骨達の物語(小骨編)
フェイ様はちょっと変わった人だった。
普段は私達に何の関心も示さないのに、火の精霊に竈に火を入れてもらったら驚き、掃除をすれば信じられない物でも見たかのようにこちらを振り返る。
使えそうな物を集めようと言い出したのに、ふらりと何処かへ行ったと思ったらレイン兄様を連れて帰ってきたり。
獣人が神殿の前で倒れたから慌てて呼びに行ったらまるでそうするのが当然のように獣人の傷を癒したし、同じ人族が獣人たちを追っているのに獣人達を助けるように兄様たちに指示を出した。
普通、人間は獣人や亜人を助けたりしない。なのに逃げて来た獣人達を神殿に匿い、獣人達がおびえない様に自分は外に出て見張りをしている。
何故かはわからないけど、フェイ様の力にならないといけない。そんな気がする、神の導かも知れない。
フェイ様に頼まれた獣人たちの食べ物を用意して、配っていると獣人の子供が3人外に出て行くのに気付いた。せっかく獣人たちの安全に気を配ってくれているのに外に出るなんて!急いで連れ戻さないと。
3人を追いかけ外に出た私は神殿を指差しながら声が出ない事をもどかしく感じていた、フェイ様が3人に気付きこっちを向いた。視線は3人から私に移り、口元がふっと綻ぶのが見えた。
何だろう?胸が苦しい?立ち止まってフェイ様を見つめる、3人に好きなようにさせながら「落ちる!落ちる!」と楽しげにしている。1人の耳を優しく撫でながら・・・
呆然とその光景を見ていたら2人が川に落ちた。フェイ様は川を覗き込んだ後、残った一人を肩に乗せて川に飛び込んだ。私は慌てて橋に走り上から様子を伺う。
歓声を上げながら泳ぐ3人をフェイ様が追いかけ、捕まえては放り投げている。
私も一緒に泳いだらあの娘達と同じように接してもらえるだろうか?命を救ってもらった恩も返さない内にもっとかまって欲しいなどと願うのはダメかもしれない。そう考えながら気付いたら橋の上から水面へと飛び込んでいた。
腕を必死に動かしても体が浮かない。何故だろう、ほんの数日前までは泳げたはずなのに・・・混乱する私にフェイ様が手を伸ばし背負って岸まで運んでくれた。
恥ずかしくて顔を見れない、私は狐耳の獣人の手を取り神殿の方へ歩き出した。残りの二人も満足げな顔で後ろを付いてくる。
神殿に戻って少したった頃、複数の獣人が神殿に飛び込んできた。兄様達とフェイ様がホーンバイソンと戦っているらしい、大人の獣人が様子を見に行く中、私は子供達が神殿から出ない様に入り口で見張りをしていた。
戻ってきたフェイ様は明らかに魔法を使いすぎている状態で、顔色もすごく悪かった。獣人たちは気付いていない様子だけどいつ倒れてもおかしくない。兄様達を見ると傷だらけで苦戦したことが窺えた。フェイ様は神殿の扉を閉じた後、兄様達を連れてもう寝ると言い残し部屋へと戻って行った。
その直後に、神殿に魔力が満ちフェイ様が魔法を使ったのを感じ取った。意識を失うほど魔法を行使すると寿命が縮まってしまうと言われているのに、兄様達の為に魔法を使ったらしい。
明日起きた時の為に少しでも栄養のある物を用意しようと、私は兄様が持って来た米の籾殻を丁寧に外す作業を黙々と続けた。
翌朝、芋と玄米のおかゆを用意し待っていると、また魔力が神殿に満ちた。無理をしないで欲しい、そう思いながら兄様達の怪我を完全に治そうとしてくれる事に感謝もしていた。
兄様達を引き連れて食堂に来たフェイ様におかゆを差し出す。すると、私の方を向きすごく嬉しそうな表情を見せながら「お!ありがとう。腹減ってたんだ」と言って私の頭を優しく撫でてくれた。
撫でて?混乱した私はとっさに兄様の後ろに隠れてしまった。
私が拒否したと思われてないか心配になり、そっと様子を窺うと満足そうな笑みを湛えながら「おかわり」と皿を私の方へ突き出してきた。
兄様達は顔を見合わせ笑っている(声は出てないけど)、私は急いでおかわりをよそって持って来た後、食べ終わるまでじっと傍に立っていた。するとフェイ様は私の頬を指先でつつき、兄様の後ろに隠れようとするとニヤニヤ笑う兄様が体をずらし、フェイ様の前に私を出しまたつつかれる。
ずっとこんな幸せな時間が続けば良いのにと思っていたら、獣人がやってきてあっと言う間に幸せな時間が終わってしまった。
その日、フェイ様は月影の女神の神官のみが使える秘術でホーンバイソンを魔法生命体へと変化させ、バイソンの肉を獣人たちと共に夜になるまで食べていた。私は焼けた肉を切り分けながら、フェイ様の楽しそうな顔をずっと眺めていた。
それからしばらく書庫に閉じこもって食事の時以外出てこなかったフェイ様が、獣人の作った家を見たとたんに職人を探してくると言って旅立ち、何日も村へ帰ってこなかった。
やっと帰ってきたフェイ様は、とても職人には見えない人間の少女を連れていた。職人を探すと言っていたのに・・・と思いながらフェイ様のマントを引っ張ると、少女に私を紹介してくれた。
「エイミーさんこの子が~~です」私の事をなんて呼んだか聞き取れなかった
「・・・その子下さい」
「~~は俺の嫁です。あげません」
「そこを何とか・・・」
嫁?聞き間違いでなければ妻とか配偶者と言う意味のはず、初対面の人に妻として紹介されてる。
何も考えられなくなった私は、その場から逃げ出して調理場でうろうろしながら状況を整理していたらフェイ様に突然声をかけられた。
「町で鍋とか食材買ってきたからここに置いとくよ、色々買ってきたから料理頼む」
さっきの会話の訂正とか、事情の説明とかもしようとしない事からエイミーと言う人間の少女に私の事を妻といった事は本心の言葉だったのだろうと思う。そう言うことは人に言う前に私に言う物だと思うけど、ひょっとしたら人間とエルフではしきたりが違うのかもしれない。
私は弾む心を抑え、新しいフライパンを片手で持ち上げ使い勝手をチェックし、バックから香辛料とか砂糖とかを取り出して今晩の料理は何にしようと考えていた。
~~~ 実験体ゴブリン ~~~
主に召喚され、忠誠を誓った俺は3匹のゴブリンへの突撃を命じられた。
ゴブリン1匹と俺でほぼ互角、3匹相手では勝てる道理もない。しかし、主は突撃する俺の後を追ってきている。俺を囮に逃げ出すならば方向が逆だ、きっと何か勝算があるに違いない。
ゴブリンに囲まれ倒されそうになる俺は主の魔力に包まれた。あっという間に体の傷が癒された事を理解した俺は、傷つくことを恐れずゴブリン2匹をなぎ倒した。
最後の1匹と戦いながら、そろそろ傷を治して貰えると考えたが主からは魔力の使用を感じない。生き残る為にはゴブリンを倒すしかないと武器を振り上げた所でこん棒が俺の背骨を砕き、そのまま俺の意識は永遠に戻ることがなかった。
骨=アラン
小骨=リーナ
1=レイン