
「トカゲちゃん一旦離れてくれ」
アクティブの飛び道具持ちにタゲを取られている状態はよろしくないので、一旦敵の視界から消えてタゲを切った後に端っこの方にいた奴を狙ってみよう。
「なるべく見つからない様に飛んで、盆地の端の方に1体で居た奴に攻撃しよう。俺が太刀で突くからトカゲちゃんは飛ぶ事に集中してくれ」
トカゲちゃんに作戦を伝えて、太刀を抜いて構える。盾は背中に背負っているので左手はハンドルを掴んでいる。
帰ったらエイミーさんに槍系の長物を作ってもらおうと考えながら鬼に向かって突撃を開始した。
「GYUAAAA!」
鬼が両手剣を構えたのを見てトカゲちゃんが咆哮を放つ。
一瞬動きが止まった鬼の横をすり抜けるように飛ぶトカゲちゃん。
俺の太刀は鬼の一瞬の硬直の間に首元から右脇に貫通し、鬼の鎖骨と肋骨を切断していた。
「グァ!」
鬼の悲鳴が聞こえてきたが、奴は左手で大剣を持ちこっちを向いた。
「トカゲちゃんもう一度だ!」
他の鬼達が向かってきていたので、攻撃を中止しようか迷ったがもう一撃なら行けるだろうと判断し、急旋回からの突撃を敢行する。
左手のみで突き出してきた鬼の大剣が俺のわき腹をざっくり切り裂き、俺の太刀は鬼の喉を貫通し首半分を切断する。
「マジ痛い!ハンパねぇ」
痛みは軽減されているはずなのにこの痛み、リアル世界ならはらわたぶちまけて死亡確定の重傷だ。
上昇していくトカゲちゃんの背の上で単体回復スキルを3回使い傷を癒した。
「あぶねぇ!あいつらめっちゃ強い。最初の一撃貰ってたら即死だったかも」
「GYUAAAA!」
「トカゲちゃん、咆哮を乱発するのはやめてくれ~、俺も耐えるのに一瞬固まっちゃうんだ」
どうやらトカゲちゃんはご立腹の様だ。
矢の届かない上空を旋回しながら、地上の様子を確認すると集まった鬼達が倒れた鬼から装備品を剥ぎ取り立ち去っていく。
むぅ、俺の戦利品が略奪された。
まあ良い、最大の戦利品は転がったままだ。
「トカゲちゃんちょっと離れた所に着陸しよう」
飛び去るトカゲちゃんを見て鬼達はまたバラバラに散らばって行ったのを確認した後着陸する。
何故か太い木の枝の上に無理やり着地した後に、地上に降りたがそこは気にしない事にしよう。
周囲を見渡し、危険な生物が居ない事を確認して、俺はトカゲちゃんをその場に残し倒した鬼の方へ接近していく。
木の陰から鬼が居ないのを確認し、見つかると厄介なので鑑定スキルは使用せず問答無用で倒れた鬼に魔法生命体召喚スキルを使用する。
魔法生命体に名前を付けますか? yes/no
yesを選択し「鬼」と名付けた。
他の鬼達に見つかる前に、トカゲちゃんと合流し村へ帰還する。
ちなみに鬼は鞍のベルトに縛ったロープでぶら下げて移動し、到着時は邪魔だったので村を流れている川に低空から投下した。
俺はと言うと水源地に水柱を生成した後、這い上がろうとした所で人型のトカゲちゃんに頭を踏まれ、
「あんな無茶するならもう連れてってあげないんだからね!」
と言うツンデレ?を頂いた。