骨達の物語り(骨編)
「アラン、敵の侵攻を防ぎ切るのはもう無理だ!リーナを連れて村から逃げろ」
「兄さん!俺も一緒に戦「ダメだ!」う」
「リーナを誰が守るんだ、ここで女神の巫女まで失ったらどうなると思ってるんだ!俺が敵を引き付けるから、お前達は逃げろ」
「すまない、兄さん・・・」
俺達の村は人間の騎士団に攻められ、住民の殆どは森の中での戦闘で失われていた。
人間達は、獣人や亜人を敵とみなして攻撃してくる。俺達エルフが一体人間に何をしたと言うのか。
魔獣が多く住む危険な森の中を通り抜けてまで、この小さな村を襲う理由がわからない。
「俺達兄妹は女神様の加護を受けている。運が良ければまた会えるさ、さあもう行け敵が来る前に」
「リーナ行くよ」
「兄様・・・」
俺は泣き崩れるリーナを抱き抱え、村から離れるべく全力で走った。稲穂が揺れる中を兄が弓を構えて移動していくのが見えたが、視線を無理やり外して村の外へ出ようとした。
村の出口に辿り着いた時、そこは既に包囲されていた。兵士が槍を構え前進してくる。
「我々に何の恨みがある!何故こんな事を!」叫ばずにはいられなかった。
「フン!邪神に仕える亜人風情が何を言っている、この世界は太陽神の加護で成り立っているのだ。悪は滅び去るのみよ」太陽神の神官が吼える。
「馬鹿な!全ての神は対等な存在だ、正義も悪も無い!人間はそんなことも忘れてしまったのか?」
「そのような考えが悪だというのだ!滅びろ邪悪な者共が!」
兵士達が俺たちを攻撃しようとしたその時、何かの巨大な影が大地を覆った。
「アラン兄様、ドラゴンが・・・」
リーナの上に覆いかぶさり地面に伏せたその時、全てを焼き尽くすような炎の渦に飲み込まれ俺は意識を失った。
どの位意識を失っていただろう?
目の前には我らが女神の祝福を受けた「人間」が魔力の使いすぎで立ちくらみでも起こしたのか、顔を両手で押さえてしゃがみこんでいた。
俺の傷を癒してくれたのは彼だろう、つい先ほどまで感じていた筈の人間への激しい怒りや憎しみがどういう訳か感じられなくなっている、俺は彼の肩にそっと手を起き声を掛けようとした。
「・・・」声が出ない。ドラゴンのブレスで焼かれたのだ魔法と言えど完治出来なかったのだろう。
「まんま~~やんけ!」彼が何か叫んだが、聞き取りにくい。耳もまだ治っていないらしい。
俺は、何とかリーナの安否を確かめようと声を出そうとするが、やはり声は出ない。
「~~、取り合えず砂まみれなのを何とかしろ」
彼が俺に語りかける言葉がようやっと聞き取れた。
俺は、妹や兄が同じように助かっているかもと思い村の中央へ向けて歩き出した。
そこに有ったのは無残に倒壊し焼け焦げた村だった。
俺は彼の言葉に従い、川で汚れを落とすことにした。水に浸かって冷静になろうと・・・
剣と盾は女神に祝福を受けた際に賜った物だ、水中に浸けるのは避けたい。岩の上に置いた後、川に飛び込み鞘の中に入った土を払う様に何度も振り回した。鎧の隙間に入っていた砂や血によって来たと思われる虫が水に押し流され、黒鋼で出来た鎧も元の黒く鈍い光沢を取り戻した。革の下服はダメになった様だがブレスに焼かれれば当然だろう。
水から上がり剣と盾を水ですすいだ後、風の精霊に念じ水を飛ばしてもらう。
彼は神殿を調べるようだ、俺は村の入り口に戻りリーナを探そう。俺が生きているならリーナも生きている可能性が高い。
リーナはすぐに見付かった、俺が倒れていた場所のすぐ近くで土に覆われていた。風の精霊に頼み傷付けない様に土を退かし、空中に持ち上げて火傷に響かない様にゆっくり神殿に戻る。彼なら妹を助けてくれるかもしれない。
神殿に戻ると彼の姿が無かった、屋根の残っている建物は無さそうだからすぐに神殿に戻ってくるに違いない。神に祈りを捧げていた所に彼は帰ってきた、私と同じように神に祈りを捧げる彼に妹の治療を頼みたいが声が出ない。妹を指差し彼に顔を近付け何とか判ってもらおうする俺を彼がチラリと見た後、普通の回復魔法ではありえない魔力の奔流が妹に向け放たれた。
彼は魔法を放つとそのまま倒れてしまった、魔力の枯渇だろう。私の治療だけでも辛そうにしていた所に妹の治療まで無理強いしてしまった。
リーナが立ち上がる、完全に回復した様に見えるが、口を動かしていても声が出ていない。
俺達は顔を見合わせたが結局、彼が目を覚ますまで魔獣や人間に襲われないよう見張りをするしかなかった。
翌朝、彼は目を覚ますとリーナを見つめていたが「グゥ~」と腹がなっていた。リーナが芋を指差し首を傾げると通じる物が有ったのか「ああ、頼む」と言い、調理場へと歩いていった。